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「おいおい、どうなってんだ?」
「何かあったのかしら?」
「とりあえず行ってみるか」
人混みの先にはハッシュがいた。「おっエリー来たか、見てくれよこいつらみんなリヒトのファンだぜ」
訓練生たちが俺の方を見る。
「おいおい、こんな可愛い子誰だよ」
「まさかお前の彼女か?」
「いや違うけどよ」ハッシュが焦りながら答える。
「初めまして、私の名前はエリザベスよ、よろしくね」
そう言うと俺はスカートの端を掴み軽くお辞儀をする。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「まじかよ!」
「めっちゃかわいいじゃん!」
訓練生たちは大盛り上がりである。
「おいおい、あんまり騒ぐなよ、エリーが困ってるだろ」
昨日来ていなかった訓練生たちから歓喜の声が上がる
「大丈夫よ、そんなことより何があったの?」
「あぁそうだった、実はよ昨日俺がリヒトと勝負してなそしたらこのリヒトのファン共が集まってきてな」
「あらそうなの、でもどうして?」
俺は不思議に思い尋ねる。
「俺を追い詰めた男として男子からも人気があるんだ」
そうか、ハッシュって強いもんな、それを引き分けとはいえ追い詰めたんだからな。
「俺もあそこまで追い詰められたのは初めてだ、とんでもない新人が入ってきてワクワクするぜ」
そういうハッシュを尻目に今度は俺が質問攻めにあう。
「エリザベスさん彼氏はいるんですか?」
「もしよかったら俺と」
「好きです付き合ってください」
等々の質問や告白を受けて困っていた。すると突然後ろから声をかけられた。
「エリー!」
振り向くとそこに居たのはリヒトであった。
「リヒト!助けに来てくれたの?」
「あぁ、そのつもりだ」
質問攻めにあってる俺を助けてくれるらしい。
これはありがたいので厚意に甘える。
「ちょっと待った!」
「どうしたの?ハッシュ」
「なに二人で盛り上がってんだよ!ここは俺たちの場所だぜ」
ハッシュが間に入ってくる。
「悪いがエリーは俺と帰る約束をしている」
「えっ?いやまだ何も言ってないんだけど」
「いいから行くぞ」
「あっちょっ」
俺はリヒトに手を引っ張られその場を後にする。
「なっ!おいリヒト抜け駆けすんな!」
ハッシュも追いかけてくる。
「おい、リヒト、どこに行くんだよ」
俺はリヒトに手を引かれて走り続けている。
「すまない、つい咄嵯に」
「ふぅ、助かったわありがとう」
俺は立ち止まり一息つく。
「それでどうしたの?急に」
「いや、あいつらにエリーが絡まれていたからな、俺のせいでもあるから何とかしようと思っただけだ」
「別に気にしなくて良いのに」
「それでもだ」
リヒトは責任感が強いようだ。
「おいリヒト、どうしたんだよ急にエリーを連れ出して」
「あの場にあのままいてはまずいと思ったんでな」
確かにといった様子でハッシュはうんうん首を振る。
「それでこれからどうするんだ?」
「とりあえず家に帰る」
「じゃあ一緒に帰ろうぜ」
「なぜだ?」
「なぜだってそりゃあ」
「俺もエリーと一緒に帰りたいからだよ」
ハッシュが間髪入れずに答える。
「だったら二人共私の馬車に乗る?アリサもいるけど送っていくわ」
結局二人を送っていくこととなり馬車に乗り込む。
馬車では既にアリサが座って待っていた。
「あ、お姉様おかえりなさい、それにハッシュさんお久しぶりです!それとそちらの方は?」
そういえばアリサはリヒトと初対面だったな。
「彼はリヒトよ」
「リヒト・ラインハルトだ、よろしく」
「アリサ・フォンティーヌです初めまして」
お互いに自己紹介を終える。
「そうだ、せっかくだし晩御飯を食べていけば?」
「いや流石にそれは迷惑だろう」
「いえ全然大丈夫ですよ」
「まぁ、そう言うならご馳走になろうか」
「やったー!ハッシュお兄様も一緒だ!」
こうして三人を連れて屋敷に向かうのであった。
「ここが私の家よ」
俺は屋敷の前で止まる。
「久しぶりに来たけど。まじでデカいな」
「すごい大きいですね」
「おい、ハッシュ、あまり騒ぐな」
「おっおう」二人は呆然としている。
「さぁ中に入って」
玄関を開けて中に招き入れる。
「お嬢様お帰りなさいませ」
「ただいま戻りました、皆に伝えてください」
「かしこまりました」
使用人の一人が指示を出しに離れていく。
「お姉さま!私今日リヒトさんとお友達になったんですよ!」
アリサが嬉しそうに報告してくる。
「そうなのね良かったじゃない」
「はい!」
馬車の中ですっかり打ち解けたようだ。女性が苦手と言っていたが子供は平気なのかな?
