二話
「魔王様、勇者について少しお耳に入れたいことが。」
側仕えのリズからそういわれたのは前回の勇者に関する報告から一週間後のことだった。
「なんだ?申してみよ。」
怪訝な表情で先を促す魔王にリズは、恭しく一礼してから話し始めた。
「監視していた者から報告がありました。どうやら、勇者がこの一週間の間に新たに二つものスキルを手に入れたそうです。」
何かを口に含んでいたら盛大に噴き出していただろう。
それほどの衝撃を受けるような発言だった。
「一週間にスキルを二つだと?監視している奴の間違いではないのか?」
「いえ、私もそう考えましたが鑑定石を使って何度も確認したとのことです。間違いないでしょう。」
「…想定以上の成長速度だな…。」
「どういたしますか?」
魔王は顎に手を置き、少しの間考えるそぶりを見せ、
「…出る杭は早めに打っておいたほうが良さそうだな。勇者は確か”ハスラタ樹海”にいるのだったな?」
「はい。そこで低レベルのモンスターの存在値を稼いでレベルを上げているそうです。」
「ならばそこに下位竜を送れ。如何に強くてもまだ召喚されたばかり。見るに仲間もとびぬけて強い者もいない。それで十分片付くだろう。」
「承知いたしました。呪術師に命じ、直ちにハスラタ樹海に下位竜を召喚させ勇者を襲わせます。」
「頼んだぞ。」
リズは来た時同様に恭しく頭を下げ部屋を出た。
「…なにか胸騒ぎがするが、気にする必要はないか…これで勇者も終わりよ。」
その魔王の小さなつぶやきは、静かな部屋に溶けていった。
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