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翌朝目覚めるとベッドの脇にはアリサがいた。

寝顔可愛いなぁと思いながら頭を撫でているとアリサが起きたようだ。

目を擦りながら挨拶をする。

そして昨日のことを思い出したのか急に慌て出すアリサ。

昨日寂しくて俺が心配で眠れなくて一緒に寝たのだった。

そんな仕草もまた可愛らしくてつい笑ってしまう。

「大丈夫よアリサ」

笑いながら伝えるとホッとした表情を見せた。

そして二人で朝食を食べに食堂へと向かう。

いつものように家族揃って食事をしていると突然お父様が俺の方を向いて言った。

俺は何か粗相をしてしまっただろうか?

「エリー少しいいか?」

「はいお父様」

「婚約者の件だがエリック君以外にリヒト君はどうだ?二人共仲も良さそうだしいいと思うんだが、私としてもラインハルト伯とは交流を深めたい」

えっ!?リヒトが正式な婚約者に!?

少々戸惑うがエリックなんかと比べたら天と地の差だ。

「はい、前向きに考えます」

「そうかそうか、では近々ラインハルト伯を呼んでお茶会でも開こう」

いつの間にか縁談話になってないかこれ?

そうは言いつつも強くは反対できず、さらに俺の中のリヒトの存在も不確かなまま話は進んでいった。

リヒトは俺のことをどう思ってるんだろう。

そして俺はリヒトのことをどう想っているんだろうか……。

俺が誘拐されてから1週間が経った。

その間、特に何もなく平和な日々が続いていた。


 それはある日の放課後のことだった。

リヒトとハッシュと教室で話をしていた。

そこにミーナがやってきた。

リヒトに用があるのか横までやってくる。

そしていきなり頭を下げてきた。

何事だと思って周りを見渡すとみんなこちらを見ていて明らかに注目が集まっている。

これはまずい。

とりあえず事情を聞くために場所を変えることにした。

場所は中庭のベンチ。

「リヒトさん昨日は危ないところ助けていただきありがとうございました、その上怪我まで負わせてしまって」

そういうとリヒトは笑い交じりに答えた。

「大丈夫だ、ただのかすり傷だ心配するほどのことじゃない」

そう言われてミーナは少し安堵したのか表情を和らげる。

そして改めてお礼を言う。

「構わない」

するとリヒトは顔を赤らめながら ぼそりと言った。

リヒトは女性恐怖症だ、そしてミーナはその対象である。

つまり……

リヒトは恥ずかしくて照れているのだ。

なんとも微笑ましい光景だ。そこでふと思った。

リヒトはミーナのことをどう思っているのだろう? 今までの態度からして少なくとも嫌ってはいないはずだ。

むしろ好意を持っているのではないだろうか?もしそうなら俺が婚約者になるのはまずいんじゃないか? そう思ったが、それを本人に直接聞く勇気はなかった。

結局この日の話し合いはそれで終わった。

そしてその日のうちに俺は婚約の話をお父様に告げた。

次の日にはお母様とミーナにも伝えてある。

俺としてはリヒトが俺のことをどう想ってるか分からない以上あまり気が進まないのだが、お父様は乗り気でどんどん進めてしまっている。

早速次の休みの日にお茶会が開かれることとなった。

――当日。

俺はドレスを着せられ念入りに化粧をされる。

しばらくするとラインハルト伯が到着したようだ、もちろんリヒトもいる。

応接室へと招いてお茶会が始まる。

「ようこそラインハルト伯、今日は貴公のご子息とうちの娘の婚約をと思いお招きしました」

「これはこれはフォンティーヌ公ご丁寧にどうも、うちの息子を婚約者に選んでいただけるとは光栄です」


「ではリヒト君からも一言お願いできるかな?」

お父様が促すとリヒトが立ち上がり自己紹介をする。

「初めましてフォンティーヌ公、僕はリヒト・ラインハルトと申します。まだ未熟者ゆえ至らぬ点も多いかと思いますが何卒よろしくお願いします」


「うん、とてもしっかりした子じゃないか、将来有望な若者同士仲良くやっていけそうだね」

「ありがとうございます、僕もこんなに素敵な方と婚約させていただいて嬉しい限りです」

リヒトは社交辞令だと分かっていても素直に嬉しかった。

「私もリヒトさんと婚約できるなんて嬉しいですわ」

社交辞令でもそう言っておく、お父様の顔を立てるためでもあるが本心でもあった。

そして話は進みいよいよ俺が婚約者候補として挨拶をすることになった。

緊張するなぁ、と思いながら立ち上がる。

スカートの裾を持ちながら軽く膝を曲げる。

そして一呼吸おいてから口を開く。

「エリザベス・フォンティーヌです、本日はお越しいただきありがとうございます」

