9
さぁ、明日も楽しい日になりそうだ。私はそう思い眠りについた。
翌朝、私はいつも通り支度をし食堂へと向かった。
すると、そこには既にアリサの姿があった。
「おはようございます、お姉様」
そう言って微笑んでくれる。
「ええ、おはようアリサ」
挨拶を交わし、朝食をとる。
今日のメニューはパンとスープだ。
美味しくいただき、食べ終わるとアリサが話しかけてきた。
「あの……お姉様にお願いがあるんですけど……」
アリサは少し遠慮がちに言ってきた。
「何かしら?」
「その……髪を結ってくれませんか?」
恥ずかしいのか下を向いてしまい、顔はよく見えない。
けれど耳まで真っ赤になっているのが見える。
「もちろんいいわよ」
私は快く了承した。
「本当ですか!?ありがとうございますお姉様」
アリサは満面の笑みを浮かべた。
そんなアリサの可愛さにやられそうになる。
「じゃあこっちに来てちょうだい」
私は自分の席から立ち上がり、椅子を用意してあげた。
「はいっ!」
アリサの髪はさらさらのロングヘアでこれを結うとなるとセンスが試される。
俺女の髪なんて結ったことないぞ……。
そこを記憶を頼りになんとか結い上げた。
我ながら会心の出来だ。
「出来たわ」
「おぉ~、すごいですお姉様!」
アリサは鏡を見て感嘆の声を上げている。
「ふふっ、良かったわ」
アリサの喜ぶ姿を見るととても嬉しくなる。
「えへへっ、嬉しいな、お姉様に髪を結ってもらえました」
アリサはそう言い残し、部屋から出て行った。
今日も一日頑張ろう。そう思える朝だった。
朝食後、学園へと向かう。
その途中にある噴水の広場にはたくさんの人が集まっていた。
「なんでしょう?お祭りですかね?」
アリサが俺に尋ねてくる。
「どうなのかしらね」
そんなことを話しながら進んでいくと、人混みの先頭が見えてきた。
「これは……」
そこには掲示板に剣舞祭の開催の張り紙がされていた。
「剣舞祭、今年もあるんだ……」
「剣舞祭とはなんですか?」
アリサが不思議そうに聞いてきた。
「毎年この時期になると行われる武闘大会のようなものよ」
「へぇー、楽しそうですね!」
アリサは目を輝かせながら言った。
「まぁ確かにね」
剣舞祭の剣戟は見ものの一つだ。
毎年腕に覚えのある者たちが集い剣を交える。
この国でもかなり人気のある催し物で、多くの国民たちが楽しみにしている。
「参加してみたいです!」
アリサはそう言って張り紙の方に駆け寄っていった。
「ちょっと待って、あなた出るつもりなの?」
「はい!楽しそうじゃないですか!」
「ダメに決まってるでしょ!怪我でもしたらどうするの?」
アリサの唐突な言い出しに困ったように宥める。
「剣舞祭は腕に自信のある人しかでちゃいけないの、やってみたい気持ちはわかるけど私たちは剣の教えを受けてないわ」
「そうですね……残念です」
アリサは肩を落としそういった。
「ほら、もうすぐ授業が始まるわよ」
私はそう言ってアリサと別れ教室へと向かった。
教室に着くと、リヒトがいた。
「おはようリヒト」
「ああ、おはようエリー」
リヒトは相変わらず無口だ。
私が言うのもなんだがこんなにもイケメンなのに、どうして婚約者がいないのだろうか。
「ねぇ、貴方って恋人とかいないの?」
前から気になっていたので、思い切って聞いてみた。
「……いや、いない」
「へぇ、意外ね」
「前にも言ったが俺は女が苦手なんだ」
そういえばそんなこと言っていた気がする。
「でも私とは話せてるじゃない」
「ああ、そこが俺もよくわからない、何故エリーとだけは話せるのか」
彼自身も疑問に思っていたようでその真相は分からずといったところだ。
けれど俺はそれを知っている。
転生するときに女神様がくれたスキル・魅了のせいだ。
この世界に来てからはモテまくってたいたがそれもこれもこのスキルの仕業だ。
このスキルは多くのメリットをもたらしてきてくれたがストーカーなどのデメリットもあった。
お陰で俺は男性恐怖症になってしまった。
だがリヒトは何故か大丈夫なのだ。
