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『大丈夫。頭の中の考えだけだから見えるの』
と、すかさず付け加えてくれたので一安心だけど、人間何も考えない時間ってできるのだろうか。
夢を見ずに眠っているその時間だけしか無心って時がないような気がするんだけど。
「ま、とりあえず入ったら。そんなとこにいないでさ。何もしないし。コーヒーくらいは出すよ」
鉄の扉を足で抑えて警戒している私に声をかけ、「にゃあ」とまたあの子猫が不思議そうに足元にやってきて一周し、一度私を見て部屋の中へ入っていった。
先の方では母猫が相変わらず警戒した様子で私を細く見つめているが尻尾は楽しがるようにパタパタと床を叩いている。
ちらっと後ろを向いて帰るか中に入るか考えた。
とりあえずここまで来たからには入ってみる価値はあるだろう。それにマスターの友達なんだったら何かあるはずがないだろう。
それに、ナニモシナイって言ったし。
どうせなにも無くなるものはない。
そもそも全てを無くしてしまったんだから、今さら惜しいものもない。
なんだかむなしくなってきた気持ちを圧し殺し、意を決し、ばたんとドアを閉じて子猫の後を追って中へと進んで行った。
部屋の中は一言、広い。
天井は高く空気もいい。ほんのりいいミントの香りも漂っていて、地下空間なのになぜか心地よかった。
20畳くらいあるだろう空間が目の前に広がっていて、中央には丸いダークブラウンの木でできたテーブルが置かれている。その上には数匹の猫が丸くなっていた。
テーブルには椅子が二脚だけ置かれていて、部屋の回りは真っ白いカーテンだか布だかでぐるりと囲われている。
壁には猫の絵がいくつも掲げられていて、一目で猫好きなんだなっていうのが読み取れた。それにしても、なんていうかこう不細工な猫の絵しかないような気がする。
「とりあえずそこ座ってて。コテツがいたら無理だけど」
「こたつ?」
椅子を引くと、微かに重い。
ヴニャアアア……
と、不細工に鳴いた白い猫、
「あ、ダメだね先約ありだ。じゃ、その向かいのに座ってて」
顎でしゃくられた椅子をおそるおそる引くと、よかった、誰もいない。
「コタツって名前なんですか? なんか、その、あれですね」
「あれ、耳も悪い? コタツじゃなくて、コテツね」
「ちょっと、耳もってなんですか。今、耳もって言いませんでした?」
うっすらバカにされた気がするのは気のせいだろうか。できればそうと思いたい。
「あれ、おかしいなこれ。なんだ。え、なに、どうやんの?」
奥の方から声がして、とりあえず困っている風なガチャ音が聞こえてくる。
「ちょっと、占い師さん、何やってるんですか」
「来て」
「来て?」
「はやく!」
「え、なに、何してるんですか」