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平凡兄貴とデレ度0%のツンデレ妹  作者: 紡未夏樹
俺がゲームで活躍する可能性0%!?
9/21

09

 涼花(すずか)天風(あまかぜ)と仲良くなり、俺は蚊帳の外に追い出されて数日後。

「最近ずっとゲームばっかりだな……」

 あれから何度も冒険に出かけて、俺たちは十分強くなった。ほとんど天風の力ではあるがな。

「でも、楽しいでしょ?」

「そうだな」

 友人と遊ぶ機会というものがほとんどなかった俺にとって、何時間にも渡って友人とゲームをするというのは新鮮で、だからこそ新しい発見や、知識が付いた。

 もちろん強い敵を、協力して討伐した時の嬉しさや、珍しいアイテムを見つけた時のようなワクワクも、それを後押ししていると思う。

——まあそんな事よりも、天風の普段見れないような顔が見れたのは嬉しい事だな。

「ん? 私の顔に何か付いてる?」

「いや、何でもない。ただ、嬉しいなって」

「え、ええっ? き、急にどうしたの? 昴流(すばる)君らしくないよ?」

「そうだな」

 一緒に戦ってるときの天風は凛々しくて、俺なんかよりもよっぽど格好良かった。けど、普段の天風はおっとりとしてて、優しさが滲み出ている。そのギャップを知っているのが俺だけという事実。

「今日もやるの?」

「あーそれがな、今日は休みだ。ほら、文化祭も近いだろ? 天風の事を気遣ってるんだよ」

 俺の事は気遣ってくれないのに、とそっと付け足すことも忘れない。

「そっか、それは嬉しいな。最近、部活で出す作品進んでなかったんだあ」

「そういやそんな話もしたな。どんな内容なんだ?」

 天風のおすすめ本、まだ読めてないしな。というか、借りてきた本すら読み終わってない現状だ。この機会に一気に読んでおくか。

「そ、それは……その、秘密……かなっ」

 えへへ、と苦笑いしながら頬を赤らめる。その仕草に思わずドキッとして、

「そ、そうか」

 俺は引き下がるしかなかった。



「おや、スバルじゃないか」

 昼休み、天風が図書の貸し出し当番の為、手持ち無沙汰で廊下を歩いていたら、九十九(つくも)先輩に声を掛けられた。

「あれ、先輩。どうしたんです? こんなところで」

「ふむ、その質問の意図が分からないね。ボクだってここの生徒だ。廊下くらい歩くさ」

「いや、そうじゃなくて、今日は図書室の貸し出し、先輩の担当でしょう。行かなくて良いんですか?」

 天風と九十九先輩が、同じ日に図書室の担当なのは、先日知った。

「なるほど、図書室か。その発想は無かったよ」

「むしろ真っ先に思い浮かびそうですが」

「普段は近寄りもしないからね」

 本当にこの人が図書委員で良いのだろうか。

 一瞬そう考えもしたが、そもそも他の図書委員を見かけた記憶も無いので、そういうものなのだろうと納得せざるを得なかった。

「図書室、行くかい?」

「そうですね。俺も暇でしたし」


 ところで図書室へ向かう道すがら、変な声が聞こえてきた。

「——その九十九って人が……」「——噂でしょ……?」「——本人が……」

 聞き取れたのはこのくらいだが、明らかに九十九先輩は気にしている様子だった。何かあったのかもしれない。

「先輩、何かあったんですか?」

「バレてるかい?」

「そうですね。様子がおかしいですよ」

「ふむ、顔に出ないようにしてるはずなんだがね。まあ、後で話すよ」


 相変わらずほとんど人が居ない図書室では、天風が一人、小説を読んでいた。

「よう天風、借りに来る人居るか?」

「あれ、どうしたの昴流君? 九十九先輩まで」

「なに、少しばかりの暇つぶしさ。あても無く彷徨っていたら、スバルに捕まってね」

「人聞きの悪いこと言わないでください。声掛けてきたのは先輩じゃないですか」

 むしろ俺が捕まった方だと思うんですが。

「で、先輩、さっきの話って何だったんです?」

「話?」

「ああ、さっきな——」

 ここの来る途中で聞こえてきた言葉、そして先輩の様子を天風に教える。

「まあ、色々あったのさ」

「話が違いますよ先輩。何があったか教えてもらえますか?」

 ふと先日、先輩が辛そうな顔で悩んでいたことを思い出す。

「あれですか? この前の陸上部の……」

「よく分かったね」

「まあ、心当たりはそのくらいですし」

「その通りだ。ボクもなるべく、波風立てないように過ごしていたはずなんだ。どこかで選択肢を間違ったらしい。やり直したいよ」

 表現がギャルゲみたいだな。

「簡単に今回の事を説明させてもらうとね、ボクは陸上の大会に参加するのを拒否した。そしてそれから数日後、なぜかボクとその部長が付き合ってるなんて噂が立ったのさ。原因はボクにも分からない。なんなら否定もした。だけど誰も聞いてくれなくてね」