「これは綺麗なお嬢さんじゃないか、うちの息子にこんな可愛い婚約者が出来るとは鼻が高い」

「お褒めにあずかり光栄ですわ」

ラインハルト伯も気に入ってくれたようで一安心である。


その後は和やかな雰囲気のままお茶会は終わりを迎えた。

ラインハルト伯は終始笑顔だった、リヒトも俺といる時とは違って自然な笑みを浮かべていた。

やはり俺といる時は無理をしているのだろうか。

リヒト達を見送りながら終始そんなことを考える。

そして俺は部屋に戻りベッドに倒れ込む。

あー疲れた、もう寝たい。

そのまま眠りにつく。

そして次の日俺はいつものように登校し席に着く。

するといつものようにリヒトがやってきた。

俺の隣の席に座る。

「昨日は大変だったな」

リヒトが気遣い声をかけてくれる。

俺はリヒトにお礼を言う。

先日はリヒトのおかげで助かったのだ。

感謝してもしきれない。

リヒトは気にしなくていいと言ってくれるが、それでも何か恩返しはしたいものだ。

リヒトは婚約者になってくれただけで十分だという。

だがそれでは気が済まない、なんとかしてリヒトの力になりたい。

俺はそう思い、とりあえず授業中はノートを取りながらリヒトの横顔を眺めることにした。

リヒトの横顔はとても美しかった。

俺はリヒトのことが好きなんだろうか? リヒトは優しい人だ、野盗からも助けてくれた。

だから好きかどうかと聞かれれば好きだ。

でもそれは友人としての好意であって恋愛感情とは違うと思う。

じゃあいったい何が違うんだろう。

よくわからないまま時間が過ぎていった。

――放課後。

帰りの馬車でリヒトのことを思い浮かべる。

抱きしめられた時のあの感情……あれは一体何だったのか。

今まで恋をしたことがないから分からない。

分からないけど、もう一度確かめてみたいと思った。

そしてまた明日から頑張ろうと決意した。

リヒトと婚約してから一週間ほど経ったある日のこと。

事態は急変した。

この前縁談話をしたエリックが怒り心頭なのだという。

そして屋敷に怒鳴りつけてきた。

「エリザベス嬢これは一体どういうことなのです!?」

「どうと言われましても、もう婚約は成立したのですから」

俺は平然と答える。

実際問題俺がどうこう出来る話ではないのだ。

俺はリヒトと婚約している、つまりこの婚約は家同士の取り決めだ。

いくら子爵家の子息とはいえ個人の都合だけではどうにもならないだろう。

しかしエリックは納得しなかった。

「エリック殿、お見苦しいですぞ」

お父様が割って入る。

「し、しかし公爵殿これはあまりにも……」

お父様の迫力に圧倒され言葉が続かないようだ。

お父様は続ける。

エリックが言うには俺とリヒトが婚約するのはおかしいらしい。

エリックは自分が手に入れたいものは必ず手に入れてきたという。

それが何だというのだ、

俺とエリックの間には愛情もなければ友情もない。

もはやエリックは無関係なのだ。


なのにどうしてここまで食い下がってくるのか理解できなかった。

するとエリックがとんでもない爆弾発言をする。

なんと俺とリヒトが不貞行為を働いたと言っているのだ。

これにはお父様も呆れかえっていた。

俺がそんな事をするはずがない。

「エリック殿見損ないましたぞ」

そう言ってお父様はエリックを追い払った。

エリックは何も言えずすごすごと立ち去るしかなかった。

その日の夜、俺はお父様に呼び出された。

お父様の部屋へと向かい扉をノックする。

返事があり部屋に入るとそこにはお父様とリヒトがいた。

なぜリヒトがいるのだろうか。

お父様が口を開く。まず最初にリヒトと婚約したのは俺の意思ではなく親同士が決めたことだということ。

そして今回の件についてお父様は怒っているのだという。

俺がリヒトに手を出していないことは知っているし、むしろリヒトが被害者だということも分かっている。だが世間体というものがある。

もしこれが公になれば俺の社交界での信用は地に落ちる。

そしてラインハルト伯爵家からも婚約を破棄されるかもしれない。

そうなるとフォンティーヌ家は窮地に立たされることになる。

お父様はそこまで考えて俺に釘を刺した。

俺は自分の立場を自覚するようにと言われた。

俺のせいでフォンティーヌ家が破滅するようなことはあってはならない。

それだけは絶対に避けなければならない。

俺は改めて気を引き締める。

俺はお父様とお母様に迷惑をかけたくない。

そう心に誓った。


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