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第8話 トライアード・ファイターズ 前編

〜主な登場人物〜


明星戟(みょうじょうげき)

 主人公。過激派の筆頭としてロガ星を掌握していたサルガを倒し、ロガ星と地球の両方を救った英雄として名を馳せるノヴァルダーAの専任パイロット。現在は防衛駐在官としてロガ星に常駐している。年齢は21歳。


・ベラト

 ヒロイン。ロガ星の元第1王女であり、かつては軍の象徴としてサルガに従っていた。現在は王位継承権を妹に譲渡し、駐在官である戟を支える妻としての幸せを謳歌している。年齢は19歳。


武灯竜也(むとうたつや)

 かつて威流や円華と共に、怪獣軍団から地球を救った伝説的パイロットとして知られている人物。現在は親善大使として、戟と共にロガ星に常駐している。年齢は28歳。


・ベネト

 ロガ星第2王女であるベラトの妹にして、王位継承者。姉に勝るとも劣らない美貌とプロポーションの持ち主であり、密かに戟に対して思慕の情を寄せている。年齢は14歳。


花川戸拳(はなかわどけん)

 40m級のスーパーロボット「サイナックル」のパイロットを務める少年。戟を救うため、遠い宇宙から駆けつけて来た。

 ※出典はムネミツ先生作『念動闘士サイナックル』から。


・ルミナ・アームストロング

 拳の婚約者であり、白人女性を模したスーパーロボット「ダイナミックツイスター」のパイロットを務めている。拳と同様、戟を救うために駆けつけて来た。

 ※出典はムネミツ先生作『念動闘士サイナックル』から。


(つかさ)レイジ

 あらゆる世界を旅しているという謎多き青年であり、白銀のスーパーロボット「次元機神センチュリオン」に搭乗している。異世界から戟を救うため、拳達に続いて駆けつけて来た。

 ※出典は板野かも先生作『次元機神センチュリオン 第6話「世界最後の翼」』から。


獅乃咲威流(しのざきたける)

 かつて怪獣軍団から地球を救ったとされる伝説の英雄であり、戟の師でもある防衛軍中将。ロガ星に旅立った弟子のことを、今でも気にかけている。年齢は25歳。


不吹竜史郎(ふぶきりゅうしろう)

 かつて「地底戦兵(ちていせんぺい)ジャイガリンG(グレート)」のパイロットとして、グロスロウ帝国の侵略から地上を救った知られざる英雄。現在は大学生であり、聖エレフテリア女学院の教育実習生として勉強中。年齢は22歳。



 ――心の「光」を糧とする巨人。

 悪を穿つその勇者の輝きにより、魔の物は滅され、地上には平和が齎された。


 しかし、その戦いによって散り行く魔の欠片は宇宙(そら)の「闇」と混じり合い――災禍の化身となりて、無辜の星に迫り来る。


 勇者達の創りし未来は、希望か絶望か。今、最後の審判が下されようとしていた――。


 ◇


 ロガ星人は本来温和な種族であり、積極的に侵略を企てるような性格の持ち主は極めて稀である。が、その一方でノヴァルダーを始めとする強力な兵器を、幾つも保有するほどの軍事力を持っている。

 その理由は、惑星自体が悪辣な侵略者達に狙われやすい宙域に存在していることにあった。度重なる敵襲からロガ星の民を守るため、当時は温厚な人柄だった将軍ギルタは、好戦的な猛将に豹変。


 「機械巨人族」に敗れ戦死するまで、軍国化を進め続けたのである。その意思を継承した息子のサルガは、さらに先鋭化された思想の持ち主であり、非人道的な戦略や兵器開発を推し進め――ついには王家に対してクーデターを起こすに至った。

 彼の暴走に巻き込まれる形で、多くの未来ある若者達が戦場に散り、国力は大きく衰退。ギルタ将軍の奮戦によって周辺の宙域は安定したものの、肝心のロガ星人の民から大勢の犠牲者が出てしまった。

