異世界に持ち込まれたカセットテープを巻き戻して再生したい
最近、王国では少し古びた、レトロなものが再評価されている。そんな中、今日は目利きの達人が骨董品の価値を鑑定するイベントが開かれるとあって、会場はあふれんばかりの人だかりである。
観衆は、名品や珍品が登場するごとに、興奮したり、大笑いしたりと、会場は大盛り上がりである。
最後に、15歳くらいの少年の依頼品が紹介された。透明で小さなガラスの薄い箱のようなものに、観衆はしんと静まり返った。会場を盛り上げていた司会も言葉を失った。
「こ、これはいったい、何でしょうか?」と司会もなんとか進行させようと少年に尋ねた。
「亡き母の遺品です。」と表情も変えずに少年は答えた。
「果たして、どれくらいの価値があるのでしょうか!」と、司会は目利きの達人に丸投げした。
しばらくして、鑑定結果を発表される時がきた。観衆も、司会も、少年も固唾をのむ。「せーの!」という司会の一声があって、スクリーンに結果が表示された。
「不明」
その鑑定結果に達人は、
「これは我々の世界では扱えない物のようだ。だが、隣国のオオハバシにあるガラクタ商ならなにか知っている者がいるかもしれん」と評した。少年はむろん消化不良だが、これにて閉幕となった。
翌日、少年はオオハバシに足を運んだ。見たこともないガラクタを集めた店ばかりである。
すると、「おや、それはカセットテープではないか」と声をかけられた。
「カセット、テープ、ですか?」
少年は、声をかけた露店商にこれを見せることにした。
「この世界にはない科学技術の産物だよ。ちょっと見せてもらおうか。」
少年は露店商に、気になっていることを聞いてみることにした。
「この細長い面の一部は、割れてるのですか?」
「いや、ここは爪といってな、これを折ると記録の上書きができなくなる。
つまり、消せない何かが保存されているかもな。」
少年は、ようやく遺品の正体にたどり着きそうだと興奮気味である。
一方で、露店商は「内容を知るにはアイアンの粉が必要だな」と冷静に呟いた。
アイアンは、鍋などに使われる卑金属だが、少年はそのようなものがなぜ必要かがわからない。
「この茶色いテープにはアイアンの粉と反応する材料が使われてるんだよ。」
「よし!」と露店商が一声出すと、
「ワシの知り合いの魔導師にかけあってみよう。こんなに興奮する品は久々だ!」
少年は母が残した物の内容を知りたい一心で、露店商の後に続いて歩き始めた。