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教室の前でぼーっとしていると突然後ろから声をかけられた。
「おはよっエリー!」
「わっ」
この子はたしか……そうミリアだ、俺の学友で親友。
「ミリア、驚かさないでよ」
「ごめんごめん、教室の前で突っ立ってたからさ、つい」
「もう」
「それより聞いてよ!今朝なんだけど、またあいつが絡んできたんだよ」
「またなの?それで今度は何をされたの?」
「それがさ、お前の髪は綺麗だって褒められたのよ?笑えるでしょ」
「またいつもの人?」
「そうでもこんな話学園一の美少女に話しても仕方ないわね、いつも私より大勢の男に言い寄られてるんだから」
そうなのか!?知らなかったぞ俺、しかしこれは婚約者探しに渡りに船だ。
必ずイケメンを捕まえてあの嫌味男との婚約をしないようにする!
ん?待て待て俺は男だぞ男を捕まえることに躍起になってどうするんだ。
「何か難しい顔してるわね、考え事?」
「席につけー」
「あっ先生がやってきた、また後でね」
先生が教卓につく。
ざわざわとうるさかった教室が静かになる。
「えー今日は転校生を紹介する、入ってきなさい」
そうして入ってきたのはあの時暴漢から俺を助けてくれた黒髪のポニーテールのイケメンだった。
「あっ」
ふと目が合うも向こうが反らしてしまった。
「リヒト・ラインハルトです……よろしく……」
「うーん席は……エリザベス嬢の隣が空いているな、そこへ」
「はい」
「うぅ……」
「どうしたの?体調が悪いの?」
ミリアが心配してくれる
「いえ、大丈夫よ」
こうして俺は、俺達は運命的な出会いを果たしたのであった。
――昼休み
「リヒト君、一緒にご飯食べようよ」
「いや、遠慮しておく」
周りの女子からの誘いを悉く断るリヒト。
そこへ俺は割って入って先日のお礼をいう。
「リヒト君……この前はありがとうございましたわ、ピンチのところを助けていただいて」
「気にするな、用はそれだけか?」
「えぇ、じゃあ」
なんだ学園一の美少女と知り合いかよとか学園一の美少女であっても落とせないなら自分は無理かといった諦めの表情を浮かべながら女子達は去っていく。そして残された俺達二人の間に沈黙が流れる。
「……どうして助けてくれたんですの?」
「別に……ただ気まぐれだ」
「気まぐれって……」
「それにあんなやつに絡まれてる女がいたら普通助けるだろう」
「……ッ」「じゃあ」
「ちょ、ちょっと待ってくださいまし!」
立ち去ろうとするリヒトの服を掴んで止める。
「なんだ?」
「えっと……お友達になりませんこと?」
「……」
「えっと、ダメかしら?」
「……」
黙りこくったままのリヒトを見て不安になる。
「えっと、その……」
「ぷっ」
「えっ?」
「くくくっ」
「えっ?なんで笑ってますの?」
「すまない、あまりにも唐突で驚いてしまっただけだ、こちらこそよろしく頼む」
そう言って手を差し出してくる。
「よろしくお願いしますわ、私のことは気軽にエリーと呼んでくださいまし」
「俺もリヒトで構わない」
俺はその手を握り返した。
「でも女性は苦手ではありませんでしたの?」
「ああ確かに苦手だ、でもお前は何か話しやすいというか……まぁただの気まぐれだ」
そんなことをいってはぐらかされた。
キーンコーンカーンコーン
「鐘が鳴ってしまったな、ではまた」
「えぇ、また」
俺達はそれぞれの席に戻った。
放課後、俺はアリサを迎えに行った。
アリサは図書室にいた。
「アリサ、帰るわよ」
「お姉様!今行きますわ」
帰りの馬車で上機嫌な俺にアリサが問い詰めてきた。
「お姉様、何かいいことあったんですか?」
「えへへ、実は今日素敵な出会いがあったの」
「えーなにそれ、聞きたいです!」
アリサは興味津々と言わんばかりに身を乗り出して聞いてくる。
「でも秘密」
「あーお姉様ずるいです」
リヒトにはぐらかされたように俺もはぐらかす。
結局帰りの馬車ではアリサがしつこくそのことを聞いてきた。
――翌日 教室に入ると男子達がひそひそと話している。
どうやら昨日の転校生の噂をしているようだ。
「おい聞いたか?あいつの話」
「あぁ、あの黒髪の男のことか?」
「そう、なんでもあいつが助けたらしいぜ」
「本当かよ!羨ましい奴め」
「俺もエリザベス嬢とお近づきになりてぇなぁ」
どうやらリヒトが暴漢から助けてくれたことがもう広まっているらしい。
「いよっお姫様!いつの間にリヒト君とそんな関係になってたのよ」
ミリアが茶化してくる。
「な、なってないですわ!」
「あれ?まだだったの?私達より早く出会ってるんだし付き合ってるも同然だと思うけどな?」
「だから違うと言っていますの!」
そうしてミリアとの会話は終わった。
そんなことを言われては授業中もリヒトのことが気になってしまう。
何だこの感情は?俺は男だぞ!
