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第一話 非日常との邂逅

 謎の山奥に入って遭難したことに気付いてからもう一時間は経っている。だが未だに人影一つさえ見つけることができずにいる。携帯電話を開いて電波状況を確認するものの通信圏外のままだ。



 そもそもただの少年でしかない俺が少し知らない山に入った程度で電波も通じないほどの奥地に迷ってしまうだろうか。そんなことはありえない。しかしいくら脳内で否定しても視界はここが陽光が生い茂った木の間を通って降り注ぐ樹海であるという現実を押し付けてくる。



 ただしそれでも現実離れし過ぎていて心から現状を飲み込めなかったためか恐怖よりも好奇の色のある困惑の方が強く湧いてきた。



 もしかしてどこかで記憶喪失してしまったのだろうか。解離性遁走って言うんだっけ、とアニメから得た拙い知識を掘り起こす。そうだとしたらここに辿り着くまでの記憶が抜け落ちているのも説明できる。だが、携帯電話に表示されている日付がその推測を否定する。少なくとも、俺は今日の夕方までの記憶を持っている。俺はその頃夕方にいた。これは妄想ではない紛れもない事実のはずだ。はずだ、と言っているのは今置かれている状況の異常性が故に自分の記憶が正確だと確信できないでいるからだ。



 そこでふと奇妙なことに気がつく。携帯電話に表示されている時刻がおかしい。太陽は真昼のように燦々と樹海を照らし続けているのに、携帯電話はもう夜の時刻になっていることを主張しているだ。いや、よく考えれば時刻は正しい。数時間前に学校にいた時は夕方だったのだから、今はもう日が暮れている時刻でないとおかしいのだ。おかしいのは今でも光を弱めることになく天上に居座り続ける太陽だ。



 置かれた状況があまりにも非論理的で不合理であることからこの世界が夢の中であることを疑うが、これもすぐ否定される。夢はもっと抒情的で鮮明な景色を描かない。だが生い茂る草木の瑞々しさやたまに吹く風の涼しさは夢の中で再現しえない本物のものだ。



 人がいない、電波がない、時刻がおかしい、だけど夢ではない。



 この状況にを説明することができる仮説を二つ立てる。一つ目の仮説は、何かの拍子にワープか瞬間移動で地球の反対側に飛ばされたというもの。二つ目の仮説は、何かの拍子に異世界かどこかに飛ばされたというもの。



 しかし、仮説ができたところでこの異常事態の打開策に繋がらなければ何の意味もない。



 そこでふと、根本的な疑問にぶち当たる。なぜ俺はこの異常事態を打開しなければいけないのだろうか?異常事態を打開するのは、間違いなく死なずに生き延びるためだ。だけど、果たしてこの命に意味などあるのだろうか。もしいまここで死んだとしても誰も悲しむ人なんていないだろうし、生き延びても何かがあるとは思えない。



 所詮は空白の人生だったのだ。俺のキャンバスはいっつも真白だった。



 幼い頃には両親に捨てられた。両親がくれたのは一冴という俺の名前だけだった。



 そのため両親の顔を知らないし、思い出したくもない。しかもこの両親の結婚が親族に反対されながらも強行したものだったので、親戚から半ば村八分にされていたらしい。そのため村八分の子供である俺のことは、厄介者としてしか認識されなかった。



 最終的に一人暮らしの叔母に引き取られることになったが、愛情を注いで育ててもらえることはなかった。むしろ俺のことを疎ましく思っていたのだろう。俺はほとんどいないものとして扱われた。俺も叔母の視界に入らないように常に細心の注意を払い続けなければならなかった。酒に溺れながらも、料理と生活費の支給という最低限のことをしてくれるのが唯一の救いだろうか。逆に言えばそれ以外はしなきゃいけないわけだが。小学校も中学校も、俺にとって救いの場所になることはなかった。叔母からの虐待のため日常的に暗かった俺はクラスの皆から敬遠され、いつしか俺は一人ぼっちになっていた。誰からも存在しないものと扱われ、誰も俺のことを存在しないものとして扱う。俺はずっとそんな状況に呪詛を吐いてきた。なんで俺だけこんな仕打ちを受けなきゃいけないんだ。神はなんで俺のことをそんな嫌っているのか。憎んでいるのか。世界は理不尽過ぎるし不均衡だ。俺はそんな世界への恨みを忘れることなんて一度もなかった。



