表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/5

第二話 姫と改変法

 俺は深夜、姫の世界で、風景から人間が欠け落ちた公園で姫を前にして騎士の能力を上手に扱うための訓練を受けていた。



 深夜なのに日は落ちることない。辺りに爽やかな日光を燦々と撒き散らされ、俺を時差ボケに導く。このままでは今日の学校に行く時間になったら眠ってしまいそうだが、そもそも明日香のいる学校に行く気分になれるわけがない。当然お休みだ。



 だが、いきなり姫に今日から訓練を受けてもらうと言われた時には気乗りしな買った。「げっ、そんなのあるのか」ともらしてしまうぐらいには。そんな俺の態度に姫はあからさまに不機嫌になって「当然ではないか」と呆れた。しかし俺は生まれたこれまで努力しようと思ったこともなく生きてきた。つまり俺にとって訓練というものは非日常なファンタジーと同列の扱いなのだ。そんな俺がまともに訓練を受けようと思えたのは、姫が扱う魔法のような力に興味が湧いてきたからだ。



 近くで仁王立ちしている姫は動きやすいという理由でホットパンツとパーカーという服装をしている。どうやら服は自由に変えることができるらしい。



疎密そみつを感じ取れ。流れをつかんで、流れを見よ」

 姫は右の手のひらを螺旋を描くように回して、軽く小さな、といっても2メートルぐらいの高さはある竜巻を起こしてみせた。

 そこらへんに落ちている木の葉を吸い上げて舞い上がり、そして時と共に少しずつ弱まって消えていった。

「どうだ?存在の密度の偏りがわかるか?」



「わかるような、わからないような....」



 姫がさっき扱ったのは改変法という現実改変を起こす魔法のような技だ。俺は今この改変法に関する講義を受けている。

 姫が俺に与えた祝福には二つの効果がある。一つ目の効果が、身体能力の大幅な増強。対象は視力から筋力、毒分解まで多岐にわたる。二つ目の効果が、さっきいった改変法に関する素養だ。一般人が努力で改変法を身につけるのは至難の技で、ほとんど不可能。だが騎士契約によって俺の存在性というものを感知し操作する力を大きく底上げされたらしい。



 姫は説明する。



「この世界のものには全て存在性というものがある。存在性とは、そのものがどれだけこの世に存在できるか、という力のことだ。そして一つのものがもつ存在性の密度のことを存在度と呼ぶ。ほとんどのものの存在度は多少の揺らぎがあるが同じぐらいだ。この存在度が高くなると、存在を押し付けてくるようになる。存在を押し付けてくると、異常な存在感を放ったり、周りに何か大きな影響を与えてしまう、といった異常現象を引き起こす。逆に存在度が小さいと、因果的影響が減少する」



「改変法は、そういった存在性を操ることで世界を自由自在に変えてしまおうという技術。貴様は騎士としていち早くこれを習得してもらわなければいけない。騎士契約によって貴様はこの技術を自由に使えるだけの才能を得ているのだから」



 そう姫はいうが、この改変法というものはとても難しい。というか俺は存在性の把握という姫曰く初歩的な分野でつまずいてしまっている。



 現に、すでに百回も姫から存在性に関する講義を受けているのに姫の期待通りの成果を出せない。

「もやっとしたようなものが一気に動いた、って感じはある。だけどそれが一体何なのか、頭で理解できても感覚で理解できない」

 今の俺の状態は一生目に何も見えなかった人がいきなり視力を与えられたような状態なのだ。そんな人に、いきなり青色はどれか、黄色はどれかって聞いてすぐにわかるわけがない。

 しかも存在性というのは悠久の果てまで途切れることのない霧みたいなものだ。もし目の前の霧が晴れても、他の霧が晴れた分だけ埋め尽くしてくるので、本当に霧が晴れたかどうかわからない。



「じゃあ、そのもやっとした物を掴めるか?」



「掴める、って?」



 と俺は手をグーパーさせるが、虚空しか掴むことができない。

「そうじゃなくて、存在しない手で掴め」

「存在しない手?」



「もやっとしたものが空中をただよっているのを感じられるのだろう?それらを頭の中で遠隔操作するイメージを描いて現実に投影しろ」


「投影ってどういうこと?」


「イメージが現実であると自己暗示させるのだ」



 姫の指示は抽象的で理解しずらいが、なんとか成功させようと試みてみる。姫と俺の間の空間にあるそのもやっとしたものである存在性を動かすイメージを描き、それが現実であると思い込ませる。