「ねぇリヒト、ハッシュ、ご飯食べていきましょう」
「だが、本当に良いのか?」
「もちろん!遠慮しないで」
「わかったでは頂こう」
食堂に移動して席に着く。
お父様とお母様は一足先に食事を終えていたようだ。
俺の帰ってくる時間が遅かったのもあるし、何より男連れだとばれては何を言われるかわかったもんじゃない、気を改めて食事を始める。
「それじゃあいただきます」
「「「「いただきます」」」」
食事が始まるとリヒトは黙々と食べる。
「おいしい?」
「ああ、とても美味しい」
「そっかぁよかった」
「ハッシュ、あなたちゃんと野菜も食べないとダメよ」
ハッシュは好き嫌いが激しいので注意する。
「へいへいわあったよ」
「ほらハッシュ、口元についてるわよ」
「うわマジか恥ずかしいぜ」
「まったくもう」
リヒトはアリサに質問攻めにあっていた。
「リヒトさんはいつ頃から剣術を始めたんですか?」
「そうだね?3歳から始めて13年くらいになるかな」
「そんな前からですか!」
「ええ、最初は遊び感覚だったんだけど。そのうち夢中でやるようになったんだよ」
「なるほど、リヒトさんの剣の腕はその頃に培われたのですね」
「いや、その頃はまだそこまでではなかったと思う」
「でも今は騎士団長クラスに匹敵する腕前なんでしょう?」
実際リヒトの剣術は騎士団でもトップクラスの成績だ。
「いやまあ、それはそうだけど」
リヒトは照れ臭そうに答える。
「俺も強くなりたいな」
「ハッシュは十分強いわよ」
ハッシュの剣術の腕前も騎士団に匹敵するクラスだ、ハッシュはまだまだ上を目指したいと言っているが、今のままでも十分強いと思う。
「いや、まだまだだ。俺はもっと強くなってエリーを守れる男になりたいんだ」
「ふふっありがとう」
「なんだよ急に笑い出して気持ち悪いな」
ハッシュは照れくさそうに頭を掻く。
「なんでもないわよ」
「リヒトさんはどうして女性恐怖症になられたのですか?」
アリサは興味津々といった様子で聞いてくる。
「それは、その」
リヒトは答えにくそうにしている。
「アリサ、あんまり無理に聞くのは良くないわよ」
「すみませんお姉様、つい好奇心が勝ってしまいました」
俺はアリサの代わりにリヒトに謝る。
「ごめんなさいリヒト、この子ったらいっつもこうで」
「いや大丈夫だ気にしていないから」
リヒトが許してくれたことにほっとする。
「ハッシュは将来何になりたいとかないの?」
気まずい話題なので話題を変える。
「俺?俺の王国は騎士になってエリーを守ることだぜ!」
ハッシュは胸を張って答える。
「ハッシュらしいわね」
ハッシュは昔からこうだった、俺がいじめっ子にいじめられてた時も助けてくれたし頼りがいのあるお兄さんと言った感じだ。
「おうよ!だから早く大人になりてぇなぁ」
「そうね、私も頑張らないと」
まずは婚約者探しなのだ、忘れかけていたけど婚約者を探さないことにはあのエリックと結婚させられてしまう。
二人の目には俺はどう映っているのだろう?