 そんな状況から脱出しようと頑張ろうとは思えなかった。どうせ頑張ったって何も変わらない。それに俺に自力で何か達成できるほど頑張れるとは思えなかった。俺が怠惰なのも神が俺のことを嫌っているからだろう。



 高校生に入ってからは幾分かマシになったと思った。だけど今日の夕方、そのマシだといえる唯一の要素さえも破片を残さないほど粉々に砕け散った。



 結局のところ俺の人生は全てが余白だったのだ。



 そんな人生の中で唯一の癒しとなるのが創作物の世界だった。本の中の世界であればこんな俺であっても主人公になることができるのだ。

 どんな世界にだって旅をすることができる。どんな力だって手に入れられるし、どんな未来を描くことだってできる。



 しかしそれは空白を埋めることにはならなかった。むしろ空白の虚しさを鮮明にした。本の世界から一度離れたとき、必ず妄想の世界は終わりを告げて現実の世界に引き戻される。



 非現実への憧憬はいつしか現実の残酷さを浮き彫りにさせるものにしかならなかった。



 いっそのことこのまま誰にも知られずに一人朽ち果ててもいいだろうか。奇しくもここは自殺の名所である富士の樹海に似ている。誰にも知られずひっそりと社会から退出する者の最後としてはこれ以上とない舞台だ。



 皮肉なことに死を決心した頃になってようやく文明の匂いを漂わせるものを見つけることができた。コンクリートによって舗装された道路だ。この道路に沿っていけば車があり、街があり、人がいるはずだ。結論として、前者二つはあった。



 この道路は住宅街に続いていた。たくさんの人々がそれぞれの生活を営んでいるはずの住宅街に続いていたのだ。そして車もあった。たくさんの人々を運び生活を支えているはずの車もあったのだ。だが、そこにいるはずの人間がいなかった。



 車も礼儀よく駐車場に収まっているものばかりではなく、道路のど真ん中で乗り捨てられているものもある。道端に置き忘れられているものの中には自転車やバイクもあった。奇妙なことに通常人間が乗っていないと立ってられないはずの二輪のそれらは、倒れることもなく絶妙なバランスを保ったままでいる。



 もしかして俺が人のことを認識できなくなっているのか?本当はそこに人がいるけど、何かの理由で見えなくなってるのか?あるいは全人類が透明人間になった?



 いや、それだと自転車も車も動いていないとおかしい。



 とすると、時間が凍結した上で全人類が透明人間になったのか?



 俺は仮説を確かめるため、自転車を少し押してみる。するとすぐに倒れた。この自転車に誰か人が乗っていたという感触はなかった。

 最後の期待をかけて、手当たり次第に目に入った家からインターフォンを鳴らしまくる。だが予想通り誰も家からでてこない。そこで玄関に鍵をかけていない家の中に入り込んだ。



 家の内装は住んでいる人が忽然と姿を消したかにように乱雑なところも整頓されているところもあった。電気がついている部屋もあれば、電気がついてない部屋もある。机の上にある書籍を手に取ってみると、それは日本語で書かれた何かだった。文法も文脈も存在せずただ意味不明な語彙の羅列が続くだけ。この世界の法則の脈絡のなさに目眩がしてきた。



 とりあえず空腹になってきたので家の中にある食べ物を拝借することにした。この街に人はいないのだ。冷蔵庫の中にあるものを食べきったって誰も困らないだろうし、誰も咎めないだろう。



