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「いや、なにってだからその、霊能力的ななんかとか、とりわけ信心深いとか、この世ならざる者が見えるとか見えないとか、声が聞こえるとか空を飛べるとか、なんかそういう特殊能力、私にはないですから」
「そんなこと期待してないよ。それに、イリュージョン以外で空が飛べるなら俺も試したい」
「え。じゃあ何を」
「これ」
点々と指さした先には、各々色とりどりの猫が戯れている。
いやまさかね。まさかと思うけど。
慎重に顔を横に動かし、(顔だけはちょっといい)占い師をチラ見した。
「猫の食事係とトイレ掃除係の募集しようと思ってたんだよね。丁度よかった。いいタイミングだよね」
「猫のお世話係ですか。私、猫のお世話するんですか?」
「そうだね。猫、嫌いじゃないでしょ?」
「嫌いじゃないですけど。でも……」
なんで猫のお世話?
「あ、あとあれ。コーヒー淹れる係も忘れないで」
「コーヒーってなんのために」
「君さあ、本気でここがどこだか分かってないんだね。ここ、世間ではお告げカフェって名前で通ってるんだけど」
「お告げカフェですか。初めて聞きました」
お告げカフェとはそのまんま霊的なものが占い師の目の前や耳元でごにょごにょと相談者の悩みやその解決法を話してくれる。それをまんま伝えるといった内容のことをこの占い師とお茶しながらお話する場所ということだ。
御先祖さまや守護霊を憑依させるやり方もあるそうだが、この占い師は人を一目見ただけで、何が分かるのかは教えてくれなかったけど、分かるそうだ。
そんなこんなの口コミで広がり、巡り巡って私の耳にも入ったわけで、見つけられる人にしか見つけられないというのもただ単に波長が合った時に会えるだけの話だと言った。
「俺に会いたくて一生懸命探しに来るって話、聞いたでしょ? で、カフェなんだからコーヒー出さなくてどうするの? この前までコーヒー係いたんだけどちょっといろいろあってね。で、後任の君におまかせすることにしたから。というわけで、明日、お昼くらいに来て、まずは猫のことやって。そのあと来客があればコーヒー淹れて。ってことで。帰っていいよ。俺でかけるから」
自己中心的男。
それはこの占い師のことです。
とりあえず今後の身の振りを考えたくて、とりあえずどうしたらいいのか教えてほしくてここへ来たのに。
運よく占い師のところまでたどり着くことができたけど、欲しい答えはもらえなくて、その代りといっちゃなんだけど、仕事をくれた。しかもへんてこな仕事でいまだかつて聞いたことがない。
猫のお世話係(エサとトイレ掃除業務)とコーヒー係。
カフェっていってるのにスティックコーヒーを出すなんて、とんでもなくいい加減。
それを私にやれと言うわけだ。
ただお湯を入れるだけなんだからそんなこと自分でもできるじゃないか。と心底思った。
明日のお昼からここに来て仕事をしろと言われても、果たしてこんな仕事と呼ぶに呼べない仕事をしていていいものなのか。なんて言える立場じゃないのは百も承知だけどあえて言いたい。
それに保険のことだっていろいろと心配だ。
さらにはアルバイトなのか正社員なのか。そこのところだってはっきりしていない。
極め付けにに、これから出かけるから帰れときた。
「朝倉さん」
不意に呼ばれて顔を上げれば、
「うわ!」
目の前に綺麗なお顔がででんと見えた。
「明日から来てくれるよね」
顔中で困ったアピールをされたら、
「……はい。とりああえず……来てみます」
というしかないじゃないか。