 最悪な形で父の遺志を継ぎ、人々を苦しめて来た天蠍のサルガ。その横暴を阻止せんと争った騎士アルタも、犠牲となったのである。


 ――そして、2年に渡る地球人との戦争はサルガの死という形で決着を迎え、ロガ星はようやく過激派の暴走から解放されたのだ。


 しかし、戦争が終わったからといって、犠牲になった者達が還って来るわけではない。サルガのクーデターに始まる一連の災厄によって、ロガ星人の男性はその半数以上が死に絶えてしまったのである。

 サルガの死後に再編された新生ロガ星軍は、大半を女性兵士が占めており――有事の際に戦うことが出来る男性は、極めて稀な存在となっていた。


『駐在官殿、もっと速く……速くお願いしますッ!』

『私達は強くなって、この星を守りたいんです! どうか、もっと厳しく……激しくお願いしますッ!』

『……分かった。それがみんなの希望なら、俺は全力で応えて見せる。よし、これに付いてこれるか!?』


 新人の防衛駐在官として働く傍ら、パイロットになりたての戦乙女達に地球仕込みの空戦(ドッグファイト)を手ほどきしている明星戟も、その1人である。

 ロガ星の王宮を中心に広がる、この星最大の都市である城下町「レグルスシティ」。その近郊を飛ぶ、世界防衛軍の制式宇宙戦闘機「コスモビートル」を、ロガ星軍の宇宙戦闘機隊が懸命に追いかけていた。


 天蠍のサルガを倒し、このロガ戦争に終止符を打った明星戟。その雷名はロガ星人にも轟いており、かつての敵性異星人でありながら――彼は戦乱に幕を引き、サルガの圧政から人民を解放した英雄(ヒーロー)として、このロガ星に迎え入れられている。

 元々好戦的ではないロガ星人にとって、地球人よりサルガ派の方が身近な「脅威」だったことも理由の一つだが――彼の「実力」と「容姿」は、種族の垣根さえ突き抜けるほどに、ロガ星人の女性達を惹きつけていたのだ。


 今のこの星にとっては存在そのものが貴重である「男性」。その中においても、新人ばかりの女性兵士達とは比にならない操縦技術を持った「強者」であり、男慣れしていない戦乙女にとっては劇薬に等しい程の「美男子」。

 しかもサルガを倒し、犠牲となった男達の仇を討った人物でもあり、人柄も明朗で親しみやすくもある。それだけの要素が揃えば、女性が多くを占めるようになったロガ星の市民から、人気が出るのもある意味では当然であり――


「ホラ、あれよあれっ! ゲキ様の戦闘機っ!」

「キャーッ、ゲキ様ぁあ〜っ!」

「あっ……! こっち見たわ、ゲキ様今こっち見たわっ!」

「何言ってんの、あたしを見たのよっ!」


 ――今も街から戦闘機隊の訓練を見上げる人々は、戟が乗る真紅のコスモビートルに黄色い悲鳴を上げていた。


「……仕事片付けた途端にバックレて、どこで油売ってるのかと思えば……まーた新兵の相手してんのかアイツ。自分の本業をなんだと思ってやがる」

「ふふ、良いではありませんかムトウ様。有事に備え、民を守る兵達を鍛える――というのも、駐在官としての大切な使命と言えますわ」

「すみませんねぇ、あんな勝手な奴で……」


 その光景は、王宮にいる者達にとっても既に見慣れたものであり。彼をこの星まで連れて来た親善大使・武灯竜也は、師に似て奔放な「英雄」にため息をついている。

 一方、彼と共に王室の窓から、青空を駆け巡るコスモビートルを眺めている姫君は――たおやかな笑みを浮かべて、「英雄」に想いを馳せていた。


(……あぁ、ゲキ様……)


 サルガによって軍の象徴に祭り上げられ、侵略戦争への加担を強いられていた第1王女ベラト。

 その妹であり、終戦後に「禊」として姉から王位継承権を受け継いだ、第2王女ベネトは――許されざる恋心に身を焦がされ、憂いを帯びた表情を浮かべている。


 なだらかなウェーブを描く白銀の長髪。窓から吹き込む風に靡く、艶やかなツインテール。水晶のごとく透き通った白い柔肌に、紫紺の瞳。

 14歳という幼さに反した、圧倒的な美貌とプロポーション。そして、姉の巨峰にも迫るHカップの双丘。


 そのはち切れんばかりの豊満な肢体を、露出の多いベージュのドレスに包んで。可憐なる姫君は――礼服に袖を通した巨漢の隣で、切なげに瞳を揺らしている。

 その様子を一瞥する、強面な巨漢――もとい竜也は、彼女の胸中を察するが故に、渋い表情を浮かべていた。姉への親愛と戟への情愛に揺れる姫君は、すぐそばに居る男にその胸の内を悟られているとも知らず、桜色の唇を震わせている。