 部屋の中で放置されている生物が腐ってないあたりこの街から人が消えて間もないのだろう。もしかするとこの街の食べ物は永遠に腐ることはないのかもしれないが。



 俺はとりあえず腹が満たされたことで安心して、今俺がすべきことを分析する。



 おそらく他の家もこの家と同じで食料を貯め込んでいるはずだ。幸い、冷蔵庫は稼働したままだ。餓死することは免れた。今の俺には死への忌避感なんてないが、それでも数日間の空腹の果てに死に至るというのは辛いから嫌だ。死ぬのならもっと楽な死に方でいい。昨日までの俺だったら死を許容する思考なんてしなかっただろうな、と軽く自嘲する。



 日本に戻る方法を探そうと努力する気にもなれない。俺にとって何の価値もない現実社会に戻る意味を見出すことができなかったし、そもそも努力なんて無味乾燥した面倒くさいものは大嫌いだ。それでも昨日までの俺だったら頑張って日本に帰る方法を探そうとしていたかもしれない。



 そこで俺は何かする気になるまでダラダラと過ごしていこうという今後の行動方針を立てた。人は異常すぎる事態が起こってしまうとそれに対処する術を知らないせいで逆に全てを受け入れてしまうものなのだ。



 だが、暇だ。やはりここは電波も通じないし、テレビにも何も映らない。本も読めない。虚無感と喪失感だけしか感じず無為に過ごすのも限界がある。小学生の頃もこのぐらい何もせずに過ごしてきたはずなのになんで大丈夫だったんだろう。そういえばあの頃は叔母からの暴力と暴言による恐怖しか頭の中になかったから逆に暇とか考えられなかってんだな。中学時代からは叔母と家で一緒にいる時間を少しでも減らすためにバイトを始めた。結局のところバイト先での居心地が悪くなったので社交性は身に付かないまま辞めてしまったが。



 俺は暇に耐え切ることができず、外に出ることにしたのだ。だが、外に出てもなにかあるというわけでもない。



 だが、俺は公園の前にあるそれを見た時、衝撃で硬直した。



 目を疑った。そこにはありえないものがいたのだ。数時間の間探し求めてもついに見つけることのできなかったそれ。即ち、生身の人間。

 そう。公園の前のベンチで一人の少女がベンチに腰掛けていた。



 横顔から察するに年齢は俺の少し下、15歳ぐらいだろうか。紫水晶のような瞳をもった釣り目のせいで少し年上にも見えてしまう。陽光を反射する白銀の髪の毛は地面につきそうなほど長く、毛先にかけて緋色にグラデーションになっていて現実離れしている。服装も浮世離れしている。あの葉っぱでできた冠は月桂冠というのだろうか。そして肢体したいには髪の色にも負けない透き通るような純白の貫頭衣をまとっていた。その貫禄から神々しさすら感じられるこの少女は、まるで御伽話かから飛び出してきたかのように思わせる。少なくとも現実にはあり得ない。いやもしこれが非現実だとしても人間の力で描ききれるかどうか疑問が残るほど完璧だった。



 生き物が何もいない世界の中で唯一の存在だった彼女は儚くて、寂しくて、そしてとても可愛かった。



「あの、ごめん、ちょっといいかな?」



 少しの間見惚れて魂を奪われていたが、我に帰った俺は俺の置かれている奇妙な状況を思い出し、この少女は何か知っているんじゃないかと思って声をかけた。



 少女は最初から俺がここにいたことなんて気づいていたかのように鷹揚にこちらの方を向いた。



「何者だ?」



 その少女の声は見た目相応に幼くて高かったが、年上の女性にような冷静さと理知、高潔さを含んでいた。



「何者っていわれても、ただものと答えるしかないというか」



 俺は少女の意図を汲み取ることのできない質問に翻弄されながらも答える。



「そう聞いた君こそ何者なの?」

「その質問に答えてほしくば先に私の問いに答えろ」



 俺は外見に似合わない威厳に圧倒され、無言で少女の言葉に肯定を示した。



「貴様はどうやってここまできたのだ?」



 少女は得体の知れないものを見る怪訝な目で問いかける。だが得体が知れないのは少女の方だ。なんせ人間が誰もいないはずのこの街にたった一人存在する少女なのだ。しかも服装は明かに現代人のものではないし、容貌も現実のものとは思えないほど整っている。少女は幻想であると断定する方が理に適っているほどの異常な存在だ。



