表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平凡兄貴とデレ度0%のツンデレ妹  作者: 紡未夏樹
俺がゲームで活躍する可能性0%!?
1/21

01 俺がゲームで活躍する可能性0%!?

「ね、ねえお兄」

「な、何だ?」

 夕焼けに照らされる室内。自宅の一室、妹の部屋に、俺こと黄間(おうま)昴流(すばる)は、部屋の主である妹の(すず)()から呼び出されていた。

 開け放たれた窓からふわりと吹く風が、涼花のトレードマークであるツインテールを揺らす。

「あの、さ。大事な話があるんだけど、いいかな……?」

 その時、強烈な違和感が俺を襲う。


——おかしい。


 あの傍若無人な俺の妹がしおらしいだと?

 普段は俺の気分なんてお構い無しに、色々なとこを連れまわしては荷物持ちをさせるような妹が。俺の事を道具の様に扱ってる妹が。

 これは喜ぶべきところなのか? やっと妹様の奴隷的生活から抜け出せると? 

 それとも、兄としてこの急激な変化を心配するべきなのか?

「ちょ、黙らないでよ……。何か言ってよ……」

 今にも泣き出しそうな声を出す俺の妹。

「ご、ごめん。急にどうしたんだ? 話なんて。それに、俺の顔色を窺うなんてお前らしくないじゃないか」

 俺は後者を、心配する方を選択した。

 というか目の前に泣きそうな女の子が居るのに、「ついに奴隷的生活から解放!? マジで!? イヤッフー!」なんて叫んだら、ただの頭のおかしい人だろう。いや、そもそもそんな事叫んだら、状況関係なくおかしい人だけども。

「あの、言いたいことがあって、それで、呼び出したんだけど……ダメ、だった?」

「い、いや、そんなことはないぞっ? 暇だったしなっ」

 ごめん、嘘。部屋でラノベ読んでた。めっちゃ続き読みたい。

「そっかっ!」

 一気に顔を輝かせてにっこりと笑う涼花。そんなに俺が暇だったことが嬉しいか。貶されてる気分だぞ。

「そうだよね! お兄はいっつも暇そうにしてるもんね!」

 確かに正しい。部活にも所属してるわけじゃないし、友達も多いとは言えない。だけど、そうやって言い返しづらいのはズルいと思う。

「で、その大事な話ってのは何なんだ?」

 早いとこ話を聞いて、部屋に戻りたい。そして、続きが読みたい。

 俺が話の続きを促すと、涼花は顔を赤らめ始めた。そしてもじもじしながら、

「そ、その、えっと……話って言うのは……あ、あたしと、あたしと——」


「——あ、あの……昴流、君?」

「んあ?」

 あれ? ここは……教室?

 俺は家に居たはずだが……まさか今のは夢だとでも?

「次、移動教室なんだけど……」

 消え入りそうな声で、俺を起こしてくれたであろう女子を見る。

「もしかして、俺、寝てた?」

「う、うん、寝てた。皆が先に移動しちゃって、私も、小説読んでたら遅くなっちゃったんだけど、そうしたら、昴流君が居て、それで起こしたんだけど……」

 しどろもどろになりながらも説明してくれている。

 ってことは俺、妹に呼び出される夢を見てたってこと? 遂に俺の夢にまで進出してきやがったか。

「そうか、ありがとう」

 時計を見ると昼休みだった。まだ予鈴は鳴ってないし、歩いても間に合うかな。

「次、どこだっけ」

「え、えっと、パソコン室」

「そうか。じゃあ全然間に合うな」

 というか何で皆そんなに早いんだよ。もっとゆっくりでも良いだろうに。

 ふとそこで、彼女が手に持っている小説に目が行く。

 その本は、世界最強の吸血鬼である少年が、その監視役として派遣された少女と一緒になって、その強大な力とともに事件を解決していくという、俺の好きな作品TOP10には入る名作だ。まさかこんなところに同志が居るとは。

「その本って……」

「えっ? あ、これは……その」

「俺も好きなんだよその作品! いやーまさか君がこの作品を知ってるとは思わなかったよ!」

「ひゃっ!」

 彼女の手を取り、その顔をちゃんと確認する。

 少し大きめな、角が丸まった眼鏡を掛けており、髪型は三つ編みのおさげ。(くだん)のラノベを豊かな胸に抱いてる姿は、少しだけ可愛くて、ドキッとした。慌てて、掴んだ手を離す。