 よくある話だ、そう思った。

 仲のいい異性の友達がいるだけで、付き合っていると噂され、否定しても聞いてくれない。

 けど今回は事情が違う。九十九先輩と陸上部部長は、決して仲が良いようには見えなかった。もちろん、嫌いというわけではないのだろが、そういう噂が立つには少し材料が足りないように思う。

「周囲の目が痛いんだ。彼は運動が出来る。顔も悪くない。だからこそボクに向けられる視線が痛い。でも、ボクには解決方法が分からない」

 先輩は俯いている。言いたいことは伝わる。そして、何が原因かも予想が付いた。もちろん確信は無いが、確認する価値はあるだろう。

「先輩、もう時間です。一旦、教室に戻りましょう」

「ああ、そうだね、すまない。けど、人の噂も七十五日と言うからね。しばらくすれば納まるはずさ」

 弱々しい笑みだ。先輩との付き合いは短いが、こんな顔をさせて良いとは思わない。

 そのためにやるべき事を脳内でシミュレーションする。


 教室へ戻っている最中、

「昴流君、どうするつもり?」

「なに、ちょいと問題解決のために動くだけだ。やってやるさ」

 俺だけじゃどうにもできないけどな。



 俺はその晩、涼花の部屋を訪ねた。

「はあ? 相談? お兄があたしに?」

 どういう風の吹き回しよ、と怪訝そうな顔をする涼花。

 俺は、これまでの経緯を説明する。

「ふーん、良くあるやつね。あたしも一時期あったわ。その時はすぐ納まったけど」

「原因は何だったんだ?」

「簡単よ。たまに話す男子にあらぬ噂を広められた、それだけ」

 なるほどな。

 俺が言うのもなんだが、俺の妹は超可愛い。それこそ同じ学校に一人でもいたら幸運だと思わざるを得ない程に。まあ、俺の場合は内面まで知っているから、何とも思わないわけだが。

 そういう事情で、言い寄られたりすることも多いのだろう。

「ちなみにどうやって解決したんだ?」

 知りたいのはそこだ。それが分かれば問題も解決するはずだ。

「さあ? あたしが否定したら納まったけど?」

 やっぱりか。

 分かってはいたが、こいつはクラスでも発言力の強い方らしい。所謂(いわゆる)、陽キャだな。

 逆に九十九先輩は、波風立てないように過ごしていた、と言っていた。要するに目立つ存在ではなかったんだと思う。それ故に発言力も弱い。

「わかったありがとう」

「お礼は休日の荷物持ちで許したげる」

「いつもやってるよなあ!?」

 それともなんだ。あれも何かのお礼としてやらされていたのか。俺、そんな記憶ないんだけど。

「いつもの奴を合わせて、これからも荷物持ちね」

「理不尽過ぎないっ!?」

 どうして俺の妹様はいつもこうなのか。もう少し慈悲の心があっても良いだろうに。



 翌日、状況が悪化した。

 昨日、先輩が言ったようにあの部長は、それなりに人気があるらしい。理由の一つがそれだ。

「雰囲気、悪いね」

「ああ」

 俺たちのクラスにも、ファンは数名程いた。

 噂話、特に印象の悪い噂話なんてものは、壮大な尾ひれが付く。最初は気に留める程ではなかったものが、避けては通れない程に大きく成長することもある。

 そんな話をいくつか抜粋すると、

『あの女が何か弱みでも握っているのではないか』

『表では目立たないような女ほど、裏で怪しい事をしているものだ』

『体を売って貢いでいるのではないか』

 ハッキリ言って胸糞悪い。

 もちろん俺も裏で何をしているかは知らないが、少なくとも、元の噂から派生するにはあまりにも話が飛躍し過ぎていると思う。

「俺、もう一回先輩に話を聞いてくる」

 幸い今は昼休み。時間はある。

 クラスの微妙な雰囲気に耐えられないのもあったが、それ以上に、原因がうっすらとでも分かっているのならば、すぐに行動に移した方が良いだろうと考える。

 俺は当事者じゃないし、何なら先輩と知り合って間もない。

 けど、知り合ったのなら、俺だってこのトラブルに関わる権利がある。

「っと、先輩って何組だっけか」

「えっと、確か二組」

「ありがとう。天風も行くか?」

「ううん、私は止めておく」

「そうか、じゃあ行ってくる」

 少しだけ足早に廊下を歩く。

 偽善なのは分かっているが、俺に出来る事をやりたい。その一心だった。

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