 だが少女の威圧感の前で萎縮してしまい本心など言えるはずもなく素直に答える。



「わかりません」



「ならば貴様の今日の行動を詳細に陳述せよ」



「記憶のある範囲で、いいかな?」



「それで結構。だが捏造も隠蔽も抜きだ」



 少女の奇妙な言葉遣いに翻弄されながらも、今日の記憶を辿る。苦い記憶だ。このまま封印してしまいたいぐらい。だがそれをこの少女に隠蔽するのは下策だと本能が警告していた。この警告の根源にあるのは少女の異常性だ。少女は、確実に俺が公園の前に来るということを前もって知っていたし、俺が少女に気づくよりもずっと前から俺のことに気づいてた。少なくとも俺にはそう見えた。少女は、元々何かを知っている。それでも敢えて聞いている。そんな気がしたのだ。



 今にも頭の中から消し去りたい忌々しい記憶を辿る。忌々しい記憶というのは、呪いの人形のようなものだ。捨てても捨てても帰ってくる。しかも帰ってくれば帰ってくるほど鮮明になる。



「俺の人生は、ずっと何もない空白だった」



 高校生に入れば、それが変わるかと思った。幸いなことに叔母は俺が高校へいくことを止めなかった。



「実際に、高校に入ったら変わったんだ俺は何も変化したわけではない。何も変化しない人に対する周囲の人の反応も変化するわけがなかった。だが、一人の仲の良い少女ができた。名前は明日香だ。とても愛嬌があり可愛らしい娘だった」

「ほう」



「明日香と出会ったきっかけはもうよく覚えていない。いつからかおはよう、とかさよなら、とか他愛ない挨拶をするようになったんだ。そこから少しずつ仲良くなって、一緒にゲームとかするような仲になった。明日香はこんな何もできん会い社交性ゼロの俺にも優しくしてくれた。人生で初めての友達だって思えた。彼女との時間はすごい楽しかった。だけど、変なところもいくつかあった。例えば明日香は学校では絶対に俺と中のいいところを見せようとはしない。そんな奇妙なところもきにせず、俺は明日香に恋した。それで今日の夕方、明日香に告白した」



「それで?」



 俺は次の言葉を切り出そうとしなかったため、少女に急かされた。



「ぜんぶウソだったんだ。明日香は俺に告白されたことでついに『種明かし』をしたんだよ。これまで明日香が俺に優しく接してくれたのは友達とゲームをしていたからだって。そのゲームは期限中に何人から告白されることができるか、ってもの。「ちょろかったわ、簡単に落ちてくれるんだもん』だってさ。明日香はもともと俺を使って遊んでただけなんだ。それで、明日香はもともと俺に対して全く好意を持っていなかったのだとすれば、明日香のこれまでの奇妙な行為の数々も説明できてしまう。忌々しいいことに。明日香は俺と仲良くしているところを学校では絶対に見せなかった。俺は照れ隠しなのだと思ってた。だけど実際は好意も持ってない相手と仲良くしているところを学校で見られたくないだけだったんだ。俺はそんなことに気しなかったし、邪推をすることもなかった。邪推できるほどの人間関係に関する知識や経験もなかった。社交性ゼロの俺に接してくれたのはそういうことさえできない、ちょろい人間だと思われていただけなんだろうな」



 俺は、思い出すだけで涙が出てきた。そして泣き止んで俺の感情の高ぶりが抑えられるまで、少女は黙った。そして俺のことを見つめながら、ゆっくりと喋った。



「嘘を言っている音はないな」



 少女は嬉しそうに口角を上げた。俺は最初、少女のその表情の意図を読み取ることができなかった。なぜ嘘を言わないだけでそれほどにも嬉しそうになるのかわからないからだ。



「安心しろ、少年。貴様は地球に還れる」



 そう言われても、俺は格段嬉しくは思えなかった。なぜならこの人類のいない世界で一人消えていくことをだいたい決めていたからだ。そこに地球へ還れると言われると水を差されたような気持ちになる。



