10
放課後になり、アリサとの約束通り、カフェテリアに向かっていた。
すると、後ろの方から声をかけられた。
「お姉様」
振り向くとそこにいたのはアリサだった。
俺はアリサについていくと、着いた先はテラスだった。
俺はアリサについていくと、着いた先はテラスだった。そこでお茶を飲んでいるとアリサが話を切り出した。
なんでもアリサが好意を寄せている人は学園の先輩らしい。
俺はてっきり年上の男性かと思っていたが違ったようだ。
そしてアリサはその先輩と最近よく話すようになったそうだ。
「その先輩って誰なの?」
「ひ、秘密です!」
「告白はするの?」
「そ、それも秘密です!」
さっきから秘密ばっかりだ。
知られたらまずいことなんだろうか、ここはアリサに気を遣いそれ以上は言及しないことにした。
それからも他愛のない話をした。
こうしてアリサと話していると本当に普通の女の子なんだなと思う。
学園に通っている子達は皆貴族のご子息ばかりなので、たまに平民出身らしき学生を見ると、俺もああいう風に生きられたらと羨ましく思う。
しかしそんな?気なことを言ってられる立場ではない、俺も一刻も早く婚約者を探さないと。
そんなことを思いながら話しているとアルベール先輩がやってきた。
会うのは久しぶりで一瞬誰だか忘れそうになる。
「やぁ、今日は姉妹でデートかな?良ければ僕もお茶会に混ぜてくれないかな?」
「やっ、えっと、その……」
アリサはしどろもどろだ、こんなイケメンの先輩が来ればそうもなろう。
はっ!もしかしてアリサの想い人はアルベール先輩なのでは!?
一瞬そう思ったが接点もないし違うだろうという結論に落ち着いた。
「えぇ、構いませんことよ」
断る理由もないので受け入れる。
「それでエリー君、婚約者探しは順調なのかい?」
えっ!?なんでそれを!という顔をしていたら
「学園でも有名だよ男二人を侍らせてなお婚約者探ししているってね」
いつの間にそんな噂が流れたんだ。
俺の知らないところでバレている。
「そんな根も葉もないこと、信じてらっしゃるの?」
「もちろん僕としてはもう二人の男性がいる君にそんなことはないと思うよ、あくまでも噂話の範疇さ」
「ハッシュとリヒトは友人であって……」
「その辺は僕も理解してるさ、でも周りはどうだろうね」
相変わらずこの人笑顔なのに圧がある。
しかしその笑みに恐怖を感じる一方でこの人なら俺の事情を知っていても不思議ではないと思っている自分もいる。
「うぅ……気を付けますわ……」
それにしても噂が広がるの早すぎだろ。
これからはなるべく目立たないようにしようと心に誓った。
次の日、いつものように授業を受けていた。
前世では勉強などほとんどしなかったが、今は前世の知識があるので多少理解できる。
前世で勉強しなかった分、今世は勉強しないとな。昼食の時間、食堂で食事を摂っていた。
すると目の前にハッシュが現れた。
俺はハッシュの顔を見てため息をつく。
「なんだよ人の顔みてそうそうにため息つくとは」
ハッシュは俺の幼馴染であり、俺に婚約者がいない原因でもある。
ハッシュには昔から俺に近づこうとする男を寄せ付けない節がある。
しかし、それも仕方がない事だと諦めていた。
なぜなら俺が婚約者を見つける前にあのヒステリー男が婚約者として名乗りを上げたからだ。
「あなたのせいで婚約者が見つからないのよ、近づく男片っ端から威圧し押しのけてるんですもの、まぁそれで助かったことは数え切れないからいいけど」
俺がそう言うとハッシュが少し驚いた表情をする。
どうやら自覚がなかったらしい。
確かに今の俺に近づいてくる男は皆無だ。
それでも寄ってくる男を近づけまいとしているのだからやはり優しい奴なのかもしれない。
しかし、婚約者を探す上でそれは大きな障害になる。
それはなぜかと言うと、貴族社会では婚約を結ぶのが当たり前である。つまり、結婚を前提とした交際をしているということになる。
それにも関わらず、他の異性と仲良くしているとあらぬ誤解を受けることになる。
そういったことからも俺が婚約者を見つけるのは限りなく難しいわけで……。
ちなみにこれはお父様から聞いた話だが、この学園にいる男子生徒は大体~18歳くらいまでらしい。
そのせいもあってか、入学当初から多くの男性からアプローチをされていた。
しかし、そのことごとくを俺は断ってきた。
そんなことを考えていると、食事を終えたのかアリサがこちらにやってきた。
アリサは俺の隣に座ってきた。
俺とハッシュとアリサの三人が揃ったことで、周りの視線を集める。
ハッシュはイケメンだ。
特に女子からの嫉妬の目線が痛い。
「今日はリヒトはいないの?」
「あぁなんでも用があるって言って」
