#10(均視点)
いつか死ぬ、死ぬとは思ってたけど、こんな形で死ぬとは思わなかったな。
できたら、みんなに囲まれながら、大好きななみぃに手を握られながら、もちろん抱き着かれながらでもいいけど、そんな形で逝けたら、なんて考えたこともあったのにな。
みんなの中には、もちろん大ちゃんがいて、三井さんも、いや、三井さんはいなくてもいいかな。
……あれ?三井さんがツッコんでこない。
まさか、バイクで事故るなんて考えもしなかったよ。
まさか、その事故のとき、三回転半も回るなんて。しかも、縦回転。
羽生君もびっくり。内村航平もびっくり。白井健三もびっくり。
いや、白井ならさらにひねりを加えてくるかな。
それから後のことは大ちゃんが話してると思う。
大ちゃんはなみぃに話した後、俺たちのところに戻ってきたらしい。
そのときはまだ死んだままだったから、俺たち。
それで大ちゃんは大量の睡眠薬を飲んだみたい。
どっからその睡眠薬を手に入れたんだか。
その睡眠薬があれば、藤田さんを拉致るときに使えたのに。結局普通に声かけただけじゃん。
何?忘れたの?
忘れてたら、こりゃもう、お手上げだね。
それで、気がついたら、みんな動いてた。
もしかしたら生き返ったのかも、なんて最初は思ったけど、全然違った。
まず痛みも何も感じない。暑さ寒さも感じない。
三井さんがどれだけ滑っても、どれだけ空気を凍らせても、何も感じなかった。
……三井さんは何も答えない。ただの屍のようだ。あ、本当に死んでるんだっけ?
それから、心臓が動いてないことに気づいた。
よくよく意識してみれば、息を、呼吸をしてないことにも気づいた
だから、傷口から血が出ないことにも納得ができた。
かなりの出血をしたはずだから、血を出そうにも出せないんだと思ってたんだけど。無い袖は振れないみたいな。
そこで思い出したのが、この場所についてのこと。
ここは、そもそもいわくつきの場所で、昔は何かの軍事施設で怪しげな研究をしてたらしいんだ。
で、その怪しげな研究ってのが死者を復活させるってものだったらしい。
たぶん死んだ兵士を生き返らせてまた戦わせようってことだったんだと思うんだけど、実験に成功する前に戦争が終わって、ここの施設は閉鎖、っていうか、爆破されたらしい。
研究資料を渡さないためとか、なかったことにした方がいろいろと都合がよかったのかもしれないね。
俺もさっきからこの話の途中途中でボケてることがなかったことになったらどれだけ都合がいいか。三井さんならわかるよね、今までずっとすべり倒してきたんだから。
たぶん、その技術かなにかが作用して、俺たちは今動いてるんだと思う。
ただ、動いているといっても個人差があるみたいで。
俺と三井さんは生きてるときとあんまり変わんないけど、藤田さんはしゃべるのが変に遅い。
大ちゃんはなぜかしゃべらない。しゃべれないのかもしれない。でも言葉はわかるみたい。
藤田さんは元々そんなに話す方じゃないし、大ちゃんはしゃべらないから、自然と俺と三井さんが話すことが多くて、なぜか漫才みたいなやり取りになって、ヤになっちゃうよね。
……三井さん、ここでも何にも言わないつもり?ツッコミもなし?って、こんなこと言っちゃうと何か俺が寂しい奴みたいじゃない。寂しいのはむしろ三井さんでしょ?
それで、藤田さんはとにかくなみぃに会いに行こうとするから、止めるのが大変で大変で。
こんな見た目でよ?血まみれで、においはわかんないけど、どう考えても腐ってるでしょ。きっとすごいにおいを発しているはずなんだよ。
そんな状態でなみぃに会いに行く?正気の沙汰とは思えないでしょう。
それで、昨日、とうとう藤田さんはなみぃに会いに行っちゃったわけ、俺たちの隙をついて。
……何?三井さん。隙をつき 好きな奈美ちゃん 会いに行き?
アホなの?アホの子なの?三井さん。
そういうのをオヤジギャグっていうだからね。ていうことは、三井さんはオヤジってことだからね。自覚してね。
話はこんなところかな。大体の話は終わり。
まとめると、昔のよくわからない技術か何かで俺たちは動いてる。
動いてるって言っても個人差がある。
藤田さんはとにかくなみぃに会いたかった。
三井さんはオヤジ。
こんなとこだね。




