裏山で「かくれんぼ」をしてはいけない
これは、私が叔父に聞いた話です。
母の話では、彼は小学校の受験をきっかけに、この町に移り住んできたそうです。
叔父は、変わったところがある人で、身内以外、顔を合わせることはありません。
私が叔父に初めて会った時、彼はこんな話をしてくれました。
僕の小学校には、大切なルールがあるんだ。
君にも、教えてあげるね。
「学校の裏山では、かくれんぼしてはいけません」
なんでって、思ったでしょ。
僕も、お母さんに聞いたんだ。
「山の中だと、足元がぬかるんで転んだり、葉っぱのしたに大きな穴があって怪我したりするから、危ないのよ」
そうかぁ、じゃあ仕方ないなって思った。
僕だって、怪我したりしたくないものね。
でもさ、ある日友達が、裏山で見つけた、カブトムシを見せてくれたんだ。
角がながくて、とっても格好が良かった。
僕も欲しいなって、友達に話したんだ。
「でも、裏山は危ないっていっていたよ」
「『かくれんぼ』じゃなきゃ、いいんだよ」
そうかなぁ。
でも、変なところに隠れたりしなきゃ、大丈夫なのかなぁ。
友達はね
「うちのかあちゃんは、裏山には神様がいるから、『かくれんぼ』はダメって言ってた」
『かくれんぼ』だけ、だめなのかなぁ。
お母さんに話したら、やっぱり怒られる気がしたんだ。
だから、内緒で、友達とカブトムシを採りに行くことにした。
裏山には、何とか歩けるくらいの道があってね。
落ち葉が多いところは、拾った棒でつつきながら、僕はいろんな木を探したんだよ。
でもさ、全然見つからなかった。
友達が言うにはさ、朝早くか、夜だと沢山いるっていうんだ。
そんな時間に、遊びに出かけるのは、ちょっと難しいなって思ったんだ。
なかなか見つからないから、僕はちょっと木陰で休んでいたんだよ。
そしたらさ、僕らと同じように、裏山に遊びに来た子がいたんだ。
麦わら帽子をかぶった、年下の女の子だった。
「何しているの」
「カブトムシを探しているの、クワガタでもいいんだけど。」
「そう、見つかった?」
「ううん、全然いないんだ」
その子はさ、少し考えてた。
「じゃあさ、『隠れん坊』しない」
僕は、裏山で『かくれんぼ』は、危ないからダメなんだよって教えてあげた。
そしたらさ、その子が、まるでお姉さんみたい言ったんだ。
「あなたは良い子ね、いつまでも、そのままでいてほしいわ」
僕は褒められてうれしくなった。
小さな女の子からだって、褒められたらうれしい。
言い方がお姉さんみたいで、ちょっと生意気だなって。
生意気だけど、可愛いなって、思ったんだ。
だから、誘ったんだよ。
「また今度、僕の家で遊ぼうよ」
一緒に行った友達は、あの日にどこかに行ってしまったんだ。
きっと、山でけがして、病院にいったんじゃないかと、僕は思ってる。
「君も、裏山で『かくれんぼ』は、しちゃいけないよ」
叔父は、その話を終えた後、今度はパトカーの玩具を手に取りました。
「ぴーぽーぴーぽー」
叔父は楽しそうに、パトカーを走らせていました。
そうして、誰もいない場所に向かって、話しかけるのです。
「やぁ、また遊ぼうね」
彼は今年で、35歳です。あの日から、ずっとそのままでいます。