表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/17

#5(大視点)

俺の前にはなみぃがいる。

不安だったんだろうな。そんな風に見えた。

そんな姿を見て、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

俺は少しずつ、これまであったことを話し始めた。



退院のときに聞いたなみぃの結婚はとてつもない衝撃だった。

いや、結婚したいとかそういう気持ちではなかったと思ってたんだけど、とにかく衝撃的だった。

地面がなくなったように感じた。

立っている感覚も歩いている感覚も朧気だった。

幽霊ってこんな感じかな。

生ける屍ってこんな感じかな。

リビングデッドってこんな感じかな。

リビングデッドか、懐かしいな。カードゲームにそんな名前のカードがあったな。

……そんな話はどうでもいいよね。

リビングというとやっぱり居間だね。

だからか、リビングデッドって一瞬居間で死ぬみたいなことを想像しちゃうよね。

そんなことないか。そんなことないよね。

ていうか、こんな話もどうでもいいよね。


ともかく、結婚の話を聞いたとき辛かったんだよ。

均ちゃんも三井さんも同じような気持ちだったんだと思う。

あのときのなみぃの顔は本当に素敵だった。

可愛かった。

綺麗だった。

なにより、幸せそうだった。

そんな顔が見れて嬉しかった。

でも、辛かった。

なみぃの声がどこか遠くから聞こえるようだった。

せっかく退院祝いをしてくれるって言ってくれたのに。

今になって後悔してるよ。

後になって悔いてるよ。後で悔いると書いて後悔。

だから、後悔先に立たず、なんて当たり前すぎることがことわざになっているのはおかしいと思う。

そんなおかしい世の中、おかしことをおかしいと言えないことがやっぱりおかしいんだと思う。


……何が言いたいんだろうね。

それは俺にもわかんない。

ただ思ったことを話してるだけだから、何を話したかも覚えてないし、支離滅裂になってても不思議じゃない。

ああ、うん。話を戻そう。


それから、俺たち三人は互いに連絡を取り合った。

互いの気持ちを確認しあった。

やっぱり均ちゃんも三井さんも辛かったって言ってた。

なみぃの顔がいつもより輝いて見えるようだったって言ってた。

辛いけど幸せで、幸せだけど辛いって言ってた。

幸せと辛い、一画違うだけで雲泥の差だって誰かが言ってたなって言ってた。

誰が言ったのかな。うーん、たぶん三井さんかな。

三井さんはそういうこと言いがちだし。

あの人はやたらと発想を飛ばすことがあったよね。

話の腰も折りがちだし。

元々何の話をしてたのかわからなくなることがあるってよく本人も言ってたし。

終わった話題を掘り返すこともあるし。

いちいち何か考えて、何考えてるのかわからないところがあったよね。

俺もそういうところはあるから、気持ちはわからないでもなかったけど、結局何考えてるかはわかんなかったな。

ああ、うん。話を戻そう。


それからもいろいろ話して、旅行に行こうってことになった。

いわゆる、傷心旅行。

どこでもいいからとにかく楽しく過ごそうって考えて、派手に遊ぶよりかはゆっくりできるところがいいなってことになって、温泉にでもつかろうってことになった。

でも、温泉に行く途中も、全然楽しくなかった。

空気が重い、重い。

明るくしようとしても、なんか空回りして。

滑った空気がおもしろくなることもなくて、ただただ辛い時間。

まあ、それも当然で。みんな辛かったからね。

相手の気持ちもわかる分、下手に声をかけることもできなかったし。

ゆっくり温泉につかってると、辛い気持ちが温泉に溶けているようにも思えた。

なんて、三井さんは言っていたなぁ。

あの人はたまに文学的になるところがあるんだよなぁ。

ナルシストなのかなって思うことが多かったなぁ。

たぶんナルシストだったんだろうね。

ナルシストですか?って聞いたら、うーん、そうかもって答えてただろうね。


俺もただ何も考えず、温泉にその身をゆだねてると、少しずつ気持ちも楽になるように思えた。

ただただ時間だけが過ぎていった。

時間が解決してくれることもやっぱりあるんだなって思ったよ。


少し気分が楽になると腹が減るもんだとわかった。

人間、わりかし丈夫にできてるもんだと思った。図太いもんだね。

食事のついでに酒も飲んだ。

でも、これがいけなかったんだと、今なら思う。

酒が入ると、辛いとわかっていてもなみぃの結婚について話さないではいられなかった。

何で奈美ちゃんはあんな奴と結婚を、なんてことを三井さんは言ってたけど、藤田さんがいい人なのは俺たちもわかってたから、反対もできなかった。

けど、素直に祝福する気持ちにもなれなかった。

そんなときふと、言っちゃったんだ。

誰が言ったのか、俺が言ったのか、死ねばいいのに、って。

冗談だったんだと思うけど、ふと湧いた殺意を止められる人はその場にはいなかった。

話はどんどん膨らんでいった。

どうやって殺したらいいか。

どんな場所で殺したらいいか。

殺したところで捕まるなんてまっぴらごめんだ。

殺すなら完全犯罪。

罪悪感に押しつぶされるかも。

できるだけ、罪悪感の少ない殺し方を考えよう。

どうしたらいいだろう。

どうしたら……。


そんなことを三人で延々考えた。

それで考え付いた。無理やりチキンレースをさせようって。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