 すると、俺と姫の間で爆発が起きた。

 その爆発は俺を飲み込み、火の粉をあげて土を巻き込んで爆風を撒き散らした。



「姫!?」



 この爆発で姫が怪我してないか?と心配になったが、土煙が晴れると無事な姫の姿を確認できた。若干煤汚れているが、どこも大丈夫なようだ。



「よかった」

「どこがよかったっていうのだ!貴様、自分の姫に何をしたのかわかってるのか!?」



 だが、姫の怒りは心頭に達したようだ。声を荒げて非難してくる。



「こんな爆発が起きるなんてそもそも予想できないよ!」



 俺はその怒りは理不尽だ、と言葉を付け加える前に姫が更なる酷評を重ねてくる。



「普通程度の集中力さえあれば、存在性が衝突し臨界状態に達して暴発するなんてことになるのはありえない。貴様がちゃんと集中力を持っていればいいだけの話だ!言葉のセンスだけではなく、改変法のセンスまで絶無とは」



 姫は普通の竜巻だけではなく、罵倒の竜巻を作り上げることも得意らしい。最初の頃はこれほど罵られることもなかった。


 姫が改変法を行使して、俺が「よくわからない」といい、姫が「最初だからわからないのも仕方ない」と宥める。そんなやりとりを何回もやった。俺が全然感覚を掴めないでいるために少しずつ姫の苛立ちが募っていく。俺は少しずつそんな姫の態度に慣れてきていた。


 姫はまぁいい、と吐き捨ててその身体中についた煤を、おそらく改変法を行使して振り払った。


 そして姫がそこで待っていろ、といって俺の前まで歩いてきたので、どんな暴言を浴びせてくるのか、と少し身構えた。

 すると姫は右手を俺の足から頭にかけて振り払った。



「え?」

「騎士が薄汚れたボロボロの服を着ているようだったら示しがつかないだろ。当然の処置だ」



 確かに服を見ていると、さっきの爆発でつくはずの煤汚れがついてなかった。おそらく改変法を使ったのだろう。



「さあ、もう一回同じのを今度は自分の姫に火の粉一つ降りかかることもないようにやれ」

「ま、まって」



 俺は姫を静止させた。



「さっきので、どっと疲れた。少し休ませて」



 あの作業は非常に集中力を使う。正確なイメージを構成しないといけないからだ。これを連発なんて無理な話だ。精神がもたない。



「精神力が脆弱すぎる。協会との実践までにどれだけ準備を整えられるがはなはだ疑問だ。まあ、ここらで騎士や姫について説明しようと思ってたからそっちの講義に移ろうか」



 というと姫は公園の自動販売機に向かい、殴って缶ジュースを落として取り出した。

 自販機の使い方が違う、という咎めとそもそも人間がいないのになぜ自動販売機が稼働できるのか、という疑問を喉から出かけてそうなところを飲み込んだ。



 そもそも金を出す相手がいないから別に自販機に金を入れる必要もないし、稼働してるのも何か超常的な力のおかげなんだろう。



「ほれ」



 といって姫が自販機の前から俺に向かってジュースを投げる。姫がたまに見せる俺への気遣いだ。



 俺はそのジュースを右手で軽くキャッチする。

 姫は近くのベンチに座り、指でトントンと隣を叩いて、隣に座れと促した。



「休憩がてらに貴様の質問にいろいろ答えてやろう。権限的に可能な範囲であれば、貴様の騎士としての任務遂行に差し支える可能性がある疑問には全て答えてやろう」

「じゃあ初めに、その権限的に可能な範囲ってなに?」



「権限的に可能、というのは私がその行動をとることを制限されていないという意味だ。例えば私は地球に降り立つことは権限的に可能だが、地球にいる人と接触するのは権限的に不可能だ。それゆえに、私が地球にて声を発しても一般人が聞き取ることはできない。例外は騎士だけだ」



