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 小さな顔全部に笑みを讃えているこの白子という女性は『私の彼の下で働いているんでしょっ』と言った。いわずもがな出雲大社の女ということだ。


 まさかの占い師に女の影。ってか実物。しかも家で一緒に暮らしているのか、知らないうちに目の前に立っている。


 あの占い師は確かに容姿はいい、ついでに顔もいい、が、性格は悪い。でもこの女性と並んだところを思い描くと、釣り合いが取れる。美男美女だ。心なしかがっかりする私に自分でも驚いた。


「で、今日も一人来客があるわよ。今日は私とあなたで対応するから、そのつもりでねん」髪を手の甲で跳ね上げて仕事場へ向かうその後ろ姿、ぷりっぷりのお尻が左右に揺れていた。


 初めて会う人にそんなことを言われてもこっちも混乱する。だって、見ず知らずの女の人だ。彼女は状況を飲み込んでいるようだが私は丸っと分からない。しかし、


「あの、出雲さん今日は休みなんですか?」聞きたいことはたくさんあるけどひとまずこれだ。

「そうよ」一言冷たい言い方で放つ。

「ど、どうしたんですかね、昨日のことが尾をひいてるとか? やっぱり具合悪いんですかね」

「あなたは知らなくていいことよ」

 一蹴。

 丸い円卓を綺麗な指でまーるく擦りながら私を睨んで言ったことばにはやはり気のせいじゃない、トゲがあった。


「もうすぐ来ると思うから、あなたはコーヒーの用意でもしてね。あ、あたしにはミルクで」


 白子さんは円卓の回りをくるくる回り、壁の方へ行き、壁に手をつけながら部屋を一周回っている。そのあと台所へ戻ってきてじっと冷蔵庫のことを眺めていた。かと思えば奥の部屋の前まで行って、おもむろにしゃがみこんで猫通路を睨んでいる。私の視線に気づいたのかはっと顔を上げ、目を細めて可愛らしく笑むと、


「早く掃除してね」


 と命令し、仕事場へと歩いて行った。なんとも訳の分からない人だ。しかし、このくらい変わっていないとあのへんてこ占い師とはやっていけないのかもしれないと思うと、やや思いの外ため息をつきたくなってきた。


 言われなくても私の仕事はちゃんとやる。猫のごはんをあげるところから始まりトイレ掃除もする。

 ここには猫が三匹いる。その為トイレも三つある。一つ一つちゃんと確認して、体調の把握だってするようにしている。それだって仕事のうちだ。


 私の仕事は今のところ猫トイレ係とごはん係だ。一番最後に占い師のごはんも作る。これだって、し、仕事のうちだ。


 掃除は嫌いじゃない。目の前が綺麗になっていけば心も綺麗になっていくように思う。


 占い師のことは心配だけど、部屋に入るわけにはいかない。でも、彼女が近くにいるんだからなんかあったらすぐに駆けつけられる。と思うと少しは安心する。そんなことを考えていると、入り口が少しだけ開かれ、外の空気が部屋の中へと流れてきた。


 階段を降りてくる途中に咲いている草花の香りに混じり、少しだけ獣臭も一緒に漂ってきた。


 既に仕事場にいた白子さんは両足を踏ん張って右手の甲で口と鼻を器用に隠し、左手は不自然に曲がり、鋭い爪をしゃきーんと伸ばしていた。


「あのう、すみません。ここがあのお告げカフェでしょうか」


 か細い声を後ろに受けながらコテツが入り口から中に入ってきた。今回はコテツが呼び寄せたってことか。


「そうですそうです、ここですよ。さ、どうぞお入りください」


 私はいつまでもフリーズしている白子さんを無視して入り口の扉を開き、外に立ってもじもじしている人を中に招き入れた。


「事務の朝倉です。今先生を……」


 言いかけて止まった。今日はお休みだとさっき白子さんが言っていたことを思い出した。ということは白子さんが代理で表に立つということだ。


 横目に白子さんを盗み見すると、いまだ同じ姿勢で固まっている。

 ので、咳払いをひとつ、


「白子さん、お願いします」


 大きめのボリュームで声をかけた。


「え、あ、はい。はいはいはいはい、はいどうぞ」


 思い出したように跳び跳ね、さっさと円卓に腰を下ろした。


「座って」偉そうに客人に座れと命じていた。


 「あの、その、これ、つまらないものですが」


 おずおずと差し出してきた紙袋の中には四角い箱。睨むように見ているだけで受け取らない白子さんに、どうしたらいいものかと視線を私と白子さんに泳がせている。


「お気遣いいただきまして恐縮です。それでは遠慮なくいただきます」


 私は粛々と紙袋を頂き、頭を下げて一度台所へ引き返す。台所に袋を置いて中身を確認したら、『にこにこ動物園クッキー』と書かれていた。となると、あの男の人は動物園からやってきたってわけだ。自分のところのクッキーを持ってくるなんて、本当に自分の職場が好きなんだろうと伺える。そう思って後ろの成分表のところを何気なしに見たらなんてことない、超有名フランス菓子屋の名前が書いてあった。名前こそ聞いたことあれど高いお店なのでド庶民な私には到底手が出せない代物だった。


 ストックのコーヒーを確認した。

 ホットチョコレートがあるが、ここはラテだろう。

 白子さんにはミルク、客人と私はラテで決まりだ。そう決まったら早い。喉を湿らせながらやかんを火にかけた。


「あのう、あなたがお告げカッフェのオーナーさんの紹介の方なんでしょうか」相変わらずおずおずする客人は目の前で腕組をしながら足を組み、太ももをにゅっと出している白子さんを見ないようにして呟いた。

「カッフェって何よ。カフェよ」

「すみません、カカカカカフェの……」

「今日はオーナーはいないわよ。そもそもオーナーって誰。あんたにはあたしが相手だってことよ」ふふんと鼻を鳴らし得意げに顎を上げた白子さんは強気そのものだ。

「ええと、それではその、早速なのですがお願いしてもよろしいのでしょうか」

「ええ、いいわよ」どこまでも上から目線だ。そんなやり取りを聞いていてはらはらとしてしまう私は早くお湯湧け! とやかんを睨んだ。


 そしてまたあの二人は無言になっている。


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