そんな会話をしていた時だった。
一人の女性が俺たちに声をかけてきた。
アリサの知り合いらしく、挨拶をした。
その女性は俺を見つめてくる。
その瞳を見た瞬間、何故か鳥肌が立った。
そしてすぐにわかった。
彼女は俺と同じ転生者だと。
彼女はミーナといった。
「アリサさんのお姉様には前から憧れていてぜひ二人でお話したいわ」
向こうからコンタクトを求めてきたということは何かあるはずだ、罠か?いやそれにしては敵意がない。
「アリサの知り合いなら是非話したいわ、この後放課後にカフェテラスででもいかがかしら?」
そして放課後……。
俺は指定したカフェテラスへと向かっていた。
相手もう席についていた、俺も席につくと周囲に人がいないか確認してから話題に入る。
「まさか同じ転生者に出会えるなんて思ってもみませんでしたわ」
ミーナは紅茶を啜りながらそういう。
「な、なぜそれを?」
唐突な話で俺は耳を疑ったが直感が告げているこの者は転生者なのだと。
すると、 ミーナは笑った。
「直感とでもいいましょうか、あってすぐこの人は転生者だとわかりましたわ、元の口調でしゃべろうとしてもお嬢様言葉になってしまいますが」
「ああ、やっぱりそうなんですのね、親しい方にはもっと砕けた話方ができるんですけどね」
俺も同じように笑いながら言った。
互いに同じ世界から来た人間だと確信した。
ミーナの話によると、どうやら俺の世界で死んだ後、神様と名乗る存在によってこの世界に転移させられたようだ。
ミーナも俺と違い事故で死んでしまったそうだ。
「まさか同じ貴族でこの学園に通ってらっしゃるとは、それも先輩で」
元の名前を聞くのは野暮なのでお互いそこは触れずにいた。
「しかしミーナさんまで同じ世界から来たなんて信じられませんわ」
「ミーナでよろしいですよ、先輩」
「じゃあ私のこともエリーと呼んでください」
「わかりましたわ、エリー先輩」
ミーナはこの世界に12歳で転生してきたようだ、時期を考えると俺と同じくらいか?
俺の場合は事故ではなくほぼ殺されたようなもんだけどな。
それから俺たちは互いの話をしあった。
まずは俺の世界の話から。
俺が死んだのは24歳の時のことだ。
大学には行かずにずっと自宅警備員をやっていた。
ニートというわけでやることもなく引きこもっていた。
ミーナは学生で帰り道にトラックに撥ねられたそうだ。
ミーナも元男らしくなぜ女の身体で転生させられたのかはお互いに疑問に思っている。
「じゃあ私たち同じ時期くらいにこの世界に来たのね」
俺はミーナにそう問いかける。
どうやらそうらしい。
しかし、ミーナが女の子として転生させられているのは少々違和感があるが。
そして、ミーナからも俺の話を聞いた。
ミーナは16歳の男子学生、死因は事故死、その際女神様に会ってこの世界に転生してきたそうだ。
現在ミーナは伯爵令嬢、俺と同じ貴族のお嬢様というわけだ。
俺はパソコンゲームをしていたらその場のノリで殺されて転生させられたんだがな。
その際に魂が飽和状態にあるという話をしたらミーナもその話を聞いたらしい。
「どうやら私たち接点が多いようですわね」
そう聞くとミーナもうんうんと頷いていた。
とにかく悪意のある人じゃなくてよかった。
俺の勘がそう言っていた。
これからはミーナと一緒に行動することにしよう。
こうして、俺はミーナとの協力関係を結ぶことにした。
元男だなんて二人共バレたら大変なことになる。
俺が婚約者の話をすると同情された。
「男の婚約者を見つけないといけないなんて心中お察ししますわ」
しかし探さなければヒステリー男とくっつくことになる。
その点も含めてミーナは同情してくれた。
ミーナはまだ
12歳なので婚約者を探す段階ではない、もっとも12歳で婚約者がいる子もいるそうだが。
「けれど後数年もすれば私もエリー先輩と同じ道を辿るのですね……」
その表情はどこか憂鬱げだ。
無理もない、彼女は元は男性であったのだ。
今は女性になっているとはいえ、やはり男性と結婚しなくてはいけないということへの抵抗感はあるだろう。
しかし、いずれはしなければならないことなのだ。
それにしてもミーナが転生者で本当に良かったと思う。
同じ境遇の仲間がいただけで心強い。
それにミーナはとても良い奴だった。
お互い転生者バレを恐れていたが自分の母の腹から生まれたのだ、誰も信じるはずもない。
俺はミーナが元男だということを知っている。
もちろんこのことは誰にも話していない。
俺たちは互いに協力することになった。
元男同士ということもあり、話が弾む。
それはもう前世では味わえなかった友情というものを感じる。
奇妙な感覚とともに懐かしい気分になった。