(……威流といい、アイツといい。罪な野郎に限ってその自覚がねぇんだから、始末に負えねぇよな)


 しかも竜也の記憶が正しければ――ベネトだけでなく、彼女達の母である王妃までもが、戟と初めて対面した際に頬を熱く染めていた。

 種の繁栄のため、遺伝的に遠い男を求める女の本能も絡んで居るのかもしれないが……どうやらロガ星の王家にとって、特に明星戟という男はかなりのタイプ(・・・)らしい。

 ――故に、竜也は思案する。妻の隣で不安げに視線を泳がせていた、国王陛下が気の毒でならないと。


「……おわッ!?」

「きゃあぁあッ!?」


 だが。そんなことを考えていられるのは、平和である証であり――その平和もふとした瞬間に、唐突に終わってしまう。

 突如この王宮と街を襲った、激しい地震。その衝撃にバランスを乱され、転倒しそうになる姫君を支えながら――竜也は不穏な気配を感じ取り、鋭い表情で顔を上げる。


 窓から下を見下ろせば、街の人々が突然の事態に動揺している様子が窺えた。このままではパニックが起き、さらなる2次被害に繋がりかねない。


「……どうやら、平和を祝うにはまだ早かったらしいな!」


 元軍人としての「勘」に導かれるまま、竜也は懐から緊急用の無線機を取り出し――目の前で飛び続けている戟と連絡を取る。


「戟、聞こえるか」

『――竜也さん、街から20km離れた地点に巨大な熱源が出現してる! この地震は、恐らくそいつの仕業だ!』

「だろうな。……ちょうどいい、お前の教え子の仕上がり具合を見せてみろ。そのまま編隊を率いて、偵察に向かえ」

『了解! よしみんな、今ここで訓練の成果を――!?』


 そして、戟のコスモビートルを隊長機とする即席の偵察隊を編成……する、瞬間。


 ――「災厄」そのもの。そう呼んで差し支えない、巨大な閃光が唸り。

 戟が乗っていたコスモビートルが、一瞬で消し飛ばされてしまった。


 あまりの事態に、その瞬間を目撃していた多くのロガ星人が言葉を失い――震える足で立ち上がろうとしていたベネトは、絶望に満ちた貌でぺたりと座り込んでしまう。


『あっ……ぶねぇ! 竜也さん、今の光線……!』

「……あぁ、やはり例の熱源によるものらしいな。戟、作戦を変更するぞ。全機を撤収させた後、お前はノヴァルダーAで威力偵察だ。……残念ながら新兵の嬢ちゃん達では、足手まといが関の山だぜ」

『同感だ。……彼女達は、この星の未来を担う大事な戦力だからな。こんなところで失うわけにはいかない』


 ――だが、突如飛来してきた光線が直撃する瞬間。回避は不可能と判断した戟は乗機を捨て、パラシュートで脱出していた。

 もしほんの僅かでも反応と判断が遅れていたなら、戟は愛機と共にこの世から消え去っていただろう。そんな「ギリギリ」の脱出劇を経てなお、何事もなかったかのように言葉を交わす地球人達に、ベネトは息を飲んでいた。


「ゲ、ゲキ様……!」

『ちゅ、駐在官殿! ご無事で……!』

『あぁ。……みんな、聞いての通りだ。君達はここに留まって、姫様(ベネト)の護衛に専念してくれ。熱源の正体は、俺が暴く!』

『……わかり、ました』

『駐在官殿、どうかご武運を……!』


 先程まで戟の元で飛行訓練を行い、この星を守ると息巻いていた戦乙女達も、事態の大きさと次元の違いをはっきりと理解していた。自分達が付いていったところで、何の役にも立てない――と。


