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名探偵桜(自称)

作者: 玄栖佳純

 太陽の光が強くなってきました。

 まだまだ風は冷たいし朝晩は冷えるけれど、そろそろ葉を出して花を咲かせましょう。


 あらあら、こんにちは。

 私は名探偵桜。


 名探偵と言っても人間ではありません。

 桜の木です。ソメイヨシノという人間が植えるのが好きな桜ではなく、昔からいる山桜です。


 花は薄紅色。ソメイヨシノよりも少し濃い色をしています。

 暖かくなってくると、赤みが強い葉が出てくるのと一緒に花が咲きます。ソメイヨシノははじめに花が咲いて、それから緑色の葉が出てきますね。


 ソメイヨシノは華やかですけど、山桜は葉と花の色合いが、それはそれは雅なのですよ。

 私は気に入っています。


 桜の名探偵なので名探偵桜です。名探偵山桜でもいいかとも思いましたが、なんとなく山が付くと野暮な感じがしません? だから名探偵桜。ピシッとしゃっきりしますね。


 別にソメイヨシノと張り合っているわけではありません。

 皆さんに説明するときに、分かり易いだろうと思って出しただけです。


 自己紹介はそれくらいにして、何か知りたいことでもありますか?

 私にわからないことはありません。なんでも聞いてみてください。


 何を聞けばいいかわからないのですか?

 それでは仕方がありません。私が試しに答えてあげましょう。


 たとえば、私の足元で泣いている子供がいます。

 さっきからうるさいと思っていたのですか?


 あらあらそうだったんですか?

 もっと早くそう言ってくれたらよかったのに。


 私ならすぐにその原因を突き止めて子供を泣き止ませることができます。

 さて、この子供はどうして泣いているのでしょう。


 では、私が見ていることをお話しますね。

 私が生えているのは少し山の中です。そんなに高い山ではありません。そこの少し平らな場所です。人の家はぱらぱらと立っていますが、旅館とかです。


 人里離れた感じの山の中なんです。

 私はその景色しかわかりません。


 でも、長く生きた経験から、いろいろ推理できます。

 その子供はひとりで来たわけではありません。


 母親らしき女性と、父親らしき男性。

 でも、まだご夫婦ではないみたいです。


 まだと言ったのは、これから家族になるであろうことが雰囲気から感じます。

 女性には息子さん、男性には娘さんがいて、あらあら。このお子さんたち、血のつながらない兄妹になるのかしら。


 あらあら。あらあら。

 将来が楽しみね。


 お互い憎からず思っているようだわ。

 だから男の子が女の子の注意を引きたくて女の子の帽子を隠しちゃったのね。それで女の子が泣いているんだわ。


 ダメよ。

 好きな子の興味を引きたいからって意地悪をするのは。


 さてさて、帽子はどこかしら?

 荷物が少ないから、旅館に泊まっているのね。


 ウチの山は桜の名所だから来たようだけど、満開の桜を観るには少し早すぎたわね。まだ寒いもの。葉も花もあと少し待ってね。


 県外から来たのね。よくあることよ。心配いらないわ。そういう失敗も後で笑って楽しめるようになるわ。来年からはそういう誤差も考慮して旅館を取ればいいわ。今年だってまだこれからだし、桜が咲いたらまた来てもいいし。宿が取れなかったら日帰りね。


 少しくらいなら無理してもいいと思うわ。

 だって無理してもいいくらいウチの桜は綺麗よ。


 ああ、えっと帽子ね帽子。

 きっと可愛らしい帽子ね。


 新しいお母さんに気に入ってもらうために、がんばっておめかししてきたのね。かわいらしいお洋服を着ているもの。それに似合う素敵な帽子。


 この季節は紫外線も強くなっているから、UVカットも大事よ。若いからってそれに甘えたらダメよ。年取ってから大変なことになるからね。女の子の方はそれが解っているようね。偉いわ。


 でも、男の子はそれが気に入らなかったのかしら。お母さんを横取りされるみたいな感情もあったのね。複雑な男心ってヤツだわ。女の子のことも気に入っているのにね。それでちょっとだけ意地悪したのね。かわいいかわいい。


 旅館に泊まって、チェックアウトをして、荷物を預けて観光しているようだから、宿屋からここまでの道筋。それほど悪意はないから、道からちょっとだけ放り投げた感じ……。


 あった。

 じゃあ、小鳥さんにお願いするわね。帽子を口にくわえて男の子の頭の上に乗せてあげてくれない?


 なんで女の子の頭じゃないのかって?

 それは男の子に『ごめんなさい』を言う機会を与えてあげるためよ。


 まあ、自分が見つけたことにして女の子に返してもいいけれど、それじゃあ自分で隠して自分で出してってことになるでしょ。それはさすがに卑怯だわ。そんなことはしちゃいけないわ。


 泣いている女の子に、そんなひどいことはしちゃいけない。

 私はそういう脅しをぐぐ~ってかける。


 桜の木だから直接声をかけられないけれど、それくらいならできるわ。

 そして、小鳥さんが男の子の頭に帽子を乗せた。


 ぐぐ~ってぐぐ~って。

 うむ。謝ったわね。


 めでたしめでたし。

 女の子は泣き止んだし、謝ってもらって笑顔にもなったわ。


 その笑顔があまりにもかわいらしすぎて、男の子はまた惚れ直したようね。

 よかったよかった。やっぱり意地悪をしたりウソをつくのは良くないわ。


 桜が咲いたらまたいらっしゃい。

 その時は盛大に桜吹雪を見せてあげるわ。


 私は名探偵山桜。

 困ったことがあったらいつでもいらっしゃい。

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― 新着の感想 ―
[良い点] まさかの探偵にびっくり!そして、ほっこりしました! 探偵さんの粋なはからいが素敵でした。
[良い点] こころあたたまるお話ですね。 木の神様……というより、元・人間が桜に転生したように感じました。
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