「なるほど、わかった。なんで協会と姫は戦ってるんだ?」

「そうだな、どこから語り始めればいいだろうか」



 そして語られた姫の話をまとめるとこうだ。



 曰く、姫は元々地球で暮らしていたらしい。元々、といっても千年以上前の話だという。つまり姫は千才を超えているのだ。



 俺は呆気に取られたが、姫は続ける。



 その千年以上前は、この姫の世界(姫にそう呼ぶようにと言われた)にも姫以外の住人がたくさんいたらしい。住人といってもほとんどが人外の生物だが、と姫は付け加える。



 人外というのはいわゆる神とか怪物とかそういうものの類いだ。姫もそういうものに連なる存在で天帝少女、という通称で呼ばれていたらしい。



 ある日、姫は中央の天帝(姫の世界における王様のような存在)の宮殿に呼び出されて、こう告げられた。来るべき時が来るまで眠れ、と。そして20世期初頭、ようやく千年の眠りから醒めると、姫の世界の住人がことごとたおれていたのだという。



 その原因が、地球から姫の世界に供給される存在性の不足だと姫は見抜いた。早速問題を解決すべく、地球に降り立つが問題がおきた。なんと姫は地球への干渉を一切することができないのだ。権限的にその行動が制限されていたのだ。



 困り果てた姫は天帝の命で眠りにつく前に眠りから醒めたら読めといわれて遺された書物があったことを思い出す。その書物には、『騎士制度』というものが記されていた。



 いつかこの姫の世界への存在性の供給は断たれることになる。そうすれば姫の世界の生きものや神秘の力を持った道具の活動が完全に停止してしまう。ところで、姫の世界を復活させる力を秘めた宝具が存在する。それらの宝具を姫の世界に置いたままにしとくとこれらも一緒に昨日停止してしまう可能性がある。だから宝具は地球に隠された。ほどなくして地球から姫の世界への存在性の供給が絶たれ、姫の世界の生き物や道具が機能を停止させる。姫は姫の世界の住人を救い出すために地球にある宝具を回収することになった。だが、今の姫は地球の住人と触れ合うことが権限的に不可能だ。しかも地球に直接干渉することさえできない。なのでランダムに選ばれた騎士に祝福を与えて地球での活動の協力としなければいけない。



 姫は先代騎士の記憶にはアクセスでききない。だから姫にとって体感的には俺が最初の騎士だが、実際はこれまでに数人の騎士と契約していたようだ。それら先代の騎士とともに宝具の回収を進めるうちに、地球上のある組織が宝具を独占管理していることに気がついた。その宝具を独占管理していた組織こそが協会。



 姫は姫の住人の復活に必要な宝具を奪い返さなければいけない。教会はその宝具を独占している。だから必然的に協会と戦うことになるというわけだ。



「てか俺が騎士として選ばれたってどういうこと?」

「この世界に迷い込むこと。それが騎士として選ばれるということだ。感情が激しく揺れ動いて自我が崩壊するほどの衝撃を受けた際にこの世界に迷い込みやすくなりやすい。貴様の場合は、告白の拒絶が自我が崩壊するほどの感情の揺れ動きを引き起こしたのだろう」

 俺は苦々しい思い出から目をそらすために話題を変える。

「協会ってどういう組織なの?」



「超能力者や異常存在を独占収容する国際組織だ。改変能力を持った現実改変者や職員、研究者によって構成される。地球上で異常現象が起こるや否やすぐに触手を伸ばして自分の支配下に置いてしまう。宝具も異常現象を引き起こす存在だから異常存在だとして協会の魔の手によって収奪されてしまった」

「そんなのが存在するなんて知らないんだけど」



「彼らは絶対に協会以外へ異常技術を渡さないように独占しているから当然だ」

「そんなことができるってことはめっちゃすごい組織なんだろうな」

「政府機関から企業までありとあらゆるところと癒着しているからな。作戦行動中に盗聴される可能性がある。だから地球上でも私と貴様が会話できるようにこの声に出さずに喋る技術を会得してもらう」



