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「この四人の中にいるのは確かなのよね。でも、それぞれに動機がないことが問題なのよ」

「白子さん、確かにこの中にいるのかもしれないですけど、外部からの侵入者ってことも考えられませんか? 動物園のまわり、草木すごいですし」

「それはないわね」


 ミルクの入ったマグカップを置いてしつこいくらいに唇をべろんべろんと舐め回している。


「だってこの動物園、いかに回りに草木があろうとも寮と犬で囲ってるのよ。人がいるわ。しかもお金持ち動物園みたいだからこの一帯回り近所、みーんな園長のものみたいなものでしょう、敷地内に寮だってあるんだから外部からの侵入は考えにくいわ」

「なるほど、そう言われると確かにそうですね。そうなるとやはり内部……」


 私はこの内部者の中からどうやって犯人を炙り出すのか教えてほしいと、奥の部屋、占い師が昨夜入って行った部屋の方を何気なしに見た。


 しかしやはり気配がない。このお告げカフェの中にいる気配はない。もちろん開かずの間の中を確かめたわけじゃないけれど、そんな気がしてならなかった。


「湖ちゃん、たいちゃんのこと大好きなんだね」


 困った顔に唇を尖らせて目を真ん丸くしている白子さんに、「そんなんじゃないで……す!」と語尾強めに言い捨てたけど、「隠さなくてもいいじゃない。私たちもう仲間でしょっ。家族じゃなあい」甘い声で温かいことを言う。でもそれ、なんか嫌いじゃないから胸のところチクチクするけど、おちょくられてるって分かっていてもつい頬が緩んでしまう。


「あなたがここへ来たときから気付いてた。道で会ったあの時から分かってたもん」

「道で? そういえば、ノリコやコテツは?」


 白子さんの強烈なインパクトによって仔猫のノリコとふとっちょコテツの存在を忘れていた。どこにも見当たらない。話を変えるチャンスでもあったので丁度よかったが、いつもうろちょろしている猫たちの気配がない。


「ノリコは家へ帰ってる。コテツはそのへんほっつき回ってるんじゃないかしらね」


 白子さんが人になっているときは二匹は気ままにやっている。何故なら、白子さんが人のときはこのカフェに寝泊まりしているため、特段守らなくてもいいからだと言った。


「白子さんと出雲さんの出会いってなんなんですか?」

「湖ちゃん、たいちゃんのこと『占い師』って言ったり『占い師さん』って言ったり『出雲さん』って言ったり、統一性がないのはなぜ?」

「なんとなく。偽名っぽいので名前で呼ぶのは癪にさわるというかなんというか」

「ほんとの名前よ。嘘は言ってないわよ」

「ほんとなんですか? 本気で?」

「そうよ。だからちゃんと名前で呼びなさいよ」


 猫に説教されるとは思わなかった。でも、これでひとつすっきりした。よし、これからはちゃんと名前で呼ぼう。


 白子さんはふと目を細めて私の後ろを見た。もちろん咄嗟に自分の後ろを向く。なんかいると思ったから。しかしそこには相変わらずの白い壁にぶっさいくな猫の絵が掛かっていた。


「たいちゃんは私を拾ってくれたの。おわり」

「……ぇえー……なんですかその雑な説明」

「その話はまた今度。今度はあたしの番ね。湖ちゃんはなんでここを探してたの? なんで前の彼氏と別れちゃったの? なんでニートになったの?」

「私、白子さんに聞いたの一つだったのに三倍返しなんですね」

「いいじゃない。それでね、」


 と、話始めたところで携帯電話が鳴った。白子さんが出て、はたしてその相手は木立さんだった。声のトーンはかなり低めだ。


「……また盗まれたの? あたしたちが帰ったあとすぐ。あっそう、ふーん、そうなんだ」


 明らかに機嫌がよろしくない。

 そうこうしている間にまた猿が盗まれた。木立さんの後ろで半狂乱に陥って叫んでいる向井さんの声が電話越しにも聞こえてくる。その後ろでは誰かがなだめている声も聞こえてきた。


 白子さんは腕を組み、眉根をきゅっと寄せて細い目をして一点をじっと睨み付けている。と、


「湖ちゃん、動物園に行く準備して。ここにいても意味ないわ。向こう行って張り込むわよ」

「は、張り込みですか? てか今から行くってもう夜も八時すぎてますよ。さっき帰ってきたばかりなのに」

「あほね。今行かなかったらまた盗まれるかもしれないじゃない。考えても見て。あたしたちが今日動物園に行ったところでそんなのお構いなしとばかりに盗んだのよ。それって、あたしたちが乗り出してきたことを考えて、危ないと思ってやったのか、はたまたなめられてるのかのどっちかじゃない。あたしは後者だと思うの」

「同感です」

「誰に対する態度なわけ? ふざけんじゃないっつの。たいちゃんがいないのをいいことに女だと思ってなめてんのよ。腹立つわあ」


 言いながらヒートアップしてくる白子さんはイライラした様子で円卓をとんとん叩いている。


「あたし荷物つめてくるけど、湖ちゃんそれでいいよね。途中のコンビニでパンツと靴下買えばオッケーでしょ。じゃ、ちょっと待ってて」

「あの、ちょ……って、うわー……猫に戻った。そして走って開かずの間に入った」  

 思わず実況してしまった。言うが早いか白子さんは元の猫の姿に戻って走り去って行った。こんな非常識な光景を目の当たりにしてもあまり動揺しない私は既にここに慣れてしまったのだろうか。だとしたら案外どんなところでもいける口だとこんなときにも思った。


 私のことをお洒落もしない超自然的人間にでも見えたのだろうか、着るものさえも今日のままでいいだろうと疑う余地なく結論に至っているわけだし、少しくらいは私だっておしゃれをする。無論、白子さんに比べればどうってことないけどそれなりに気を遣ったりもする。デニムにシャツっていう格好が主でスカートとかってあまりはかない。それこそ体のラインが出るようなものは着た事なんかない。すーすーするし落ち着かないってのがその理由。


「じゃ行く?」


 一人思いにふけりながらもリュックに必要なもの、タオルとか歯ブラシとかそういう類のものと、台所の引き出しからお財布を取りだした。仕事だもん。ここから出していいんだよね? 出雲さんいないけどいいよね。

 白子さんに聞こうと振り向くと、さっさと外へ出て行くところだった。自分の荷物は置きっぱなしで。あからさまに私が持つことになる。


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