『……ベネト。ベラトには、君が必要なんだ。何があっても俺を信じて、ここで待っていてくれ』

「……ゲキ様っ……!」


 そして、ベネトもまた。未知の脅威に踏み込まんとする最愛の男に――か細い手を伸ばすことしか出来ずにいた。彼に「必要」と言われたことに、歓びを覚えつつも。


 ――それから間も無く。街に降りた戟は、王宮に格納されていたロガライザーに乗り込んでいく。その身を包むパイロットスーツは、ガントレットセブンの装甲を応用して設計された、最新型の耐Gスーツであった。

 青いボディと赤い籠手、そしてトサカのような刃を備えた白銀の鉄仮面。プロフェッサー・ロアンJr.の叛乱から人々を救った、「鉄人拳帝」と見紛うスーツを纏う戟は――その真紅の腕で、操縦桿を一気に引く。


「ロガライザー・ゴォーッ!」


 次の瞬間。王宮に内蔵されていた射出口から飛び出す、トリコロールカラーのスペーシャトルが――激しい噴射と共に、大空へ飛び立って行った。

 空を裂き、雲を破り、コスモビートルにも勝る疾さで駆け抜ける鋼鉄の翼。その機体はやがて、街から遠く離れた山岳地帯の中で――遥か彼方に待つ「巨影」を捕捉する。


「――来たな」


 先程コスモビートルを撃墜した時と同じ、眩い閃光。戦闘機をまるごと飲み込むほどの巨大な熱線が、再び戟を襲う。

 だが、次はそう簡単には当たらない。戟が操縦桿を捻る瞬間、ロガライザーの機体は大きく下降し――熱線の下方へと滑る。


「ケンタウルスバルカーンッ!」


 そしてすれ違いざまに――「巨影」の全身に機銃を撃ち込んだ。両翼上部から放たれる銃弾の雨が、その巨躯に降り注いで行く。


「……こいつは……!」


 ――それは、生半可な威力ではないはず、だが。


 戟の眼前に聳え立つ、60m級の「巨影」には……傷一つ付いていなかった。巨大な尾を振るい、けたたましい咆哮を上げるその「巨影」は――鋭利な真紅の両眼で、戦闘機のように旋回しながら頭上を飛ぶロガライザーを射抜いている。

 まるで、うるさい蝿を見つけたかのように。


 そして戟は――大型機関銃(ケンタウルスバルカン)をものともしないこの「巨影」に、言いようのない「既視感」を覚えていた。


 大地を踏み鳴らす、肥大化した両脚。凶悪に研ぎ澄まされた爪を備える両腕。身の丈以上の長さを持ち、風を穿つ轟音と共に振り抜かれる巨大な尾。

 全身を固める紫紺の装甲に、「獲物」への殺意に溢れた大顎。白銀の輝きを放つ大牙。

 そして――見る者に本能的な恐怖を叩き込む、真紅の両眼。


「……なんでお前が、ここに居るんだ」


 どちら(・・・)にそう言ったのかは、戟自身にも分からなかった。

 かつて地球に現れ、東京ドームを半壊させた漆黒の宇宙怪獣。このロガ星に災厄を齎した、「天蠍」の異名を取る機動兵器。

 その両方を彷彿させる禍々しい巨獣を前に――戟はただ、そう呟くしかなかったのだ。


 ◇


 ――3ヶ月前、「銀河憲兵隊」のルヴォリュードに敗れ、爆散した怪獣ゼキスシア。その肉片は宇宙にまで飛び散り――ノヴァルダーAに敗れたノヴァルダーSの残骸に触れた。

 それが、引き金だったのだ。


 ルヴォリュードが人の心に在る「光」を力に変えるように――ゼキスシアには、心の「闇」を自らに取り込む能力がある。

 Sの残骸を通して、「天蠍のサルガ」が持つ妄執に触れたゼキスシアの細胞は、その思念を媒介にして融合を始めた。サルガの魂に集い、再生してゆくゼキスシアの細胞に取り込まれたSの残骸が――新たな巨獣を創り上げたのである。


