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平凡兄貴とデレ度0%のツンデレ妹  作者: 紡未夏樹
俺がゲームで活躍する可能性0%!?
8/21

08

 ガチャ

「ひぃっ!?」

 急に部屋の扉が開いた。俺はびっくりして椅子から跳ね上がるようにして立ち上がった。

「お兄、前借りた本読み終わったから新しい奴——」

 涼花(すずか)の眼前にはさぞ間抜けな光景が広がっていただろうな。

「あっれぇー? 開けちゃマズい時に開けちゃった? エロサイトでも見てたの?」

「見てねえよっ!」

 いや、確かに涼花がそう思うのも無理はないとは思うけどな……だって俺、PC守るようにして立ってるし、見られたくないようなものが映ってるようにも見える。そりゃ見える。

 けど、分かってくれると思う。俺は今までゲームをしていた。現に天風(あまかぜ)の、『どうしたの? 大丈夫?』なんて声も聞こえるしな。

「じゃあ何やってたの? ……もしかしてレベル上げ? あたしより強くならないでって言ったよね?」

「そ、それはそうだけど、こっちにも事情ってもんがあるんだよ……」

 俺は何だか後ろめたい気分になって声が小さくなる。約束は約束だし、それを破ったのだから涼花が怒るのも無理はない。

「事情って何? それによっては許したげる」

ここで返答を間違ったら死に直結するような予感がする。デッドエンドだ。

「そ、それは……」

「それは?」

「あ、あれだよ。俺も助けられてばかりじゃなって思ったんだよ」

「どういう事?」

「いやほら、この前、助けてくれただろ? 何か情けなくなってな。それで、俺も強くならないと、せめてゲームの中だけでも、兄貴っぽく振舞えたらなって思ったんだ」

 すっげぇ恥ずかしい。何で妹の前でこんな事言わなくちゃならないんだよ。

「へ、へえー……じゃあ、あ、あたしもゲームやる」

「話聞いてたか? 俺今、お前より強くならないとって話したよな?」

 というか、顔赤いな。熱でもあるんじゃないのか?

「あ、あああたしを守ってくれるんでしょっ? じゃあ良いじゃないっ」

「ぐっ……」

 俺の吐いたセリフの恥ずかしさが移ったのか、声を上ずらせながらも俺を追い詰めることを止めない涼花。

 自分で言うより、妹に言われる方が精神にクるな。

「……ったくしゃーねえな。やってやるよ」

 俺だって少しは知識を付けたし、レベルも上がった。今なら前みたいな情けない姿も見せることは無いだろう。多分、な。


「繋げたか?」

『うん、大丈夫』

「天風も、ごめんな。こんなタイミングで」

『ううん、良いの。後々こうなるなら、早い方が良いもんね。よろしくね、涼花ちゃん』

 PCに繋いだヘッドホンから各々(おのおの)の声が聞こえてくる。

『お兄、誰この人』

「涼花、そういう言い方は止めろって言ったよな。前に書店に居ただろ。そいつだよ」

『ああ、あの地味な』

「その言い方も止めろって言ったよな!? 名前は(よみ)だ。天風詠。覚えろよ?」

 何でこいつは敵愾心むき出しなんだよ。そんなに悪い奴じゃないのに。犬か。犬なのか。見知らぬ人に吠える犬なのか。

『そっか……やっぱり地味だよね……』

 ほら天風落ち込んじゃっただろ。

「天風、そんなに気にするな。うちの妹からしたら全部地味みたいなものだから」

 ザ・リア充って感じで普段からキラキラ光ってるような奴だ。自分より明るいものなんてそうそう見つからないさ。

『何よその言い方! まるであたしが嫌な奴みたいじゃん!』

 自覚無かったのかよ!

「人の部屋占領したり、人に荷物持ちさせたり、人のもの盗もうとしたりするやつが嫌な奴じゃないわけあるか!」

『あーもう、うっさいから怒んないでよ。ほら、さっさと始めるよ。どこ行けばいいの』

 原因は涼花だと思うんだがな。

「天風、頼む」

『あ、うん。えっと、向かうのは——』

 良いさ、この後格好良く決めて見返す予定なんだ。今だけ調子に乗らせておくのもやぶさかじゃない。


…………まあその、何だ。自分が精霊使いだってこと、すっかり忘れてたよな。

 格好良く決めてやる! と息巻いたは良いものの、そもそも支援職の精霊使いじゃ、攻撃職の暗殺者に勝てるわけないよな。

『はあ……カッコわる……』

「うっ……」

 ヘッドホンから、涼花の落胆した声が聞こえる。

『ま、まあ、援護は十分できてたし、そういう意味では十分活躍できてたと思うよ』

 天風のそんな言葉も、今は心が痛くなるばかりだ。天風はフォローのつもりで言ったんだろうけど、俺、サポートがしたかったわけじゃないんだよなあ……いや、それが本来の俺の仕事なのは分かってはいるんだけどさ。

『お兄って昔からそうだよね。肝心なとこでミスったりしてさ』

「そ、そんなことないだろ!」

『あ、うん、分かるよ。私におすすめの本を教えてくれるってなった時も、後から、エロ要素が多いのしか無いって言ってたし』

『はあ!? あんた女子にそんなことしてんの!? うっわーやってらんないわー……』

 あからさまに引いたような声が聞こえる。

 確かに的を射ているような気もするため、俺は言い返す言葉が見つからない。

『詠さん、ごめんね? うちのお兄が変なことしなかった? 襲われたりしてない?』

『だ、大丈夫だよ。そんな変なことは何にも……そう、何にも……魅力が……はあ……』

 天風が落ち込んだような声を出していたが、俺は聞いちゃいなかった。

『まあ、お兄は変態だから、言葉の半分は真面目に受け取らないほうが良いよ』

『うん、そうしてる。昔もそうだったもん』

『昔? お兄と何かあったの?』

『うん、実はね——』

 話の内容までは聞こえてこないけど、何でお前ら意気投合してんの? さっきまで喧嘩というか、涼花が一方的に敵愾心むき出しだった気がするんだが?

 完全に蚊帳の外に追い出された俺は、一人寂しく悲しみに浸ることにした。どうせ俺なんか格好悪いまんまですよ……。

『へえー! そんなことが! 詠さんも大変だね。お兄聞いてた?』

「ん? どうかしたのか?」

『あっそ、聞いてないなら良いわ』

「おい、どうしたんだよ。気になるだろ。天風、何があったんだ?」

『ん? んー、何でもない、かな』

「……そうか」

 この様子じゃ、絶対に教えてくれないだろうな。大方、女子トークみたいな、俺には理解できない何かなんだろう。

 ああ、結局蚊帳の外か……。

 もう本格的に泣きたくなってきた。俺頑張ってるよな? 実は傍から見たらそうでも無くて、一人でピエロやってるなんて無いよな?

 いや、そもそもゲーム頑張ってるって何だ……もしかして俺、本当にピエロしてた……?

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