「お姉様は今のままで十分に素敵ですよ」
アリサがフォローしてくれる。
なんていい子なんだ! それにしても俺ってこのままだと一生結婚できないんじゃないか?16歳にもなって未だ男性経験0婚約どころか恋人すらいない。
これじゃあ悪役令嬢まっしぐらだ。
あぁ嫌だなぁ、あんな奴と結婚したくないなぁ そういえばあいつのことすっかり忘れてたぜ まあいいか、正直会いたくもない。
晩御飯を食べ終わると二人は帰っていった。
アリサは名残惜しそうにしてたがまた来ればいいと言って納得させた。
そして夜、自室で寝ていると誰かが部屋に入って来た。
コンッ!コンッ! ドアをノックする音が聞こえる。
こんな時間に誰だろうか? ベッドから出て扉を開ける。
するとそこにはアリサの姿があった。
「あらどうしたのアリサ、こんな夜更けに」
するとアリサはもじもじしながら言葉を紡いだ。
「お姉様、眠れないの、一緒に寝てもいい?」
そういうことか。
俺は優しく微笑みながら答える。
可愛い妹のためなら一肌脱ぐしかない。
俺はアリサと一緒にベッドに入った。
だがしばらく経ってもアリサは眠ろうとしない。
何か話でもあるのかと思い話しかける。しかし返事はない。
よく見るとアリサの目には涙が浮かんでいた。
やはり寂しいのだろう、アリサは甘えん坊だしな。
すると突然アリサが抱きついてくる。
一体何を考えているんだ!? やばいぞこれは、非常にやばい状況だ! 俺は慌てて離れようとするがアリサは力が強くなかなか抜け出せない。
アリサは顔を赤くしている。
くそっダメだ、流石にここで突き放すわけにはいかない。
俺は覚悟を決めてアリサを受け入れる。アリサは俺の胸に顔を埋めてくる。
「お姉様、しばらくこのままでいさせてください」
くすぐったいなぁと思ったその時だった。
身体中から力が抜けるような感覚に襲われる。
なんとも言えない感覚だ。
俺の意識はそこで途切れた。
ーーーーー朝起きるとアリサはすでに起きていた。
結局アリサの涙の理由はわからずじまいだった。
昨日とは打って変わって元気そうだ。
朝食を食べ終えると俺達は学園に向かった。教室に入るとクラスメイトが一斉にこちらを見てきた。
どうやら昨日のことが噂になっているようだ。
みんなヒソヒソと話している。
俺はなるべく目立たないように席に座る。
するとリヒトとハッシュの二人が近づいてきた。
リヒトは申し訳なさそうな表情をしている。おそらく昨日の昼のことを気にしているのだろう。
俺は二人に心配ないと言うがそれでもリヒトは謝ってきた。
別にリヒトが悪いわけではないのだ、むしろ感謝したいくらいである。
そう思っているのだがリヒトは罪悪感を感じているのかもしれない。そんなことを思いながらも授業が始まった。
午前の授業が終わると昼食の時間になった。
食堂に行くといつも通りアリサとリヒトが待っていた。
リヒトは相変わらず女性を見ると固まってしまうが、アリサがいるおかげなのか今はなんとかなっている。こうして三人で食事をするのが当たり前になっていた。
食事を終えて放課後は剣術の訓練だ。
訓練場に着くとリヒトは早速剣を構えた。
ハッシュもそれに続く。
リヒトの動きを見てみるが確かに素早い。騎士団長に引けを取らないだろう。
ハッシュも負けじと剣を振るう。
どちらもかなりの腕前だ。
二人の実力はかなりのものだ。
騎士団に入団してもおかしくはないレベルだろう。
それから数時間が経ち、今日の訓練は終わった。
今日も楽しかったなと思っていると、ふとあることを思い出す。
そういえばエリックのことすっかり忘れてたぜ、まあいっか。
今のところ婚約者候補はアルベール先輩、リヒト、ハッシュの3名だ。
何故かって?俺の周りにいる男がそれくらいしかいないからだ。
「ふぅしかし勝手に婚約者候補に決めていいのかしらね」
エリックと結婚したくないが為のものだが、相手の気持ちというものもある。
俺は男だしそれを棚にあげても信頼関係の相手と結婚したいものだ。
こうして俺の婚約者探しは進んでいった。