「声に出さずに喋る?」

『私がこうやって口を閉じていても貴様は私が何を喋っているか聞こえるだろ?』



「ほんとだ」

 口を開いてない相手の声が聞こえるというのは非常に奇妙な感覚だ。

「騎士と姫にだけできる特殊な技だ。やってみろ」



「やってみろっていわれてもどうすればいいのかわからない」

「まず頭の中で言葉を想像する」



 言葉を想像する。俺はこんにちはという言葉を頭の中に想像した。



「その言葉を私に向かって伝えよう、と思ってみるんだ」



 こんにちは、という言葉を姫に伝えようと思う。



「どう?できた?」



 姫は頭を横に振る。銀色の神秘的な髪がそれと一緒に揺れる。



「全くできていない。もっと集中して言葉を私に伝えようと念じろ」

 俺は悪戦苦闘した結果、やっとなんとか言葉を伝えることができるようになった。

『こ、こんにちは』



 あまりにも習得に時間がかかったので姫が呆れた顔をしていた。



「瞑想から始める必要がありそうだ」

「瞑想?」



「ああ。目を閉じて精神を落ち着けて何も考えない。そうやすることで改変法の行使に必要な貴様の集中力を底上げする。さらに現実性を行使するための力を溜め込むこともできる」


「とりあえずやってみるか」



 そうは言ったものの。

「無理、難しい」

「早すぎるではないか」



 だが実際無理なものは無理だ。

 何も考えないというのがここまで集中力を使う難しいものなのか、と体験してみて初めてわかった。何も考えないようにしても、必ず何か考えてしまう。



「絶望的な集中力のなさだ。ここまで暗澹あんたんたる未来しか感じさせないとは何か呪われているのではないか?呪いだったら解決の糸口が見える分まだ希望がある」

 姫は頭を抱えた。



「気分転換に何か別のこと教えてくれない?」

「それなら存在性を用いた武器の構成を教えよう」

「武器の構成?」

「このようにな」



 と姫は手を前に突き出すと、そこに簡素な装飾がされたまっすぐの非常に細い剣が現れた。さらにこの剣には並々ならぬ魅力と威圧が存在していた。おそらくこれが存在性の力なんだろう。



「どんな武器でも存在性の力を操ることで作り出すこともできる」



「どんな武器でもってことは、銃とか火炎放射器とかも?」



「それらには寸分の狂いもない非常に繊細なイメージが必要だ。貴様にはまだ難しいだろう。騎士である貴様は剣の構成ぐらいはできるはず。だからまずそれをやってみろ」



 俺もさっきの姫の仕草を真似して剣を作り出そうとする。姫の持っている剣をイメージとして頭の中に作り出す。すると、俺の手中に一本の剣が現れた。


「すごい!できた!」

 姫の持っているものよりも威圧や魅力は格段に下がる。だが超常的な力を使いこなせたことを実感したことに俺は歓喜した。

「そんなに騒ぐな、見苦しい」



 子供みたいにはしゃぐ俺に対して姫は一喝する。



「存在性の力に関する訓練は後回しだ。今は祝福によって得た身体能力を使いこなせるように訓練してやる。貴様の身体能力の制限を解除する」



 姫がそう宣言すると、不意に体が軽くなった。



「うわっ、なんだこれ!?」

 まるで月にでも来たような感覚だ。



「祝福によって筋力、回復力、その他諸々の基礎値が大幅に上昇している。だが貴様の体はそれらの力に不慣れで十全に発揮できていない。だから体を動かして新しく得た力を使いこなしてもらわねばならない。それに武器は存在性を純粋な破壊力に変換することが得意。だから武器を扱うのも存在性を扱ういい練習になるだろう」



「わかった」

「まずは耐えてみろ」



 そして姫は顕現けんげんさせた剣で俺に容赦なく切り込んでくる。俺はそれらの切り込みをどうやって対処していいのかわからず、ただひたすらに剣を構えて姫からの斬撃を耐える。