 そして細胞から蘇った肉体に、Sの残骸から新たに生み出された、鋼鉄の表皮を纏って。サルガの魂を喰らい、その憎悪と執念を己が身に宿して。


 「怨魔鋼獣(えんまこうじゅう)メカ・ゼキスシア」は――このロガ星に還って来たのだ(・・・・・・・)


 ◇


 ――同時刻、地球。

 日本でも有数の名家ばかりが集まる、聖エレフテリア女学院では――ある1人の若き教師見習いが、絢爛な廊下を歩んでいた。


「あっ……! ご、ご覧になって! 不吹(ふぶき)先生ですわ……!」

「あぁ、いつも素敵です……! わ、私、声を掛けても……」

「い、いけませんわ、そんなふしだらな! 私達は教師と生徒ですのに! ……で、でも、もしそうなれたら……きゃーっ!」


 艶やかな黒髪を靡かせ、翡翠(ひすい)の瞳ですれ違う生徒達を一瞥する、長身の美男子は――不細工な丸眼鏡でも隠し切れないほどの美貌で、学院中の生徒達を魅了している。


「……皆さん、廊下でそんなにはしゃいでいては危ないですよ。お怪我をなされては、大変です」

「はうっ!? も、申し訳ありません、先生っ……! はぁあ、不吹先生に叱られてしまいました……! なんたる僥倖っ……!」

「あぁっ、ずるいです! 私も先生に叱られたい……!」

「……」


 ……の、だが。当の本人はそんな淑女達の黄色い悲鳴に頬を引きつらせながら、辛うじて教師らしい振る舞いを維持するだけで精一杯であった。


 かつて地底から生まれたスーパーロボット「ジャイガリンG(グレート)」のパイロットとして、地上を脅かしていた「グロスロウ帝国」から人々を救った、元防衛軍士官候補生――不吹竜史郎(ふぶきりゅうしろう)

 彼は戦いの後、教師の道に進むべく大学に通い続け――今は教育実習生として、この聖エレフテリア女学院に身を寄せているのだが。本来なら彼は、ごく普通の学校に行くはずだったのである。


 怪獣軍団から地球を救った獅乃咲威流や、ロガ戦争を終わらせた明星戟とは違い、ジャイガリンGのパイロットだった竜史郎の素性は、世間には報道されていない。

 それでも彼の活躍を知る防衛軍の上層部からは――「世界を救ったヒーローが教壇に立とうというのに、何の変哲もない一般庶民の学舎に押し込むとは何事だ」、という旨の声が上がっていたのだ。結局、竜史郎の通う大学は防衛軍からの無言の圧力に屈し、彼を男子禁制だったはずの学院に封じ込めてしまったのである。


「……はぁ、なんでオレがこの学院に……」


 華やかな乙女の花園に囲まれ、普通の教育実習生とは程遠い待遇を受け、男を知らない淑女達からは熱い視線を注がれ――あまりにも想像と違い過ぎる生活に、竜史郎はげんなりする日々を送っていたのだった。

 士官学校時代の同期に、「少しは自分の立場というものを考えて学校を選びなさい」と説教された今でも。自分が「英雄」であると考えていない竜史郎本人としては、腑に落ちなかったのである。


「……けど、まぁ」


 それでも。思い描いていた形とは、少し違っていても。こんな生活も、悪くない。


 これからの未来を生きていく、子供達の笑顔に振り返り――竜史郎は静かに口元を緩め、笑みを零していた。


『これより、緊急避難訓練を行います。全生徒は地下シェルターに避難して、指示があるまで待機してください。繰り返します。これより――』


「……!」


 すると。突如、学院中にアナウンスの声が響き渡り――女生徒達にどよめきが広がる。事前予告もなしに始める避難訓練というものは、聖エレフテリア女学院においては初めてのことだったのだ。


「……さぁ皆さん、聞いての通りです。先生方の指示に従い、落ち着いて行動してください。地下シェルターの場所は分かりますね?」

「は、はい! い、行きましょうか」

「え、えぇ……」


 そして――その意味(・・・・)を知る竜史郎は、丸眼鏡の奥に隠された瞳の色を鋭いものへと一変させ、女生徒達に避難を促す。

 やがて心配げに自分を見つめる女生徒達が視界から消え去り、その瞬間まで微笑を浮かべる「教育実習生」であり続けていた彼は――自分独りになった途端、「パイロット」としての貌に変わる。その懐から取り出された小型の通信機からは、自分をこの学院に招いた張本人からの指示が送られて来ていた。