なぜなのか理由は分からないが、多分彼も女性恐怖症だからだと思う。
そして彼は寡黙なので俺も安心できるのだ。
きっとそんな感じだろう。
そんなことを考えていると先生が入ってきた。
さぁ、楽しい学園生活の始まりだ。
剣舞祭が開催されるという張り紙を見てから数日経った。
あの日からアリサはずっと剣舞祭に出たいとぼやいている。
確かに興味はある。それにアリサの願いを叶えてあげたいという想いもある。
けれど俺たちは剣士じゃない。
残念ながらアリサの期待には応えられえそうにもない。
そもそも俺には前世の記憶がある。
だからといって剣術などに精通しているわけではない。剣を握ったこともなければ剣道すらやったこともない。
この世界の普通の女の子よりかは強いと思うが、それでも所詮は素人だ。
流石に危険すぎる。
もし万が一の事があったら取り返しのつかないことになる。
いくらアリサの望みとはいえ、却下せざるを得ない。
まぁ、本人に言えば諦めてくれるだろうと踏んでいるのだが……。
案の定アリサはその日のうちに諦めていた。
うん、これでいいんだ……。
そう自分に言い聞かせて、俺はその日を終えた。
翌日、いつものように学園に向かう。
アリサは今日も元気に登校している。
学園に着き、アリサと別れると、いつも通りに教室へと入った。
今日は珍しく俺が一番乗りだった。しばらくするとリヒトがやってきた。
ふぅ、なんとか一番にならずに済んだぜ。
席に座り、ふと外を眺める。
窓の外には中庭が見える。
そこには、アリサと知らない男子生徒が一緒にいた。
あれは誰なんだろうか? アリサが他の男と話している姿なんて見たことがない。
というか今まであったことがあるのか? そんなことを思っているうちにどんどん人が増えていった。
クラスメイトたちが次々と入ってくる。
そうこうしているうちにアリサと男子生徒はいなくなっていた。
アリサは一体何をしていたんだろうか。
少し気になったが特に気にすることも無く、時間が過ぎていった。
放課後になり、俺は帰る準備をしていた。
アリサは友達と話しながら帰り支度をしている。
やはり、どこか様子がおかしい気がした。
俺を見つけるとアリサが駆け寄ってくる。
「お姉様、お待たせしました」
「あら、友達とはもういいの?」
「はいちゃんとお別れしてきたましたから」
そういうと二人で馬車に乗り込む。
「アリサ、今朝中庭でアリサの姿をみたのだけれど何してたの?」
アリサはハッとしたかの表情を見せると少し俯きボソボソと語りだした。
「実は今日男の子から告白をされて……でも私どうしたらいいのかわからなくて断ってしまったんです」
そうだったのか、アリサほどの容姿ともなれば男子も放ってはおかないだろう、ただ初等部という微妙な年齢というのもあってそういった話題はまだ早いという空気があるのだ。
初等部のアリサからすれば一大イベントだ。常日頃から言い寄られてた俺はとは大違いだ。俺の場合は、リヒトがいつも助けてくれていたが、リヒトも忙しい時があり、そういう時は一人で対処していた。
その時は本当に大変だったが今では懐かしい思い出である。
そんなことを考えていると、アリサがこちらを見つめていることに気がついた。
いけない、今はアリサの話に集中しよう。
俺はアリサの頭を撫でながらいった。
きっとアリサも不安なのだろう。
「大丈夫よ、アリサには私がついてるわ」
そう伝えると、アリサの顔に笑顔が戻った。
可愛い妹のためなら俺はなんだってするさ。
その後、家に着くまで他愛のない会話を楽しんだ。
俺は自室で考え事をしていた。
何故アリサはあのような行動を取ったのだろうか。
断るにしても他にもっとやり方はあったはずだ。
何故わざわざ人気の少ないところで断ったのか。
そして何故そのことを俺以外誰にも言わなかったのか。
まさかとは思うが、アリサに好きな人ができたんじゃないのか。
だがもしかしたら、相手が悪いやつで騙されている可能性もある。
よし!ここはお姉様が一肌脱いでやろうじゃないか。
