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「そう、ペリカンのところの小屋の屋根が……」


 ペリカンの話を思い出したのか、ひとつ手を打って園長とペリカンの話をし始めた。


「白子さん、ナイス。それで、なんか感じ取れました? さっき何人かすれ違った従業員の中にはいそうに見えなかったんですけど」

「なんでよ」

「だって、みんな動物大好きーって顔してましたし、ニコニコしながら仕事してました。そんな動物を盗むなんて人いないように思うんですけど」

「ねえ、湖ちゃん、」

「うわ、なんかそれ新鮮!」

「っはあ? あたしはただ名前を呼んだだけ。あのね、生粋の泥棒がケーキ好きだとしてね、ケーキが並んでいるショーウィンドーを眺めてるとするでしょう? 確実にその顔にはふつうに満面の笑みが溢れてるわよ。素性はそこには見えてない」

「生粋の泥棒?」

「そこじゃないわよバカね。だから、どんな人かは開けてみないと分かんないのよ。人間なんて誰しも二面性を持っているの、そゆこと」


 とどのつまり、白子さんはこの従業員の中に犯人がいると睨んでいるわけだ。で、私に、『人を見た目で判断するもんじゃない』と言いたいらしい。


 そうだった。人を見た目で判断したおかげさまで私は過去に手厳しい仕打ちをされてきた。そんなことも相まってニートになったんじゃないか。なんにも成長していないな。見た目は印象であってその人を知る術にはならない。そうだ、思い直しておこう。そうしないとまた同じ目にあう。と、昔のノスタルジーな思い出をうっすら引っ張ったところで、


「ここ一週間に夜勤だった人のリスト、もらえる?」


 白子さんの突飛な発言により現実に戻された。



 温めのミルクを仕事場の円卓に置き、白子さんは両手で持ちながら目を細めて舐めている。それさえしなければいい女に見えるのに、残念だなあと思いながら私はホットラテをずずとすすった。


 あの後、園長は仕事の電話がかかってきてしまい外出しなければならなくなったため、夜勤のリストは向井さんが出してくれて、詳しい勤務時間に休憩時間、担当動物をも聞いてもいないのに書いてくれた。塩対応だったり神対応だったりと、複雑な人だと思ったが、これも彼なりの動物愛なのだろう。


 私たちと向井さんがリストのことを話しているところへ休憩で戻ってきたのは櫻井というてっぷりとした体躯の男。担当は北極熊含む熊ゾーンだった。やはり大きめの動物には大きめの人があてがわれるのかと思いきや、北海道の大学で熊のことについて研究を重ねてきている人物だった。


「いやはや私は熊のことしか知らないもんでね、他の動物のことはうといんですわ。もちろんかわいいと思いますよ。けどもそこまでですわ。熊のことだったら深くしゃべれますけどね、それこそ明後日の朝までいけますわ。研究論文も書いてね、絶滅していく熊の手助けになるものはないかとまあ、研究研究の日々ですわ」


 むさくるしい頭をぼりっとかきながら人のよさそうな笑みを浮かべた櫻井さんのことをむさくるしい目で刺していた白子さんのことは言うまでもない。


 向井さんの休憩と入れ替わりで入ってきたのは浅黒くて長身でイケメンな堀の深い男。名前を佐藤と言った。


「結婚してる?」


 お目目キラキラ光線で机から前に乗り出して放った第一声目に、佐藤さんも向井さんも櫻井さんも私もことばを飲み込んだ。

 白子さん何言ってんのっ! 初対面でそれはないよ。と、言おうと口を開いたところで、


「はは、まいりましたね。こんな美人さんにそれを言われたら、『してませんよ』って即答して食事のひとつでも誘いたいところですが、残念ながらできません。結婚してます」


 言われ慣れてるんだろうなあ、うまい。と思った。


「そ。でも結婚だけでしょ」

「はい。こどももいます」

「こども、いるのかー」あからさまに残念がる白子さんに、

「三人も」追い討ちをかけた。


 肩を落とす白子さんの肩をぽんと叩いた。猫だもんね。そこのところ素直なんだよね。


白子さんの想い人、佐藤さんに秒殺されて後、ケロッと次へ進んだ白子さんのことを羨ましく思った。ダメなら次への典型を見た気がした。


「僕の担当はキリンとシマウマです。僕の場合、みんなと違ってなんや資格なんざなんも持ってないんですが、こどもの頃から動物園が好きで、将来の夢は動物園の飼育員さんだったんです。だから高卒でアルバイトで雇ってもらって一通りの動物のことを教えてもらったんです。で、今はキリンとシマウマ。半年前はライオンのとこにいました。僕はぐるっと一通りの動物のブースを回るのが仕事です」

 園長に頼りにされている佐藤さんは三ヶ月から半年のスパンでいろいろな動物のブースに入り、そこで動物たちの状態確認をするのがその仕事だ。あとでこっそり教えてくれたのは、『そこのゾーンで働く人たちの観察も入ってるんです』ということだ。

 超内内での事をも教えてくれたのは、釘をさす意味もある。自分が何をしているのかなど余計な事は他の人間に聞かないでほしいということだ。

 最後に入ってきたのは、小柄な男の人。身長は百六十あるかないかってたころか。支給されているつなぎがダブダブで腕も足もまくっていた。

「来客中でしたか、失礼しました。それでは私はまたあとで」

「いえ、すぐに出ますのでお気になさらず入ってください。私どものほうが気を使わなくてはならないところ、すみません」

 事務所を出て行こうと後ろを振り返った小柄な男の人に慌てて声をかけた。

「そうですか、それでは私はここに」

 名を甲乙と名乗った小柄な男は足をひきずるようにこちらへ歩いてきた。

 私も白子さんも失礼にならない程度、甲乙さんのことを見、話を向井さんに振った。

「甲乙はなかよし広場に設けているニワトリ、それとひよこ、モルモットゾーン担当で、こどもからえっらい好かれてる奴ですわ。な。で、今、ここに入ったり出たりした人間が交代で夜勤っちゅーわけです。夜勤っても二人一組で園内の見回りですけどね。夜行性の動物以外みーんなしんと寝てますからまあ平和です」

 猿担当の向井さん、熊担当の櫻井さん、ニワトリ、モルモット担当の甲乙さん、オールマイティーな佐藤さん。この四人が夜勤で入っていることが分かった。

 佐藤さんは今日明日は近隣の動物園、水族館、植物園などが集まる大きなミーティングに行かなければならないとかで早々に席を後にした。

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