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となると、やはりこの二人は外して考えるべきだろう。犬や鳥は関係ないとなる。


「よし、これで見回りはおわり。なんも問題なく動物たちは落ち着いてますわ」

「そうですか。不審な人も見かけませんでしたしね」

「俺ら以外の人間がこの時間にここいらにいたら、動物たちはそわそわして騒ぎ始めますから。誰もいないってことで問題ないですわ」

「そうですか。じゃ、戻りましょうか」


 私たちは事務所のほうに向けて他愛のない話をしながらのんびりと歩いた。


 真夜中の動物園もなかなか面白い。


 動物園に住み着いている虫の声や音、夜にしか感じられない動物たちの気配なんかも感じることができた。そこに時おり混じる猛獣の唸り声なんかもまた怖さの中にも『襲われないから安心』といった気持ちがもたらす好奇心も垣間見れて、それだけでもここに来て良かったと思えるから自然と顔は笑顔になる。


「しかし、盗む動物に統一性がないってのが不思議なとこなんだよな」


 モンキーゾーンの方ををちらっと見てから向井さんがぽろっとこぼした。


「確かにな。ふつうは偏りが見られるもんなんだけどなあ。例えば同じ猿でも種類を変えて盗むとか、研究するならそれが一番と思うんだけどな。あんなめちゃくちゃな盗みかたはそれこそ楽しんでやってるとしか思えねえ」


 櫻井さんが事務所の扉を開けながら言った。


 事務所の中には甲乙さんしかいなかった。甲乙さんは先程と同様、デスクワークの最中で。


「あれ? 白子さんは?」

「お手洗いに行かれてますよ」

「ああ、そうですか」

「皆さん、お疲れさまでした。麦茶でもどうですか」


 甲乙さんは私たちが戻る時間を読んでか、既に冷たい飲み物を準備してくれていた。

 喉が乾いていた私たちはありがたくそれを手に取った。


 口にしようとしたところで、


『クライアントが出したものには一切手をつけるんじゃないよ』


 なぜか出雲さんの言葉を思い出し、グラスに口をつける瞬間に思いとどまった。


「それで、怪しい人とか何かいたんですか?」


 甲乙さんはパソコンのキーボードを叩きながら誰ともなしに聞いた。


「それがこれというのもなく、いたっていつもと変わりなし」

「そうでしたか。それを聞いてほっとしました。何もなくて良かったですね向井さん」


 麦茶のお代わりを飲み干して、向井さんがあくびをして背伸びをした。


「お二人は少し休憩したらどうですか? いつもと違って気を張って見回りしたから疲れてるでしょうし」


 と言われるとなんだか悪い気がする。けれど、本当のことなので仕方ない。甲乙さんを盗み見るとしれっとした顔をして向井さんの方を向いて目を細めていた。


「じゃ、ちょっとそうすっかな。少し休ませてもらおう。何もなかったことだし。もしかしたら外部の仕業かもしれないし」

「それもそうだな。じゃあ俺もそうすっか」


 櫻井さんもあくびをしながらソファーに腰を下ろし、首の後ろに手をやり頭を左右に振ってこきこきと鳴らした。


「それなら私、ちょっと白子さん探してきます。甲乙さん、お手洗いどこですか?」

「え? ああ、外出て左に行くとすぐにありますよ」

「ほんとすいません。白子さん好奇心旺盛なのでその辺ふらついてるかもしれないので探してきます」


 ややしばらくしても帰ってこない白子さんはきっとその辺をふらふらして散歩しているに違いない。眠っている動物を目を猫のようにまん丸くして眺めているかもしれない。


 まったく。臭いがどうのこうのと言ってたのは自分なのに。と思いながら足早に事務所を後にした。じゃないと二人とも仮眠してしまう。そして甲乙さんが一人になってしまうからだ。


 ところが、白子さんはどこにも見当たらなかった。

 トイレには誰もいない。使った形跡すらない。あの白子さんが事務所に甲乙さん一人を残してどこかに長時間行くとは考えにくいことだ。


 そして、外にある夜のトイレはすごく怖いという新たな発見をした。辺りはしんと静まりかえっている。すぐ後ろにライオンかなんかがいそうな気配に、身体中をちくちくと針で刺された感覚になる。


「白子さーん、どこ行ったんですかー?」


 ちゅちゅちゅちゅちゅと猫を呼ぶように音を立ててみた。もしかしたら出てくるかと思ったから。しかしながらどこにもそれらしき気配はない。


 入れ違いに戻ってるのかもしれない。そんな気持ちにさせられたのは、夜夜中に一人でこんなところにいるからか、事務所が心配だったからか、そのどちらかかは分からないが、気がつけば事務所へ向けて走っていた。


 入り口は開け放たれていた。嫌な予感がしたけれど、立ち止まっている場合ではない。


「誰かいまっ……」

「え? そんなに焦ってどうしたんですか?」


 相変わらずパソコンを叩いている甲乙さんがびっくりしてこちらに顔を向けた。


「白子さん、まだ戻ってないですか?」

「ええ、まだ戻ってないですよ」

「そうですか。ほんと、どこ行っちゃったんだろ」

「お手洗いにいなかったんですか?」

「はい。どこにも」

「もしかしたら、園内を調べているとかではないですか?」

「こんな夜中にしかも一人でですか?」

 それはないと思うと言おうとしたところで、

「そういえば先程、夜の園内も調べておかないとって仰ってましたよ」

「私たちが見回ってるのに、そんなことを?」

「はい。犯人は油断しているかもしれないから、あとでそっと園内を回ってみようとも仰ってましたよ」


 白子さんが果たしてそんなことを言うだろうか。


 ……それはないと思った。ここの従業員を一人にして出掛けるなんてこと、絶対にない。

 だとしたら、甲乙さんは嘘をついているということになる。


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