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「僕はなんでもお見通しだからね。ふふん」
「私の失態でした」肩を落とした。
「仕方がない。甲乙たけし君の方が悪知恵が働いただけのことだ」
「でもなんで白子さんを殺そうとしたんでしょうか」
「さあ。綺麗な女性に化けていたんだから自分のものにしたかったんじゃないの?」
「最悪ですね」
「もう終わったことですよ。そんな話よりこれだ」ぽんと手を打ち立ち上がり、台所に行き、袋を持って戻ってきた。
「それとね、これを買いに行ってたんですよ」
話は打ち切られた。
袋から出されたのはフランス語で何かが書かれた大きめの箱。トリコロールのリボンで装飾されていて『フランス』を全面的にアピールしている。
「ここのお菓子が食べたくてね」
丁寧に紙袋を破き、箱を開けるとそこにはクッキーとチョコレートの詰め合わせ。
「園長が持ってきたコラボのお菓子があったでしょう? あまりにも僕好みだったのでついつい」
「って、園長が来たときいなかったじゃないですか!」だったらそれはおかしい。
「君たちに会う前に僕のところに来ていたんですよ。それで先にこのお菓子を食べましてね、すぐにフランスへ飛びました。で、僕は案件を聞いて園長の後ろのモノと話し、君と太郎で充分だろうと思いましてね。帰ってみたらぜんぜんダメで、これまたびっくりでした」
袋を破き、「はい」と手渡され、とりあえずクッキーを口に入れた。
うまい! そうじゃないだろ私。
フランスに行って帰ってくるのってそんな早くできるものなの?
もしやのフランスって店の名前のことか? それも大阪や神戸やそっちの方にあるとか?
これ以上何を言ってもこのクソ占い師の中では完結しているのだから何も聞き出せないだろう。いや、聞けば教えてくれるはずだ。でも、私だって疲れ果てている。忘れる前に最後に言っとかないとならないことがある。だから、
「出雲さん、私、心配したんですよ。前日ぐったりしていたからもしかしたら倒れているかもしれないって思って」
「ああ、知っていますよ。太郎が全部教えてくれましたから。それに、用意してくれた食事は美味しく頂きました。ありがとう」
お礼を言われたことなんてなかったからびっくりして声にならなかった。
「僕はね、視る時にはものすごいエネルギーを使うんだ。だからそれをやった後は動けなくなる。汗だくになって体重だってかなり減っている。でも一日休めば元に戻るんだ。だから心配は無用だよ。それでは今日は夕方過ぎから人が来る予定なので、五時くらいに来てください。家へ帰ってゆっくり休んで。朝倉君、よく頑張りました。太郎を守ってくれてありがとう」
頭を小さく下げた出雲さんは、にこりと笑み、「じゃ、おやすみ」と言うと音も立てずに立ち上がり、食べっぱなしで部屋へと戻って行った。白子さんと同じだ。後片付けは私の仕事。それでもなんだか嬉しかった。
「おやすみなさい。ここ片付けたら帰りますので」慌てて言うと、
「……当たり前でしょう」と憎たらしい一言。
「あ、それと、レンタカー代とガソリン代、高速代、君の給料から天引きするからね。事前に聞いていないから認められません。ああ、それとパンダ代もね」くすっと笑って開かずの間へ消えた。
「なんでですかー! それこそ聞いて無いですし! 仕事で使ったんですよー! 仕事なんですよ! てか最後のパンダ代って何ですか一体! 出雲さーん!」叫んだ。
「俺はそれを良しとした」
「ぜんぜん良くない! パンダ代ってなんなんですかぁぁぁぁぁ????」
部屋の中から楽し気に返してきた出雲さんの声。しばらくこの言い方使うんだろうなあと思うと笑えてくる。パンダ代がどのくらい差し引かれるのか怖いところではあるが、今日のところは何を言っても変わらないだろう。
マグカップを二つ持ち、台所へ持って行った。
開かずの間の中からうっすら白子さんの鳴く声が聞こえた気がした。
ああ、太郎だったか。
それに、出雲さんのことが少しだけ分かったし、近づけたような気がしたから、
「私はそれで良しとする」
【にこにこ動物園飼育員(ニワトリ係)甲乙たけしの憂鬱】終