そうと決まれば早速行動開始だ。
俺はアリサの部屋に向かった。
コンッ コンッ 扉をノックするが返事がない。
まだ帰って来ていないのだろうか。
もう一度ドアを叩くがやっぱり反応はない。
仕方ないので自分の部屋に戻ることにした。
しばらくして、アリサが帰ってきた。
俺を見るとアリサは何かを言いかけたがすぐに口を閉じてしまった。
俺には何も言ってくれなかったがきっと俺に心配をかけまいとしての行動だろう。
やはりアリサは優しい子だ。
けれど、いつまでも隠し通せることではない。
「アリサ、何かあったの?」
直球で勝負することにした。アリサは動揺し、俺から視線を外すと、ボソリといった。
やはり何かあったらしい。
俺はアリサを抱き寄せると耳元で囁いた。
アリサはビクつきながらもゆっくりと口を開いた。
アリサ曰く、告白を断った理由というのが、別に好きな人がいるらしい。
「アリサ、言いたくなければいいんだけど差し支えなければどんな人か教えてくれないかしら?」
アリサは暫く俯いたまま赤面していたがようやく教えてくれた。
「年上ですごく頼りになる人でここぞと言う時に守ってくれそうな人……」
「へぇ~そうなんだ」
アリサが年上を好きになるのは正直意外だった。
でもまぁ初等部の男子はまだまだガキだからね……。
年上に惹かれるのも無理はない。
「ずっと憧れてたんです!」
そこまで言わせるはとは一体どんな人なのだろう?
気になって聞いてみたがアリサははぐらかすようなことばかりで中々教えてくれない。
どうやら本人が言いたくないようなのでこれ以上深掘りはやめておく。
「でも素敵じゃない、私応援するわ」
「本当ですか!?」
アリサは嬉しさを隠しきれない様子で笑みを浮かべていた。
ふぅ、ひとまずは安心かな。
それから数日経ったある日、また事件が起こった。
アリサが風邪を引いてしまったのだ。
この世界では珍しくはないが、やはり体調が悪くなると心細くなるもので、アリサは寂しいのか俺がそばにいるときは常に甘えてくる。
コンコンッと扉をノックする音がする。
「はぁい、今開けますわ」
俺はノブに手をかけ扉を開けた。
そこにはリヒトとハッシュが立っていた。
アリサは真っ赤に赤面して布団を被ってしまった。
「あら、二人とも珍しいわね」
「エリーが今日学園を休んだから何事かと思ってきてみたんだ」
ハッシュが心配そうに言った。
「どうやら原因はアリサのようだな、一人で看病していたのか?」
そんなことはないうちには使用人がたくさんいる、だがアリサがどうしてもというので今日は学園を休んだのだ。
わけを話すと二人とも納得した様子だった。
「長居して邪魔になると悪い、俺たちはここで帰らせてもらう、二人の無事も確認できたしな」
「アリサ、早く元気になれよ!」
寝巻姿を見られたくないアリサであったがこういわれては返事をせざるを得ない。
「お、お二人ともお忙しいところありがとうございました、お見舞いにきてくれてうれしいです」
赤面しながら俯きがちでやっと絞り出した言葉だ。
「いいってことよ、元気そうならそれが一番だ」
「また学園で会おう」
そういうと二人は帰ってしまった。
当のアリサは風邪のせいではない赤面をしながら俺に質問する。
「私変じゃなかったですよね?」
「病人なんだし当たり前でしょ」
俺は笑いながら答えた。
アリサは少しムッとした表情を見せた。
アリサも年頃だし、恋に憧れを抱くのもわかるけど、初恋相手が年上ってハードル高くない? まぁアリサには幸せになってもらいたいな。
そんなことを考えていると、アリサが何かを思い出したかのようにいった。
俺がベッドの方を見るとアリサは恥ずかしげもなく服を脱ぎだしたところだった。
俺は慌てて目を背ける。
いくら姉妹とはいえ、これはさすがに無防備すぎるんじゃないか。俺は脱いだ服を着るように促すと、アリサは頬を膨らませて抗議をしてくる。
可愛らしくはあるが、それとこれとは別問題である。
俺だって男なのだ。
いつ理性が崩壊するかもわからない。
それに今は熱があって弱っている状態だ。