「ご、ごめん」

 俺って女子に耐性ねえんだな……。

「あの、俺、まだ皆の名前ちゃんと覚えてなくて、良かったら、教えてくれないか?」

 そういえば、と思い出したように聞く。

 まだ入学して半年も経っていないから、当然と言えば当然だが、やっぱり失礼だったのだろうか、その少女は少し落ち込んだように、

「え……うん、そうだよね……」

「? どうかしたか?」

 そんなに落ち込むことでもないと思うんだが、何か思うところがあるのだろうか。

「う、ううん、何でもない。えっと、私は、(よみ)(あま)(かぜ)詠。よろしくね、昴流君」

「おう、よろしくな。それで、その本って……」

「こ、これは……! その……」

「好きなのか?」

「うん、好き、かも、しれない」

「かもしれない、かあ」

 ちょっと期待してたんだけどな。

「で、でも、昨日買ってきて、今、夢中になって読んでたから、多分、好き」

 ああ、それなら良かった。よく見たら一巻だしな。作品について話したいけど、そういう事情なら仕方ないか。

 俺はその本について語りだしたい衝動を抑えて、もう一つの質問をする。

「その、天風は、他の作品も読んだりするのか?」

「あ、えっと、小説なら沢山読んでるよ、ライトノベルはまだこれだけだから、あんまり分からない、かな」

「そうか。じゃあ今度おすすめとか教えるけど、どうだ?」

 俺が教えたいだけだけどな。

「良いの?」

 意外にも、明るい反応が返ってきて安心した。

「もちろん。仲間が増えるなら嬉しいよ。ちなみに、どんなのが良いんだ?」

 やっぱり異能力モノだろうか。いや、ラブコメという線もあるか。まさかこの見た目でエロコメは無いだろうし……。

「あ、えっと、じゃあ——」

 言いかけたところで予鈴が鳴った。

「やべっ! 話し過ぎた! 急ぐぞ!」

「う、うん!」

 歩いても間に合う時間だったはずが、つい話し込んでしまい、走る羽目になってしまった。

 まあ、同志が見つかったから良しとするさ。



 妹の、俺に対する理不尽な仕打ちの話をさせてくれ。

 俺の妹様は、何もかもが平凡な、いや、平凡以下な俺と違って、容姿端麗で勉強は出来て、スポーツもそれなりに出来て、更にはゲームの知識まで持ち合わせているという、ハイスペックな人間だ。

 俺が何を言いたいかというと、その妹様は、俺の事をもはや人間ではなく、便利な道具として見ているのではないか、という事だ。

 妹が俺を外に連れ出すせいで、貴重な休日は潰れ、妹のゲームの相手をするという名目で、やったことのないゲームを買わされ、あまつさえ、心的有利を保つためか、そのゲームで、妹以上のレベルになることを禁じられている。

 逆らう方が時間もかかるし、最後はなんだかんだ言って用事に付き合わされるため、抵抗するだけ無駄だと悟った俺だが、それにしたって、

「——俺の部屋まで占領しないでくれる!?」

 流石に一度は目を疑った。

 だってこいつ、自分の部屋あるし、自分のPC持ってるし、というか俺が持ってないもの全部持ってるし、今さら俺の部屋を占領して何をしようというのか。

「あ、お兄帰ってたんだ」

「帰ってたんだ、じゃねえよ! 何でお前、俺のベッドに寝転がって小説読んでるんだよ!」

「だって、たくさん買い物したら疲れちゃったし。やっぱり荷物持ちは必要だよね」

「俺が聞いてるのはそうじゃねえ。自分のベッドあるだろうが」

 というか、もう少し長いスカートを穿いたらどうだ。チラチラ見えそうになって、目のやり場に困る。

「あたしのベッドは今、荷物置き場になってるから」

「床に置けば良いだろ!?」

 何でわざわざ寝る場所塞いでまでベッドに物置くんだよ。というか何買ってきたんだよ。

「嫌だ。踏んだらどうするの? 壊れたらどうするの?」

 知らん。踏んだらそれは自分の責任だろうが。

「踏まないようにすれば良いだろ。というか俺、疲れてるんだけど。寝たいんだけど」

「知らない。床に寝れば?」

「俺の扱い物以下!?」

 俺が踏まれたらどうすんの!?

「人間の身体って丈夫に出来てるらしいから、そんな簡単には壊れないって」

「壊れなくても痛いだろうが!」

 ここ俺の部屋なんだから、もう少しこのアウェイ感どうにかならないのか。完全に妹様に主導権を握られてやがる。

「ほら、分かったらさっさと出てって。踏まれたいの?」

 ごみを見るような目を俺に向ける。

 ダメだ。埒が明かん。

 こうなったら素直に従う方が疲れないし、時間も取られない。

 俺は仕方なく部屋を出て、リビングのソファーに寝転がる。

——ああクソッ、可愛くねえ。

 俺の妹は、こうやって俺の日常を破壊していく。見た目は良いんだから、もう少し大人しくなれば、俺だって従うのはやぶさかでも……いや、何にしても妹に従うのはごめんだな。

 そんな事を考えてるうちに、睡魔がやってきた。

 先ほどまで妹と口論していた疲れからか、俺はそのまま夕食の時間まで寝続け、その後、妹様の強力ビンタによって起こされることになった。

 というか、起きた後も叩き続けるのはどうかと思うぞ……めっちゃヒリヒリする……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