 斬撃の威力は細身の少女が放ったものとは思えない剛力である。



「やばい、きついって!ストップ!」

「弱音を吐くな!」

「精神論やめて、何か具体的な指示をして!」

「力を直接受け取るな!力を流せ」

「そう言われてもどうやればいいのかわからない!」



 そしてついに、俺の剣が姫の攻撃によって折れた。



「集中が途切れたな。剣が存在性の力を失って折れたのはその証拠だ。貴様がもうやめたい、って思ったせいだろう」

「だって俺には難しすぎるんだよ、こんなの」

「初歩中の初歩でくじけるな!もう一回やるぞ!」



 俺は姫に促されるまま剣をもう一回構成する。その剣の魅力も威圧も俺が最初に構成した剣よりも劣っていた。

 そして何回も姫から打ちのめされることを繰り返すうちに、俺は少しずつ着実に弱くなっていた。剣が姫によって折られるまでの時間が少しずつ短くなっていく。



「ちゃんと真摯しんしにやってるのか!?」



 上達するどころか、どんどんパフォーマンスがひどくなる俺に対して姫は形相をきつくする。



「俺だから仕方ないんだ」

「仕方ないってどういうつもりだ!?」

「俺はもともとこういうのができないんだよ」

 俺の半生で熱中したことも目標を立てたことも努力したこともない。さらに俺には何の才能もセンスがない。俺は何をやってもダメなのだ。

 非日常な力を得たとしても変わることはない。それを知った瞬間。こんな訓練に励むのが途端にバカらしくなってしまった。



「そーだ、今地球に帰ることってできない?」

「なぜ今なんだ?」

「ほら、まだ読み終わってない漫画とか充電器とか取りに行くだけだ。そもそも姫の世界で充電とかできたっけ?」

「そんなもの必要ないだろう」

「俺が生きていくためには必要なの」



 現実と辛さでまみれた日常を耐え抜くために妄想と楽でできた非日常成分が必要なのだ。超常的な力で楽しむはずの姫との非日常の時間。それが努力を必要とする日常の時間となってしまった今、非日常成分を摂取する必要がある。



 姫は頭を抱えた。



「取りに行くだけだぞ」



 実を言うともう一つ地球でやりたいことがある。この非日常的な力を地球で見せびらかしたい。別に見る人は誰でもいい。ただ、俺の行為を見てすごいと思われたいのだ。他人からすごいと思われることなんて人生で一度もなかった。それができるチャンスを逃したくない。

 姫は手の中から一つの高い存在度を持った光り輝く球を顕現させる。それを噴水の中に投げ込む。すると、空を映していたはずの噴水の表面が公園を映した。



「これは天梯だ。この世界と地球をつなぐ通路みたいなもんだ。についてこい」

 姫がその噴水に足から飛び込む。俺もその姫に続く。そしてある公園に降り立った。



「人がちゃんといて動いてる」

「地球だからな」

「というか地球って雑音とか騒音がひどいな。というかこの公園って俺の住んでたところの近くだね、見たことある」



「気づいてるのか気づいてないのか知らないが、貴様は客観的に見てただ独り言を言ってる変な少年だ。私にだけ語り掛けたいのであれば声に出すな」



『それ初めに言ってくれるかな!?』



「地球に住む人々が私を見ることができない事実から簡単に演繹えんえきできることだろう。いうまでもない」



『ちゃんと言ってくれよ。そういえば、地球でも改変法を扱うことってできるのかな?』



 強引に話題を変えて演技っぽい文句とともに俺は空中で爆発を起こす。木や人のいない場所に。だが、多くの人がその爆発に注目している。

「早く離れろ!」



『え、なんて!?』



「早く走って離れろ、と言ってるんだ!」



 俺はわけのわからないまま走った。



「なんて事してくれたんだ!?自分のやったことわかってるのか!?」



『え、ごめん、地球でも改変法ができるかどうか実験しようとしただけで、別に悪気があったわけじゃないんだ』



 姫は怒りに顔をゆがませている。だが俺はなぜ姫がそんな表情をしているのか理解ができなかった。



「バカで何もできない無能だと思ってきたが、ここまでひどいバカだとは思わなかった。何のために貴様に協会の話をしたと思ったのだ!?協会は世界中から異常現象を収奪しゅうだつして独占する組織だぞ。こんな異常現象が起きれば協会が飛びついてくるに決まってる。しかも奴らは政府機関や企業に対して力がある。個人情報や監視カメラの映像など簡単に入手するだろう。その結果、貴様があの異常現象を起こした犯人だと特定されれば協会は貴様を収容するために動き始めるだろう」



 ここにきてやっと自分がやらかした失態をさとった。協会はまだ俺が協会の敵対者であることを知らないはずだった。だから協会に目をつけられずに活動できるはずだった。だけどさっきの行動のせいで協会に目をつけられてしまった可能性がある。



『じゃあ早く姫の世界に戻らないと!』



「それは愚策の極みだ。放火魔が放火した家を見に帰るようなものだ。今は早く貴様の目的を完遂させるぞ。漫画とか充電器とやらをとってこい」



 結局、俺の愚かさは、騎士としての力を手に入れても変わることはなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