「ただし、それには条件がある」



 だけど、知らない話があれば聞かずにはいられないというのが人の性だ。



「条件って、なんだ?」



 その条件がロクでもない理不尽なものであるという予感はしていた。



 寿命を半分差し出せだとか、死ぬ限界まで血を飲ませろとかそんなものだろう。前者なら少女の正体は死神でここは墓場だ。後者なら少女の正体は吸血鬼でここは狩り場だ。

 どちらにせよ俺は承諾するつもりはない。ただ好奇心から知りたいというだけだ。俺は息をがぶ飲みして少女が次に口に出す言葉を注視した。





「条件は、私の騎士になることだ」




 少女が提示した条件は俺の予想を遥かに上回って突拍子もなく、意味不明だった。



「騎士?何それ?」

「その名の通りの存在だ。私を主として仕える騎士だ」

「もし断ったら、どうなる?」

「仕方ない。この場で殺すことになる」



 少女は冷たくそう言い放った。その冷酷な声音は何か別の感情を隠しているかのようにも聞こえた。しかしどうせここで死ぬと一旦は決めていたこの身だ。少女の言葉の真偽はともかく、殺すと言われても動揺することはなかった。



「もし受けいれたら?」



 だが、次の言葉は俺を揺さぶるに足るものだった。



「常人には望み得ない強大な力を授けよう」



 それは、俺が長年憧れてきた非日常の世界への誘惑。創作物の中の世界のように特殊な能力を持って日常の範疇を凌駕する体験への扉。



 そしてその少女の言葉が真っ赤な嘘ともデタラメとも言い切れない証拠が、この世界だ。人間が欠け落ちた異常な世界。そんな異常な世界に一人いる少女なのだ。何か物凄い力を持っていてもおかしくない。



「強大な力?」



 だからこそ、少女の言葉の真意を確認しなければならなかった。



「疑っているか?ならば実演してみせよう」



 少女は立ち上がり、手を空に向かって振り上げた。



 刹那、少女の掌から雷光がほとばしり、天に向かって伸びた。それは、ほんの一瞬の出来事。少女と天とを繋ぐ光の筋は次の瞬間には消えてなくなっていた。だがそれは俺を驚愕させるのに十分な時間だった。俺は感嘆の言葉さえ忘れてその光景があたまの中に焼けついていた。



「この雷自体は威力はそれほど高いわけではないが、視界的な演出としては十分だろう。貴様が騎士になれば--」



「すごい!何この技!?」



 我に帰った俺は少女の話を遮って関心事を聞き出す。



「これは改変法と呼ばれる現実改変の一種だ」



「これって俺も使えるようになるの!?」



 少女は俺の食いつき具合に若干引きながらも答えた。



「もちろんだ」



 別に元の世界に戻るなんてことには興味ない。だが非現実的な魔法のような力に惹かれたのだ。そこからはもう即決だった。



「じゃあ、やるよ!やるやる!騎士になります!」



「まだ騎士契約に関して契約以前の権限的に伝達可能な情報の一部しか伝えてないのだが、それでいいのか?」



「後でいいよ!」



 一刻も早くこの改変法と呼ばれる未知の力を俺のものにしたい。日常から離れた非日常の世界に足を踏み入れたい。そのことだけしか考えていなかった。



「ならば、騎士契約の文言を」



「騎士契約の文言?何って言えばいいの?」



「貴様の騎士になろうという意思があれば如何なるものでもよい。あと最低限の礼として膝をつけ」



 つまり即興で契約の文言を考えろってことか?さすがにこれは無茶振りすぎる。



「ええと、宣誓!俺は騎士として、ええと、君?」



「姫と呼べ」



 俺は少女の呼び方に迷い、助けを求めるような視線を流すと、少女は簡潔に答えた。



「姫に仕えることを誓います!」



 その瞬間、俺の人生は激変した。



 空白の人生が緋色と銀のグラデーションで彩られた。それを彩った少女は、俺の宣誓の言葉に呆れていた。おそらく貴様は史上もっともセンスのない騎士だ、と。


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