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 遂に当日、俺はベッドの上でうずくまっていた。

「う~こんなに今日という日が嫌なことはないわ」

そんなことを呟いているとコンコンッと扉がノックされた。

「はい」

「お嬢様、お着替えの時間です」

そういうとシャルロットさんは着替えさせてくれる。

「……はい、終わりましたよ」

「では私はこれで失礼しますね」

そう言ってメイドさんが出て行ったあと、俺は鏡に映る自分の姿を見た。……うん、悪くないな。さすが俺だ。

今日も今日とて可愛いぞ! 鏡の前でクルリと一回転してみる。

ふむ、スカートがヒラヒラするな。

まぁこれは仕方がない。この世界の女の子達はみんなこれを履いているからな。慣れるまで我慢しよう。

しかし……まさかこんな日が来るとは思わなかったな……。

「お嬢様、お父上様とお母上様がお待ちです」

おっとそうだった、早く行かないと。

「えぇ、すぐに向かうわ」

そういって階段を駆け下りるともう馬車が待機していた。

「お父様、お母様お待たせしました」

「うむ、似合っているぞエリー、今日は一段と綺麗だ」

「ええとっても素敵よ」」

「お褒めの言葉ありがとうございます」

「さぁいこうか」

お父様がそういうと御者が馬車の扉を開いた。

俺たちが乗り込むと扉を閉め馬車を走らせた。

馬車に揺られながら俺は憂鬱げに外を眺めていた。

「エリー、今日は単なる顔合わせ、そう気に病むでない」

「はい、わかっております」

とはいえ、貴族同士の面談だ。

何か重要な意味はあるのだろう。

しかし、それがわからないからこそ不安になる。

俺も何かしら気の利いた一言でも言えればいいのだが……。

「お父様、少しよろしいでしょうか?」

「うむ、何だね」

「今回の面談、その、相手の殿方はどのようなお方で?」

相手の情報を知っておくのは大事だ。

これから断ろうこととなる面談なら尚更だ。

「ふむ、ベネデール子爵のご子息は一人息子でな、大層大事に育てられたそうだ」

ふーん貴族のボンボンがどうせ小太りでキモイ面してんだろうなぁ。

そう考えると余計憂鬱になってきた。

「そうですか」

ため息交じりに返答する。

どうせうちの家督が目当てなんだろう。

うちは公爵家、王家の次に権力をもつ家だ。

そんなことを考えながら馬車に揺られ小一時間。

ようやく隣りの領地のベネデール子爵邸へやってきた。

門番が門を開けて出迎えてくれた。

「ようこそいらっしゃいました。公爵様」

そう言って執事とメイド長らしき人が出迎えてくれた。

「初めまして、私はこの家の執事でございます。そしてこちらがメイド長です」

二人とも深々と頭を下げる。

「でむかえご苦労だった、早速子爵に取り次いでくれ」

「かしこまりました、奥へご案内します」

その道中には豪華な調度品、高そうな壺なとが置いてあった。

通された奥の応接室は小奇麗にまとまっていて綺麗だった。

応接室では既にベネデール子爵とその子息が待っていた。

「これはこれはようこそフォンティーヌ公爵殿」

「本日はお招きいただきご感謝しますベネデール子爵」

お父様が軽く会釈をすると俺たち家族の紹介を始めた。

「こちらが妻のクレア、そしてその隣が娘のエリザベスです」

「妻のクレアです、以後お見知りおきを」

俺もお母様に倣って挨拶をする。

「長女のエリザベスです、本日はこのような場にお招きいただきありがとうございます」

俺は軽く挨拶を交わし、席に着く。

俺の対面にはベネデール子爵とその息子が座っている。

子息がガタッと席を立つ。

「申し遅れました、私はベネデール子爵家の息子エリック・ベネデールと申します、此度は貴女のような美しい女性と知り合えて光栄です」

思ってたよりイケメンキターーーーーー!!

