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「この際言わせてもらうと、占い師なんてそんな怪しい人、俺は信じちゃいない。動物の窃盗なんだからこんなもんさっさと警察に言えば丸く収まるんだよ。これをこんなインチキくさい人たちに来てもらってさ、わけわからねえっていうか、園長の気が知れねえ」

「やめないか、それは園長に牙をむくことになるんだぞ」櫻井さんが腕を強めに叩いた。


 見かけとはうらはらに礼儀正しかった向井さんの本性が現れた。まあ、これだけ盗まれてるので気が立っているのかもしれないけれど。


 反対に櫻井さんはそんな向井さんのストッパーになっていた。そこにおろおろするだけの甲乙さんが加わり、二人のなりゆきをそわそわしながら見守っている。


「だから、刑事が出てきてくれりゃああたしたちがわざわざこんなど田舎まで足を運ぶ理由なんてなかったのよ。むしろ文句を言いたいのはこっちだわ。刑事じゃ解決できないと踏んだからあたしたちに頼ったのよ。そんなことも分からないの? この不細工。悪いのは頭と顔だけにしてよね。わきまえなさいこのハゲ」


 白子さんは笑顔で毒を吐く。手は腰、足は肩幅に開き、胸を張り、堂々としている彼女の毒には抜けないとげがある。かつて今までに言われたことのない言葉を真っ正面から突き刺され、向井さんは口をぽかんと開けたまま白子さんを凝視し、白子さんはそんな向井さんをスナイパーさながらの睨みで圧倒する。

「白子さん、ちょっと落ち着いて」今度は私がなだめる番だ。

「あたしは落ち着いてるわよ。いつでもね」鼻で笑い返した。

「…………」ゆっくりと視線をはずし、床の方に目を落とした向井さんは、さすがに言い過ぎたと感じたのかそれ以上何も言うことはなかった。


「そろそろ見回りの時間でしょ? 早く行ってよ」

 白子さんの一言に皆はっとし時計をみたらもう一時になろうとしているところだった。


「とりあえず私は外回りに一緒に着いて行きますので」

「……分かりました」しぶしぶ了承する向井さんの目はまだ納得はしていなかった。

「よろしくお願いします。怖いことは何もないんで。動物みんな寝てますから」櫻井さんが私の不安を取り除いてくれた。

「それ聞いて安心しました」万が一熊やライオンが園内をふらついてるかもしれぬという私の些細な不安はあっという間に消え去った。


 懐中電灯片手に園内を見回っている時に、それとはなしに櫻井さん自身のことを聞いてみた。無言というのもなんだったので。


 彼はあと五年はここで働きながらいろいろな動物のデータを取り、その間に何本か論文を書いて学会で発表したいという希望を楽しそうに話してくれた。


 彼は大学院にも籍を置いていて、研究職にも携わっていた。動物園にいる限り好きなだけデータを取っていいと園長に言われているということで、ここにいればいろいろな動物のデータを取ることができる。自分の専門動物以外の動物のデータを取るのもそれもまた新しい発見があって多角的に面白いと言っていた。

 研究熱心な彼には動物を盗む理由は無いように思えた。


 向井さんにも聞いてみたが、彼は最初のうちふてぶてしくぶすっとしていたが、櫻井さんが話すことを聞いて興味を持ったためなのか、徐々に自分のことを話してくれた。


 彼は昔から猿が好きだということだ。子供の頃動物園に連れて行ってもらって初めて見た瞬間にびびっときたそうだ。子ザルはいつもくっついてくる。そんなところがかわいくて仕方ないらしい。もちろん彼も動物全般が好きでここにいるわけだが、あと何年かしたら他の動物の担当にもしてもらえ、いろいろな動物の世話ができるという約束を園長としていた。


 そんな矢先に自分が管理している猿が盗まれたものだから、もしかしたら自分の管理不足で動物が盗まれている。そんな管理能力の無いやつに他の動物なんて任せられるわけがない、と思われて、今までの約束が破棄されるんじゃないかと気をもんでいたのであのような態度になった。ということがうっすら浮かんできた。


「園長も犯人が分からないうちにそんなことしないだろう。そんな人じゃない」

 と向井さんの話を聞いた櫻井さんはぴしゃりと言い切った。

 この二人には動機はないと思った。しかし白子さんが言っていた『開けてみなきゃ分からないのよ』という言葉を思い出し、頭を数回振って、それでも彼らには何か企みがあるんじゃないのかと疑いの眼差しはキープすることにした。


「話は変わるんですが、その、甲乙さんてどんな人なんですか?」私は事務所にいる甲乙さんの性格や人となりを聞いてみた。

 二人は一瞬顔を合わせ目くばせをした。私はめざとくもそれを見逃さなかった。


「今のってなんですか? 今目で合図しましたよね」

「…………いや、とくには」櫻井さんは頭をかきながらそっぽを向いた。

「教えてくださいよ」ここで逃げられては振り出しに戻るだけなので、なんとか情報を引き出したい。

「…………」向井さんもわざとらしく動物の檻の方を向いてチェックしています風をふかせている。なので、


「甲乙さんて、動物園で働くにはなんていうんですかこう、静かすぎじゃないですか?」私はまず外角低めから投げてみることにした。

「それは関係ないだろ。あいつは昔いろいろあったんだよ」ややしばらく間があってから向井さんがボールをひょいと拾った。

「失礼なこと言いました。で、いろいろ? ってどんなことですか?」

「……俺前にSNSやんないかって誘ったことあってさ、ほら、その方が仲良くなれんだろ。あいつのこと、なんか気になっててさ。そしたらあいつ昔の大学時代の友人かなんかがヒットしてきたらしくて、何気なしに中身見ちゃったんだって。したら、そこには本当だったら自分も行くはずだった卒業旅行のフランスでの写真があって、自分以外のみんなが映っていたんだと。そんなの見つけたショックで、「SNSはできない、ごめん」って。本当は言いたくなかったと思うんだよそんなこと。だから俺もそれ以降二度と口にしてない。だから、あいつは過去に体のことで嫌な思いをしてんだよ。そんなこともあるから他人のことをやけにビビるし、どんな奴なのかって、こいつはいじめる奴なのかなってよーく見てる。そういうの敏感になってんだよ。そこまで気を遣うなってくらい気を遣う。俺らの前ではそんなこと必要ねえよって言ってるけどなかなか心を開かない。また同じことになるのは嫌だって、壁作ってんだよあいつは」


 最後の方は機嫌が悪くなっていた。向井さんもまた人がいいんだろう。イラついてはいるものの、懐中電灯でひとつひとつ檻の中を確認するのも忘れない。

 過去にいろいろあったのか。それは私とて同じだ。思い出したくない過去のひとつやふたつ、誰にだってある。一生懸命前向いて生きようとしているのかもしれないと思うと少なからず自分とダブって同情してしまう。



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