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レンタル彼女、購入しました。  作者: 四月一日 誠
1/1

成り上がり野郎

「ん? 購入? 購入って何だ」


 それは人気の「彼女」達の顔写真が並ぶリストを眺めていたときだった。予約、ファンレター送信、の隣に、購入、と書かれたボタンが現れたのだ。


変だなと思って、同じくモテない友人の岡田拓郎に電話を入れた。


「なぁ、拓郎、この間お前に教えてもらったサイトだけどな」

「うん、どうだった」

「どうって、まぁたしかにキャストは可愛い子多いんだけどさ」

「だろう! しかも大手より安いんだよ」

「あのさ」

「うん」

「購入ボタンってなに」

「……え? 購入ボタン? なんだそれ、知らん」

「今サイトのリスト画面見てんだけどよ、変な選択肢があるんだ。お前のとこでリスト開いてみろよ」

「うん、……え、そんなのないけど」

「あれ、じゃ、俺のパソコンがバグってんのかな」

「幻覚でも見てるのかよ、ははっ」

「笑うなよ、ったく。じゃあな、切るぞ」


 俺は明日のレンタル彼女の予約を入れたかっただけだった。二回目の留年を決めた夏、クーラーの効いた一人暮らしの部屋で、パソコン画面に映る女性達をセレクトする喜びをかみしめながら財布と相談している大学四年生の俺。その名も宮本広樹。二十四歳、学生。


 何回サイトを再表示させても購入ボタンは消えなかった。俺はからかわれているような気がして、そこまで言うんだったら押してやると、勇んで購入ボタンをクリックした。


「はぁ? 2300万円?」


 絶対に払えない金額設定に俺は思わずがっかりした。やっぱりからかわれていたんだなと思った。そもそも彼女をレンタルじゃなくて購入って何だよ、本当の彼女になってくれるってことか? そんなのありかよ、っていうか高額すぎるだろ。ざけんな。


 ――彼女いない歴も二十四年である。正直、もう女性と付き合うなんて諦めている。なにせ学生で全然甲斐性がないし、陰キャラだし、どうしようもない駄目人間だからだ。


 俺はすでに背もたれにのしかかって、別のことを考えていた。俺が億万長者だったら、大金を払ってでも彼女を購入するだろうか?


 俺はずいぶん前に買っておいた宝くじを机の引き出しから出した。すっかり忘れていたから、換金期限ぎりぎりになっている。


「これ、当たってたりしねぇかなぁ」


 我ながらアホの極みだと思った。当たってるわけないだろ、せいぜい十万円がいいところだ。しかし十万円だって馬鹿にならないぞ、俺は金欠だし。


 気になってネットで調べてみた。同時に袋を開封して、連番十枚をざっと広げてみる。


「さて、えーと、四等が各組共通で145672、127438、……ないない、じゃあ五等、下二桁54……それすらない! あぁ、だめだぁ……」


 俺は真っ先に四等(十万円)と五等(三千円)を調べたが、どちらもなかった。やるせない気分になって、しばらくマウスのホイールをめちゃくちゃに回しながら放心状態で、スクロールされ揺れるパソコン画面を見つめた。そしてある瞬間、手を止めた。


「……、一等、十一組、124673……?」

 

 俺の目が、そっと手元の宝くじに吸い寄せられた。


「……ある……、あ、あるんですけど……」


 一等なんて最初から無視して画面の下の方へすぐにスクロールしたから気づかなかったのだろう。全く無縁と思っていた一等が、俺の引き出しの中で深く縁を結んでいたのだ。


 俺は一目散に銀行へ行って、換金手続きをした。必死だった。



 それから一週間後、俺は五億十一万二千三百円という数字が刻まれた預金通帳を見ながら、ほくそ笑んだ。大学もバイトも秒で辞めてやった。


そして決意していた。俺は買うぞ、買う。彼女を購入して、この手に掴む!


例のサイト画面をまた開いた。やはり購入ボタンはあった。いろいろ調べてみたが、やはりそんな事例はどこにも報告されていなくて、俺のパソコンだけが、購入ボタンを表示しているらしかった。


「いいか、深く考えなくて良いんだ、どうせ道楽、おおかた冗談。でもって、俺には五億ある、2300万なんてチョロいチョロい、どうせだったら一番人気の子を買うぜ」


 しかし一番人気の女の子の予約画面には購入ボタンは表示されなかった。


「何でだよぉ! だったらあれ何だったんだよ!」


 そこで気づいた。購入できる子と、できない子がいると。ならば購入できる子の中から選ぶことにして、全員を調べ上げた。購入ボタンが表示されるのは全部で七人だった。


 俺の脳裏に、ある考えが浮かんだ。いきなり知らない子を購入しても駄目だ。まずはどんな子か、調査しなければ!


 そして俺は一週間、一日一人ずつ予約を入れて、品定めを決め込むことにしたのだった。このとき俺は有頂天にいた。


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