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「あっそ。よかった。じゃ、改めて。時間ないからサクッといくよ。占い師の『出雲大社』です」
あっそって言葉にちょっと違和感を感じたけれど、
「……それ、本名ですか? もしくはまさかのパクり的なあれですか」
そんな名前聞いたことないし。
「もちろんそうだよ」
「もちろんって、どっちですか! イヅモタイシャさん!」
「はははは。やだなあ、そんなにフルネームで呼ばなくても聞こえてるよ。それに俺の名前、イズモタイシャだから」
「は?」
「いやいややっぱバカ? ツにてんてんじゃなくて、スにてんてん」
手をぴらぴらさせてわざとらしく笑う占い師は無視し、どっちだって同じじゃないかと思ったり。
占い師だけじゃなく、占い師の名前にも同時に煙に巻かれた気がしてならないが、
『これから先も君は職がないかもしれないね。あっても短期ですぐに終わったり、契約延長ができなかったり、そんなことをしている間に正社員で取ってくれるところが無くなってくる。取り立て、手に職があるわけでもないし、このままアルバイト生活で一生生活するわけ? ここは仕事をくれるって言ってる人のところで働くのが一番なんじゃない?』
とまくし立てられて、反論できず首を縦に振ってしまった。振るしかなかったし、これでいいのかもしれないってうっすら思ったところもあった。なぜかといわれたらそれは説明できないけど。
兎に角だ、仕事がなければごはんも食べられない。ここはこの占い師のいう通りに働かせてもらうしかない。と、思ったわけだ。
「じゃほら、帰って。俺忙しいから」
無理やり追い出されたかたちで階段を上がり、陽の上った新宿の路地裏へ出た。
太陽がまぶしい。
目を細め額に手を当て太陽光線を遮った。
コテツが足元にすり寄ってきて、そのまま足早にどこかへ行ってしまった。
あいかわらず白くて大きくてお腹が地面につきそうなほどまるまるしている。
ノリコと母猫は部屋のどこかへ行ってしまったのか帰りには見かけなかったなと思っていると、前から女子が二人きょろきょろしながら何かを探しているのが目に入った。
もしかしたら占い師のことを探しているのかもしれない。
それだったらここを降りて行けば会える。そう言おうと思って振り返って、びっくりした。
今、上がってきた階段が無くなっていた。
そこはただの壁、つたのからまっている至って普通なねずみ色の壁になっていた。