それにしても本当にイケメンだな。

王子とはまた違ったタイプの美形だ。

爽やかな笑顔が眩しいぜ。

「貴女には是非うちの自慢のバラ園をご案内したい、よろしいでしょうか?」

でも……といった目でお父様を見ると

「行ってきなさい」

と後を押されてしまった。

「ここは若い二人に任せましょう」

とベネデール子爵もまんざらではない様子。

行かざるを得なくなってしまった。

「さぁお手をどうぞ」

そう言って手を差し伸べてきた。

俺は渋々ながらにその手を取る。

そして二人はバラ園へと向かった。

「どうです?素晴らしいでしょう我がバラ園は」

そこには色とりどりのバラが綺麗に咲き誇っていた。

「綺麗……」

「そうでしょうそうでしょう、なんたって一級の庭師が手入れしていますからね、しかしそんなバラも貴女の美しさの前で霞んでしまう」

よくもそうぬけぬけと歯の浮くようなセリフを……。

「「まぁ、お上手ですわ」

ここは無難に返しておく。

しばし二人で会話していると一匹の子猫が迷い込んできた。

「あら、子猫」

その瞬間……。

「この薄汚い子猫め!よくも我がバラ園に侵入したな!あっちへいけ!」

ドンッドンッと足踏みして威嚇するエリック、その姿をみて呆然としていると子猫は怯えて逃げてしまった。

「さぁ邪魔者はいなくなりました語らいの続きをしましょう、そうだ!今度プレゼントを用意しましょうサファイアの指輪やエメラルドのネックレスも似合いそうですね」

ドン引きしている俺を尻目にグイグイと詰め寄ってくるエリック。

「あの……そろそろ戻らないと……」

とんだDV男じゃないか!

