18
俺はリヒトのことが好き……なのか? 俺はリヒトのことを考えると胸が苦しくなる。
これが恋というものなのだろうか。
――もしそうだとしたら俺はリヒトと結ばれたい。
俺はリヒトを幸せにしてあげたい。
そう考えているうちに屋敷に着いたようだ。
「じゃあまた明日……」
「ああ、また明日」
そう言ってリヒトの乗った馬車が動き出す。
俺はリヒトの姿が見えなくなるまで見送った後、自室に戻った。
部屋に戻ると、ベッドに飛び込み枕に顔を埋める。
俺はリヒトに告白されて凄く嬉しかった。
だから俺はリヒトのことをもっと知りたいと思う。
まずは何から聞こうか、そういえば俺はリヒトのことを全然知らない。
とりあえず今日貰ったネックレスをつけて寝よう。
リヒトからのプレゼントだと思うと安心して眠れる気がした。
今日は待ちに待った休日だ。
今日は何をしようかと考えていると、ドアをノックする音が聞こえた。リヒトが来たのかなと思い、俺は扉を開ける。
しかしそこにはリヒトではなく、メイドさんがいた。
そのメイドさんは、いつも俺の身の回りのお世話をしてくれている人だ。
どうやら何か用事があるらしい。
俺が要件を聞くと、少し言いづらそうにしている。
何かあったのだろうか? 俺が心配して声をかけると、ようやく話し始めた。
どうやら俺の父親である公爵様が俺に会いたいとの事だ。
一体何の用事なんだろうか。
疑問に思いながらも、俺はお父様に会うための準備を始めた。
準備を終えた俺は、お父様の待つ部屋に足を運ぶ。
中に入ると、お父様とお母様が待っていた。
お父様は俺を見ると、すぐに話しかけてきた。
俺も挨拶を交わす。
その後、本題に入った。
なんでも、お父様が俺に頼みがあるらしく、そのお願いの内容を聞いたところ、俺に領地経営を任せたいということだった。
俺はその提案に驚いた。
何故なら俺はこの家を継ぐつもりはないからだ。
俺はこの家に縛られたくない。
俺は自由に生きたいのだ。
俺のそんな思いを汲み取ったのか、お父様が理由を説明してくれた。
この国は、貴族には3つの義務が課せられる。
1つ目は国への忠誠、2つ目が領民の保護、そして最後に国の財産を守ることだ。
俺の家は代々優秀な騎士を輩出しており、国からの信頼も厚い。
そのため、他の貴族たちからは妬まれることが多いそうだ。
そのせいでお父様には色々と苦労をかけたみたいだ。
そして、今回領主としての才能を持つ俺が生まれた事で、その役目を押し付けようとしているらしい。
俺はそんなこと望んでいないのだが、既に決定事項のようだ。
「私リヒトと結婚するんです!どうしてこんな……」
俺はつい感情的になり、大きな声で叫んでしまった。
それを見た両親は俺を宥めるように言った。
俺だってこんなことは言いたくなかった。
でも仕方がないじゃないか。
俺はこんなことのために生まれたんじゃない。
するとお父様は俺に謝ってきた。俺は何も悪くないというのに。
そして更に言葉を続けた。
俺はもうすぐ成人を迎える。
つまりは結婚できる年齢になるわけだ。
そこでお父様はリヒト君との婚約を破棄してほしいと言う。
当然俺は反対した。
俺にとってリヒトはとても大切な存在なのだ。
もう結婚も誓いあった仲だ、今更婚約破棄などできるはずもない。
そういって食い下がると、お父様もようやく諦めたのか事情を呑んでくれた。
その代わりにリヒトを婿養子にするという。
俺としては結婚できれば問題ないのであとはリヒト次第といったところだ。
「しかしお兄様がいるではありませんか?なぜ私なのですか?」
「シェルフォードは騎士団に所属していて次期騎士団長の座も約束されている、そんな息子を家に縛り付けるわけにはいかない」
なるほどそれで白羽の矢が俺に立ったわけだ。
確かにリヒトは剣の腕は相当なものだし、頭もいい。
だが俺は知っている。
あの寡黙な男が実は女性恐怖症だということを。
俺が結婚した方がリヒトの為にもなるはずだ。
そう考えた俺はリヒトを説得することにした。
早速リヒトの屋敷へ向かう。
リヒトの家の前に着くと、ちょうどリヒトが出てきた。
どうやらこれから出かけるところだったらしい。
タイミングよく会えてよかった。
俺はリヒトの手を引き、強引に屋敷の中に連れ込む。
リヒトは何が起こったのかわからない様子だったが、大人しく付いてきてくれた。
「リヒトあのね、私と結婚する際だけど婿養子に来てほしいの!」
「え、いきなり何を言ってるんだエリー」
「唐突なのはわかるわ、でも我が家の一大事なのよ!」
冷静に説明しきれない俺と落ち着かせるとリヒトはゆっくりと話を聞いてくれた。
「なるほど、うちには弟もいるし俺が婿養子に行っても問題ないだろう」
「ほんと!?よかった~」
「ああ、御父上にも報告しよう」
そういって俺の手を引いて書斎へと向かう。
扉をノックして入室の許可を得る。
中に入ると、ラインハルト伯が待っていた。
俺はラインハルト伯とリヒトの二人に、俺との結婚の際に婿養子になって欲しいという旨を伝えた。
するとラインハルト伯は
「いいじゃないか息子が公爵家入りするなんて夢のようだ、リヒト、エリー嬢をしっかり守ってやりなさい」
思ったよりあっさりと快諾してくれた。
これで障害物は全てなくなったはずだ。
こうして学園卒業後に結婚する流れとなった。
結婚式まで後1年、楽しみだ。
そしてついにこの日がやってきた。
今日は待ちに待った結婚式だ。
俺は純白のウェディングドレスに身を包んでおめかしをしてもらっている。
とても綺麗だ。
そんなことを思っていると、リヒトが部屋に挨拶にきた。
「エリー今日の姿とても似合ってるよ」
俺、いや私は今日を迎えるために頑張ってきたのだ。
「ありがとうリヒトもとっても似合ってるわ」
その苦労が報われる時がきた。
付き添い人はアリサが務めてくれる。
この世界で信頼できる数少ない人だ。
俺は緊張しながらも、式場へと向かった。
式は順調に進み、いよいよ誓いのキスの時間になった。
俺は目を瞑り、唇を差し出す。
リヒトは優しく俺の頬に触れ、そして俺の口へと自分の口を近づける。
リヒトは俺の口にそっと触れるような優しいキスをした。
俺は嬉しさのあまり涙を流してしまった。
そんな私をリヒトは抱きしめてくれた。
その後、俺はリヒトと共に馬車に乗り、領地へ向かった。
リヒトとの幸せな生活の始まりだ。
これからもずっとリヒトと共に歩んでいくのだろう。
馬車に揺られながらそんなことを考えていた。
初めは異世界転生でハーレムをなんて考えていたが今はこの幸せが愛おしい。
いつまでもこの幸せが続きますように……。
完