4
「え……。っと、なにしてるんですかちょっと」
「なにって、コーヒーをね」
「スティックコーヒー、鍋に入れてどーすんですか!」
「コーヒーって鍋で煮るもんでしょ」
「完全に違います。アフリカとかどっかその辺の奥地で鍋で煮る調理方法が主流な国ならもしかしたらそうかもしれないけど。日本においては普通じゃないです。たぶんよく分からないけどそうだと思います」
「ああ、だからか。なるほどね」
ぽんと手を打った占い師は謎が解けたばりな笑顔になった。
「まさかのアフリカにいたことあるんですか?」
「あるよ。西アフリカの奥地の黒魔術は素晴らしいからね」
「黒魔術って人を呪うやつですよね」
「それだけじゃないけど。ま、じゃ、そゆことでコーヒーよろしく。俺あっちいるから」
自分で淹れるっつったのになんだこれ。まだ聞きたかったのに。
私にコーヒーを淹れさせといてむこうで何するっていうのか。
ぶつぶつ言いながら鍋の中に浮かんでいるスティックコーヒーを救出し、ふつうにコーヒーカップに開けた。
鍋はひっこめてやかんを取りだしお湯を沸かす。沸騰するまでやることもないのでふと目を横に向ければけっこうなキッチンだ。
業務用のものなのだろうか。昔アルバイトをしていたレストランの厨房で見たような気がする。
一通り調理器具も揃っていて、きっちりと片付けられていて、お皿もコップも全て白で統一されていてた。
「なんか、よく分からない人だな」
これが私の思った占い師に対しての感想だ。
そんな私の胸の内を勝手に読みやがって、テーブルについて猫と戯れている占い師の口許が緩み放題で、猫に、
『全部わかっちゃうよって言ってるのにねえ、だめな人ですねえ』
などと言ってることなんて想像もしてなかった。
丁度いい温度のコーヒーをずずっとすすって、「朝倉湖さん」とフルネームで呼んだ目の前に座っている男は自分の名前を『占い師です』と答えた。
突っ込みどころはたくさんあるけどひとまず飲み込んで、
「それで、う、占い師さん。私はこれからどうしたらいいのでしょうか」と漠然とぼんやり聞いてみた。
「まあ、占い師って今のところ言ってるからドンズバで当てちゃっていいかな?」
「は……はぁ」
「君は……」
再度音を立ててずずっとコーヒーをすすり、
「フラれたのは正解だよ」
でかい大砲をもろ胸にくらった衝撃につられて飲んだコーヒーをあやうく吹き出すところだった。
「ずいぶんと長いこと我慢してきたみたいだけど、君の考え方は間違ってないよ。ただ、言ってることと自分の立ち居ちが伴わなかっただけだね」
「ずばっときますね。そして私言ってないし。ふられたこと」
「だからそこが俺的な占いよ。相手の顔相を見てるんだけど。それに、遠回しに言っても仕方ないでしょ」
「それはそうですが。少しはショックというか凹みますよ」
「ショックを受けるということは少からず自分でも気づいてるってことだから。それで一歩成長したね」
にっこり微笑まれたらこっちもぱあっと明るく緩む。
だって、やっぱ顔、いい顔してるもん。テゴシユーヤには及ばないけど。