身体から溢れ出る不思議と暖かい気持ちに俺は困惑していた。――昼休み 俺はいつも通りミリアと一緒に昼食を食べていた。
「ねぇエリーちゃん、なんか最近変じゃない?」
「えっ?」
「いやね、ここ数日ずっと上の空だし、今もほっぺたが緩みっぱなしよ」
「な、なにを言ってますの?」
「え?なにもしかして恋?」
「な、なわけありませんわ!」
「ふふふ、じゃあ好きな人でもできたのかしら?」
「ち、違いますわよ!」
そうだ男の俺に好きな人ができるわけが……24年間生きてきて一度もなかったのにこっちの世界でもあるはずがない!それに俺の中身は男だ。
そんなことを考えていると後ろから呼び止められた。
「よっエリー」
彼はそう確か……ハッシュ、俺の幼馴染でアルミール男爵家の子息だ。
クリーム色の短髪の爽やかなイケメンだ。
小さい頃はよく一緒に遊んだっけ?「久しぶり、元気にしてたか?」
「うん、まあまあかな」
「相変わらず無愛想だな、昔みたいに笑ってくれよ」
「えっ?」
「あっいや……」
咄嗟にハッシュが顔を背ける、俺たちの仲だろう笑顔くらいくれてやるよ。
「ふふっ、ハッシュも相変わらずね」
ハッシュとは別のクラスだがこうして偶に親交がある。
「なんだよ、笑うんじゃねえか」
「あら、私はいつでも笑ってるわ」
「はいはい、そうですね」
このやり取りにも慣れたものだ。
あくまでも俺の記憶の中だが。
「それで私を呼び止めた理由は?」
はっと思い出したようにハッシュは言葉を紡ぐ。
「ああ、そういえば忘れるところだった、今日の放課後剣術の訓練するんだけどお前も来ないか?」
ハッシュは少し照れくさそうに言った。
「それは応援しに来いってこと?」
「べ、別にそんなんじゃねぇよ、ただ暇なら見に来ないかって」
「そうね、見に行ってもいいかしらね」
「じゃあ約束だかんな!」
ハッシュは照れくさそうに語気を強めていった。
「アリサも連れて見に行くわ」
「お、おうこれで俺も気合いが入るぜ」
そういうとハッシュはそそくさと立ち去ってしまった。
放課後、俺はハッシュに言われた通り訓練場に向かった。
「おーい!エリー!」
そこには既に何人かの男子生徒が集まっていた。
「おっ来たか、お前が最後だ」
「遅れてごめんなさい」
「いやいいさ、それより早速始めるか」
そう言うと彼らは木剣を手に取り打ち合う。
「うぉりゃあ!」
「甘い!」
「ぐはぁ!」
「おいおい大丈夫か?」
「ああ、問題ない」
どうやらハッシュは相当強いようだ。
ハッシュは次々と相手を倒していく。
「すげぇなあいつ」
周りにいる訓練生たちも舌を巻く。
「そろそろいいか?」
「よし!次は俺が行くぜ!」
「いいぜ、こいよ」
その後もハッシュの圧倒で終わった。
「お疲れ様、ハッシュ」
そういってハンカチを手渡す。
「おう、わりぃな、それよりどうだった?」
「ハッシュとても強いのね見直したわ」
ハッシュは照れながら呟いた。
「べ、別にそれほどでもねぇよ」
「おい!次俺とやろうぜ!」
「俺が先だ!」
「ちょっと待った!」
「どうした?まだやりたい奴がいるのか?」
ハッシュがそう声を上げるが名乗り出るものはいなかった。
その時一人の人影が現れた、リヒトだ。
「えっ?リヒト?」
俺に構わず声をかける。
「俺のいいか!」
「訓練生希望者か?」
ハッシュが答える。
「そうだ」
「ならちょうどいい相手に不足していたんでな、入団面接ってやつだ」
リヒトは手渡された木剣を持ち力を抜いた姿勢で構える。
「はじめ」
その掛け声とともに物凄い剣速で突きを繰り出すリヒト。
ハッシュは何とか木剣でいなして何を逃れる。
「いきなりなんだ!あぶねぇじゃねぇか!」
「すまない、だがこれでも本気は出していないぞ」
「なっ!」
ハッシュは驚愕の表情を浮かべている。
「ほぅ、中々やるな」
「まだまだいくぞ!」
ガッガッと木剣の当たる音が響く。
「やるじゃねぇか」
「そっちこそ」
二人は物凄い勢いでぶつかり合う。
「すげぇあのハッシュと互角に戦ってるぜ」
訓練生たちも舌を巻いている。
「そこまで!」
「なっ!」
「ありがとうございました」
ハッシュと接戦を繰り広げたリヒトに拍手を贈る。
「凄いわ二人とも」
「あぁ、すげぇやつが入ってきたもんだ、お前名前はなんていうんだ?」
「リヒト、リヒト・ラインハルトだ」
ハッシュがいきなり肩を組む。
「俺があそこまで追い詰められたのは初めてだぜ、すげぇなお前」
「俺はいつも通り最善を尽くしたまでだ」
リヒトは素っ気なく答える。
「なんだよ連れねえやつだな、そうだ今から飯食いに行こうぜ、エリーもどうだ?」
「私は遠慮しておくわ、男同士絆を深めてきてちょうだい」
そう言って俺は訓練場を後にした。
そして次の日。
「おい、聞いたか?」
「何をだよ」
「昨日の放課後、リヒトが来て模擬戦をやって相当追い詰めたらしいぜ」
「マジかよ!あのハッシュに追い詰めるってどんだけ強いんだよ」
「そりゃとんでもない化け物が転校して来たもんだ」
「それで誰が勝ったんだ?」
「それが分からなかったらしくて引き分けだってよ」
「はぁ?意味わかんねぇよ」
皆リヒトに好奇の目を向けている。
「だってさリヒト、よかったじゃないあれから訓練生たちと馴染めた?」
「まぁ、それなりにな」
「そう、それは良かったわ」
俺は微笑みかける。
放課後、訓練場に向かうとそこには大勢の男子生徒が集まっていた。




