#14(三井視点)
奈美ちゃんがこの場を離れていく。
これで一時的とはいえ、奈美ちゃんを避難させることができた。
あとは私たちの手で決着をつければいい。奈美ちゃんが戻ってくるまでそんなに時間もないだろうし、急がないと。
「さて、均ちゃん。どうしようか。バラバラになっても動きそうだから、燃やすしかないかなって思うんだけど」
「三井さん。俺もそう思ってたところ。さすがになみぃの前で火だるまにはなれないから言い出せなかったけど、それしかないかなって思うよ」
やっぱりか。均ちゃんとは考えることが近いとは思ってたけど。
「なら、どうやって燃やしましょう?燃やすにしても、人間って簡単に燃えないですよね」
「燃やすにしても、どうやって火をつけるの?三井さん」
「それなら、この前奈美ちゃんのとこに行ったついでに、家からジッポをとってきました」
ポケットからジッポを取りだして均ちゃんに見せる。
「三井さん、準備がいいね。俺は三井さんに燃やされるとこだったんだね」
「なんでそうなるんですか。最悪、自分で自分の身をどうにかしないといけなくなるかもと思って、とってきたんですよ」
「なら、どうしてロープとかは準備してないの?え?バカなの?」
「なんでそうなるんですか!そもそもどんな状況になるかわからなかったんですから、しょうがないでしょ」
均ちゃんは何でいちいちあおってくるんだろう。
でも、こういうやりとりが均ちゃんと私の関係っていうか、少しイライラすることもあるけど、おおむね楽しい。少しイライラすることもあるけど。
「火種はあるんで、あとはどうやって燃やしやすくするかですね」
「何言ってるの、三井さん。ガソリンやら灯油やら、いっぱい運んだじゃない。忘れたの?とうとうボケたの?ボケなのにボケるなんて笑えないよ?」
ああ、そうか。藤田さん殺害計画でいろいろと準備したんだっけ?……って
「ちょっと、均ちゃん。ツッコミがきつくないですか?そこまで言わなくてもいいじゃないですか」
「気にすんな、三井さん。今に始まったことじゃない。今までも、これからも、何も変わらないから」
「変わらないのは、それはそれで問題だと思うんですけど」
「まあ、そんなことはどうでもいいとして、このまま藤田さんを運びますよっと」
……釈然としない気持ちを抑えて、均ちゃんの言う通り、藤田さんを三人で協力してえっちら、おっちら運んでいく。
わけわかんないくらい強い力をどうにか抑えつつ、目的の場所に運ぶことができた。
「さて、どうやって藤田さんにガソリンをかければ……」
「何言ってるの、三井さん。冗談は存在だけにしてよ。このままみんなで被ればいいじゃない。どうせこのままじゃいられないんだから」
「……なかなか大胆なこと言いますね、均ちゃん。でも、それもそうですね。大さんもそれでいいですか?」
コクコクと首を縦に振る大さん。この人の覚悟もなかなかだなぁ。
「じゃあ、奈美ちゃんが戻ってくる前にちゃっちゃとやっちゃいますか。早くしないと巻き込んじゃうかもしれませんし、巻き込まなくても目の前で火だるまですから」
「そうだね。じゃあ、このまま突っ込んで、よきところで火をつけてね、三井さん」
「了解!」
ガソリンに近づいていくと、藤田さんが暴れはじめた。
「くぅ……。理性はなくなったと思ってましたけど、藤田さんも何が起こるのかわかるみたいですね」
「でも、俺たちならなんとかできるでしょ。まさに死ぬ気なんだし」
均ちゃんの言葉に大さんがコクコク頷いてる。
「死ぬ気って言っても、もう死んでるんですけどね、私たち」
「あーあ、三井さん。冗談は顔だけに、って、俺にツッコむチャンスだったのにー」
ケラケラと笑う均ちゃん。
たしかにその通りだ。これは一本取られたな。
「また次があれば、ちゃんとツッコみますよ」
「次だなんて、冗談は存在だけにしてよ。まったく、三井さんは」
こんな状況でもいつもと変わらないやり取り。もうすぐ、今度こそ本当に死ぬっていうのに。でも、これが私たちらしい最後ってやつなのかもしれない。