「ええ、ではお手を」

「大丈夫です、一人で歩けますわ」

なぜ俺が機嫌が悪いのかさっぱりわからないと行った様子でエリックは後をついてきた。

屋敷へと戻った俺たちが目についたのは談笑に花を咲かせるお父様とエリックの父、つまりベネデール子爵であった。


「やぁ二人ともおかえり、こっちはこっちで話が弾んでしまったがそっちはどうだったんだい?」

お父様の問いかけに俺はすこし口ごもりながら答える。

「まぁ……程々に」

「ええ、とても楽しい時間でしたよ」

対してエリックははきはきと言い放った。

「こんな美しいお嬢さんと知り合えて幸運だなエリック」

ベネデール子爵は乗り気のようだ、こっちはそんな気分じゃないのに……。


「ベネデール子爵もエリーのことを大変気に入ってらっしゃるよ、でもまぁ今日のところは顔合わせということでここはひとつ」

お父様が割って入る。

「ああ、もちろんだよ、今日はゆっくり休んでくれ」

「それじゃ私たちは失礼します」

「ええ、またの機会に」

こうして波乱に満ちた初対面は終了した。

部屋に戻った俺はベッドに飛び込んだ。

帰りの馬車でお父様に言われたことを思い返す。

「このままでは彼と結婚することになる、嫌なら意中の人を連れてきなさい」

「わかりました」

とは言ったものの、俺は好きな人が居ないのだ。

「誰かいい人は……」

全く思いつかない。そもそもこの世界に来てまだ二日だ、知り合いも少ない。

実際には大勢いるのだが俺の記憶が追いつかない。

「これから探せばなんとかなるか?」

とりあえず前向きになろう。コンコン ドアがノックされる。

「はい」

入ってきたのはクレアお母様だった。

「エリーちゃん、少し話があるんだけど」

「なんですか?お母様」

「貴女今日の面談どうだった?もし嫌な相手だったら無理しなくていいのよ」

昨日の昼間を打って変わって優しい言葉をかけてくれる。

「えぇ、エリック様はとても器量の良い方ですわ、でも、子猫に暴力を振るうような一面も見てしまいましたわ」

お母様に今日バラ園であったことを話した。「そうなのね、でも貴女にはもっと良い相手がきっと見つかるはずよ、焦らなくてもいいのよ」

「ありがとうございます、お母様」

「さぁもう寝ましょう、明日も早いから」

「はい、お休みなさいお母様」

そうしてやんごとなき事態に陥ってしまった俺は転生二日目にして婚約者探しをしなければならなくなったのである。

翌日、朝食を終えた俺はお兄様の部屋に向かった。

「お兄様、入ってもいいかしら?」

「どうぞ」

俺は部屋の中に入る。

「どうしたんだ?僕の可愛い妹よ」

そう言ってお兄様は私の頭を撫でた。

「あの……お兄様に折り入ってご相談があって……」

「何だい?可愛い妹の悩みならなんでも聞くよ」

そう言って笑顔ではにかんでくれた。

元々の世界では俺は長男で頼れる兄という存在がなかったことからすごく頼もしく感じる。

「実は婚約者探しの件なんですが……」

「あぁ、困っている聞いたね、実は僕もそろそろ婚約者探しをしないといけないんだけど騎士団の仕事が忙しくてね」

お兄様もやはり婚約者探しをする時期なんだ。

騎士団の仕事が多忙で免除されているようだが、いずれは縁談の話が持ち上がるだろう。

「お兄様は意中の人とかいないんですか?」

「ははは、特にはいないなぁ、縁談の話が持ち上がればその人と結婚するだろうね」

「そうですか……」

この世界の結婚適齢期は15歳~18歳だ、俺の場合はもう少し先になる。

それまでになんとかしないと。

「ところでエリー、どんな子がタイプなんだい?」

「えっ?」

返答に詰まってしまう。

24年間生きてきて好みの女性のタイプは聞かれたことがあったが好みの男性のタイプなぞ聞かれたことがない。

「家族思いで家庭的で優しい人ですかね」

思いっ切り女性のタイプそのままを答えてしまった。「なるほど、君は意外とロマンチストなのかい?」

「あっいえ、そういう訳では……」

しまった、前世でモテなかったから理想が高すぎるとか思われたらどうしよう。

「大丈夫だよ、君の気持ちはよくわかった、君にふさわしい男性を探してくるよ」

「そんな!悪いですわ、お兄様に婚約者探しをを手伝ってもらうなんて、これは私が自分で決めることなんですもの」

「気にしないでくれ、僕はエリーの兄として当然のことをするだけだ」

「本当によろしいのですか?」

「ああ、それにエリーは将来この国を背負って立つ女性だ、いつまでも独身のままじゃダメだと思っていてね、いい機会だから僕に任せてくれないか」

本当に俺の将来を心配してくれているとても優しいお兄様だ。

「わかりました、ですが私も私で相手を見つけようと思っておりますお兄様のお心遣いは嬉しいですが、元々これは私自身がなんとかしなくてはいけない問題、お兄様のご助力を得たとしても私自身が行動しなければ意味がありません」

「ははは、エリーの決意は固いんだね、僕ほの方はあくまで手助け、そう思ってくれて構わないよ」

「お心遣い痛み入ります、では私はこれで失礼しますわ」

そう言ってお兄様の部屋を出る。

はぁ~とんでもない約束をしてしまった気がする。

でも早く意中の人を見つけないとあの性悪イケメンと結婚させられてしまう、それだけは何としてでも避けなければ。とりあえず街に出てみることにした。

「さすが王都だ、広い、そして人がたくさんいる」

まずは大通りへ出た、ここは貴族が住まうエリアなので比較的静かなのだが、一歩裏道に入ると途端に騒がしくなる。

この世界に来て二日目だが、街並みや行き交う人々の服装を見る限り中世ヨーロッパのような感じがする。

「それにしても、みんな顔立ちが整ってるよなぁ」

すれ違う人達の顔を見てそう思った。

この世界で生きる人たちなのだから当たり前と言えばそうなのだが、やはり美男美女が多い。

「やっぱり俺も綺麗な女の子に生まれ変わりたかったよ」

自分の容姿を思い出しながら独り言ちた。

「お嬢ちゃん、可愛いねぇ、ちょっとおじさんといいことしよっか?」

いきなりキモイ親父に声をかけられた。

「ねぇ少しくらいいいだろう?」」

そう言って腕を強引に引っ張られた。

言ってるそばからこれだ、俺にはその腕を振りほどくほどの腕力がないのでただひたすらに助けを求めるほかなかった。

なんだなんだと言わんばかりに大通りの人々から好奇の視線を向けられる、が助けに入ろうというものはいなかった。

もうダメだと思ったその時……。

「おい、嫌がってるじゃないかやめろよ」

そこには背の高い黒髪ポニーテールの男性が立っていた。

「なんだてめぇ、やろうってのか?」

キモイ親父は俺の腕を離してその男性に殴りかかる。

しかし男性はヒョイっと躱したあと腕をつかんで捻り上げた。

「ぐわぁぁぁ、痛いぃぃぃ!」

無様に喘ぎ声をあげるキモイ親父。

「わかった、もう何もしないから許してくれぇ」

そういうと黒髪の男性は腕を離した。

「ひ、ひぃぃ」

痛めた腕を押さえながらキモイ親父は路地へと去っていった。

「あの、ありがとうございます、もう少しで大事になるところでした」

「構わない……治安のいい街だと思っていたがとんだ下衆野郎もいたものだ」

黒髪の男性は呆れた顔でため息をつく。

「助けていただいたところ自己紹介がまだでしたわね、私はエリザベス・フォンティーヌ、よろしければ貴方のお名前もお伺いしてよろしいでしょうか?」

「俺はリヒト、リヒト・ロンドニックだ、しかしフォンティーヌというとあの公爵令嬢では?」

「はい、私はフォンティーヌ家が長女エリザベス・フォンティーヌ、是非エリーとお呼びくださいませ」

よく見るとリヒトは黒髪のポニーテールでスラっとしてて背が高くイケメンだ。

「こんな素敵な殿方に助けられたのも何かの縁ですわ、よろしければお茶でもどうでしょう?」

「いや、せっかくの誘いを断るようで悪いが俺は女が苦手でね、それに用もあるのでここで失礼する」

そういうとスタスタと立ち去ってしまった。

俺ほどの美少女からの誘いを断るとは余程女が嫌いなんだな。

今の自分の容姿にはそうとう自信があったが断れたことで少しへこんでしまうのであった。その後、街を散策しながら気になった店に入ってみたりした。

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