もしものことがあれば責任なんて取れない。
俺が説得すると渋々ではあるが従ってくれた。
アリサは俺のことを信頼してくれているのだろうか。
だとしたら嬉しい限りだ。
俺の正体を知ればきっと幻滅してしまうだろう。
俺が嫌われるのは一向に構わないのだが、せっかく仲良くなれたのでできればこのままの関係でいたい。
俺はアリサが寝付くまで手を握り続けた。
翌朝目が覚めると、アリサはまだ眠っていた。
まだ顔色は良くないが昨日よりかはだいぶ良くなったように見える。
俺はアリサの部屋から出ると朝食を食べに向かった。
アリサは俺より早く起きることが多いからな……。
食堂に着くと、既に皆座っており、俺が最後の一人だったようだ。
アリサがいないことに気が付いていないのだろうか、いつも通りの時間に席に座って食事を待っていた。
アリサが来てないことを告げると皆が驚いた様子だった。
アリサは体調を崩していることを伝えると皆が心配そうな顔をした。
アリサは愛されているな。
食事を終えると、アリサのお見舞いに行くことにした。
もちろん一人ではない。
お父様とお母様も一緒に来てくれた。
アリサの部屋の前に来ると、ノックをして部屋に入る。どうやら眠っているようだったので、起こさないようにそっとしておく。
その日はアリサの看病を続けた。
次の日にはすっかり元気になったようで、笑顔を見せるようになった。
アリサの看病をした翌日、アリサの体調も良くなり、すっかり元気を取り戻したようだ。もう心配はないだろう。
そう思いつつも念のため様子を見ることにした。
アリサは学園に向かうための準備をしている。
制服を着て髪を整えたアリサは見違えるほど綺麗になっていた。
学園へ向かう馬車に乗ると、隣に座るアリサが話しかけてきた。
先日のお礼をしたいので放課後時間を作ってほしいとのことだった。
断る理由もないのでありがたく受けることにする。
俺の男性恐怖症もだいぶマシになってきた気がする。
アリサが一緒だからかもしれないが、普通に接することができるようになってきた。
学園に到着すると、アリサは女子生徒に囲まれていた。
アリサは人気者だな。
俺は男子から羨望の眼差しをながらも教室へ向かった。
最近は男性恐怖症もだいぶマシになり普通に男子生徒とも接することができるようになった、それでもまだハッシュとリヒトの護衛は続いている。
学園の授業は退屈だ。
前世では勉強などほとんどしなかったが、この世界ではある程度知識を身につける必要がある。
しかしアリサに好きな人ができたのが意外である。
あんなにも奥手のアリサが好きというからには只者ではないのだろう。
やがて昼食の時間となった。
「よっエリー、飯食いにいこうぜ」
振り返るとそこにはハッシュとリヒトの姿があった。
その日の昼はアリサの好きな人の話題で盛り上がった。
「アリサの好きな人ってどんなやつなんだろうな」
「さぁわからないわ、詳しく聞いてないもの」
ハッシュの問いに正直な感想を述べる。
「わからないったってお前姉だろ?少しくらい聞いてるんじゃないか?」
「年上で頼りになる人としか聞いてないわ、それ以上詮索するのも野暮だし」
確かになぁといった表情で黙るハッシュ。
「年上ということは初等部ではなく中等部か高等部の人間だろう」
リヒトが冷静に分析する。
「とにかくアリサに好きな人ができたんだ、応援してやろうじゃねぇか」
ハッシュはそう言って俺の肩を叩く。
「でも応援って何すればいいのかしら」
「ふむ、現状わかっている情報が少なすぎて何も行動できないな、とは言っても野暮なことではあるから見守るのが一番だと思うが」
「なぁにお堅いこと言ってんだよリヒト!アリサに婚約者ができればそれはいいことじゃねぇか」
そうアリサの想い人が婚約者になってくれるならこれほど喜ばしいことはない。
しかし自分の婚約者探しままならないのにアリサに時間を割いてられるのか。
早く俺の婚約者を見つけないとあのヒステリー男の餌食になってしまう、それだけは避けなければ……。