『不吹君、学院はどうかね。君が大勢の若い女生徒達に囲まれていると聞いて、娘達はたいそう気を揉んでいるようだが』

「……そのような世間話をしていられる余裕はないのでしょう? 唯川(ゆいかわ)大佐。この学院に緊急避難訓練のアナウンスが入ったということは……」

『なるほど、ブランクを鑑みて緊張をほぐしてやろうと思っていたのだが……その必要はなかったようだな。……実は先ほど、ロガ星で強大な熱源が感知された。恐らく、地球に現れた個体とは比にならんほどの……怪獣だよ』

「怪獣……」


 通信機から響いて来る言葉に、竜史郎の目つきがさらに鋭さを増していく。ふと、窓から外の景色を見遣る彼の眼前では――完全に無人となっていた学院のプールが分断され、激しい水流と渓谷を生み出していた。


『明星駐在官だけでは、勝ち目は薄い。……スティールフォースとヒュウガ駆動小隊では、現地到着までには時間が掛かり過ぎる。そこで、防衛軍最速の「ブースター」を持っている君の出番というわけだ』

「……また、彼に怒られてしまいますね」

『その時は、私も頭を下げてやる。君を戦場に呼び戻さないために、今まで戦ってきた彼には……面白くない話になるだろうがな』


 それを最後に、通信を切ると。竜史郎は丸眼鏡を投げ捨て、ベージュのスーツを脱ぎ去り、弾かれたように駆け出していく。

 その下に隠していた漆黒の野戦服と、戦士としての素顔を露わにしながら。


「明星君……怒ってもいいよ。オレはそれでも……行くから!」


 やがて。士官学校「主席」の証である純白のマフラーを靡かせ、真紅の防弾ベストを羽織りながら――学院の裏手にある、古びた車庫に辿り着いた彼は。シャッターを開き、その奥で埃を被っていた赤いドリル戦車「モールアントラー号」に颯爽と乗り込んでいく。

 そして、左右に割れ谷のようになったプールを目指して、キャタピラを全力で回転させながら突撃する彼が。


「ジャイガリィィンッ! ゴォオォーッ!」


 ――そう、叫んだ瞬間。


 プールの狭間から――全長30mにも及ぶ、メタリックブラウンのスーパーロボットがせり上がって来る。


 その姿は、グロスロウ帝国との戦いを終えた2年前から変わらない――「地底戦兵(ちていせんぺい)ジャイガリンG(グレート)」そのものであった。1年ほど前、学院全体の大規模改修工事を隠れ蓑に、古代兵器博物館から移転されていたのである。


 やがて、アントラー号の正面に出現したジャンプ台に乗り上げ、最高速度のまま跳び上がったドリル戦車は――巨人の頭上目掛けて、落下して行く。


「アントラー・セェエット!」


 その脳天に、先端から突き刺さる――直前。ドリルが内部に引っ込むと同時に、車体が上方90度に回転した。そのままドッキングが完了した瞬間、車体に格納されていたドリルが再び伸びてきて――鋭利な「鼻先」となる。

 それこそが。碧い両眼を輝かせながら、咆哮を上げるジャイガリンGの真の姿であり。彼の背後から打ち上げられた真紅の翼が、その巨体にさらなる「力」を齎すのである。


 その翼を追うように学院のプールから飛び出し、グラウンドを踏み締め跳び上がったジャイガリンGは――無人操縦で動くようになった相棒「ジャイガリンブースター」との、さらなるドッキングを敢行した。


「ブースター・クロォォス!」


 その叫びに応じて、真紅の翼はジャイガリンGの背面に張り付き――彼の巨体を、宇宙の彼方まで運んで行く。


「明星君……今、行くぞッ!」


 「有事」に備え、2年前とは比にならないほどのパワーアップを施されていたジャイガリンGは――その「秘密兵器」としての本懐を果たすべく、成層圏を瞬く間に突き抜け、ロガ星を目指すのだった。


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