#11
結局、均ちゃんの話はよくわかんなかった。
どこら辺がつじつまがあってるんだか、それもよくわかんない。
優さんが私に会いたいって思ってくれてたのはうれしかった。
ただ、見た目が……。においも……。いくら愛があっても生理現象まではどうにもならないし。
「それで、みんなはどうしたいの?」
話を聞くには聞いたけど、結局どうしたいのかは言ってなかった。
優さんは私と結婚したいみたいだけど、他の三人は?
「特に何も。俺も大ちゃんも三井さんも。なみぃの応援は続けたいけど、この姿じゃあねぇ。何かできないか、これから考えるつもりではあるけど」
意外と前向き。いつまで動いてられるか、わからないのに。
一度死んでるからかな?一度死んでるからもう怖いものなんてないのかな?
「結婚、しましょう、奈美、さん。私は、変わらず、あなたを、愛し、て、います」
……優さん。
「優さん。お言葉はうれしんですけど、結婚はもうできません」
「どうして、ですか、奈美、さん。やっぱり、私の、こと、嫌いに、なり、ました、か」
「今の優さんの姿を見るのはつらいんです。それと、においも。一緒に暮らすのは耐えられそうにもないんです」
私に言葉に優さんは固まっている。よく見ると、小刻みに震えているように見える。
もしかして、怒ってるの?
優さんの顔を改めてしっかり見て、背すじが凍った。
目が、黒目が震えている。
上下左右に、しかも、左右の目が別々に、違う動きをしている。
意識せず、後ずさりをしてしまっていた。
「どうして、奈美、さん。こんなに、愛して、いるのに。愛さえ、あれば、姿、や、形、なんて、小さい、ことじゃ、ないか。性別、だって、越え、られる、のに。どう、して……。どう……」
優さんの様子がおかしい。
「そう、だ。一緒に、なろう、奈美、さん。私の、からだの、一部に。そう、すれば、私、と、奈美、さん、は、永遠、だね」
え?どういうこと。優さんのからだの一部?
もしかして、私を食べるってこと?
「ちょっと、何言ってるの?藤田さん。奈美ちゃんを食べるつもり?均ちゃんじゃないけど、冗談は顔だけにしといてくださいよ」
そう言いながら、優さんの肩に手を置こうとする三井君。
次の瞬間。三井君の姿が消えた。
少し遅れて左の方から何かがぶつかるような音が聞こえた。
音をした方を見ると、三井君が倒れていた。
「奈美、さん。私と、一つに。私の、一部に。これで、永遠」
優さんが近づいてくる。
優さんは一度死んで壊れてしまったんだ。
逃げたいけど、足がすくんで動けない。
すると、私と優さんの間に大ちゃんと均ちゃんが立ちふさがった。
「吹っ飛ばされるなんて、ホント、冗談は顔だけにしてほしいよ、三井さんは」
均ちゃんの言葉に首を縦に振っている大ちゃん。
「だから、ホント、それしか言わないですね、均ちゃん。私の顔ってそんなにもおかしいですか」
言いながら、駆け寄ってくる三井君。
三人とも優さんから私を守ってくれようとしてるんだ。
少し前にはケンカしてたんだよね、私を誰のバイクの後ろに乗せるかで。
あのとき、私、変なこと言っちゃってたなぁ。今もそれを言うときなのかな。
「わ、私のために、争わないで!」
わっ!言っちゃった。
「なみぃ。それは藤田さんに言ってほしいな。藤田さんが止まれば俺たちも止まれる。今の藤田さんに言葉が通じればだけど」
……今の優さんに言葉は通じないと思う。
優さんは三井君に手をあげた。
あの誰にでも優しい優さんが暴力を振るった。
今の優さんは私の知ってる優さんじゃないのかも。
今の優さんには私が何を言っても止まってくれない。
私は大ちゃんたち三人に守られるしか、ない。
「……ごめん。大ちゃん。均ちゃん。三井君。優さんを、止めて」
こんなことしか、私には、言えない。
「なみぃ。元からそのつもりだよ。今の藤田さんじゃなみぃを笑顔にできそうにないから」
「それを言うなら今の私たちも奈美ちゃんを笑顔にできないかもしれませんけどね」
「三井さん、冗談は存在だけにしといてね」
「存在!?私の存在自体が冗談?どういうこと?均ちゃん」
言い争う均ちゃんと三井君。二人を無視して優さんのことをしっかり見ている大ちゃん。
見た目はみんなゾンビなのに、何だろう?大ちゃんたち三人はあんまり気持ち悪くないかも。




