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「高宮君だと思っていた人は実は本野裕子っていう人だった。成りすましていたんだねえ。いやまいった。さすがの僕もそこまでは見破れなかったなあ。あはは。本野裕子は最後に殺した藤巻君の死体にむさぼりついている時にあの男に後ろから殺された。で、本人も知らないうちに殺されたから、自分で死んだってことに気付かないでいたわけだ。それで、自分では死体を隠した覚えがないのに気づいたら忽然と死体が無くなっていた。不思議と思って調べても答えにはたどり着けない。自分が死んでるからね。そこで、生前に僕のことを聞き当てていたんだろう。強い意思と発見されるという恐怖を抱えた霊体はいろいろな力が加わり幻の体を得た。元は霊体なんだから黒猫が見えるのも当たり前だよね。探し出すのは簡単だった。きっと高宮君には僕が普通には映らなかったと思う」
「どういうことですか」
「話の腰を折らないで最後まで聞きたまえ」
「……すみません」
「で、死体はどこかにダレカが隠してたとしても、電話が見つかれば自分がやったことがばれてしまう。だってそうだろ、嘘の写真を見せて好きな人の相談をしたいってメールを送ってるんだ。それに彼女の嫌がらせメールだってばれてしまう。最後のメールがそれだろうからね。疑われるのは自分になる。電話さえなくなればあとはどうにでもなる。あらかたこんな薄っぺらい考えだからきっと僕らのことも殺す気だったんだろう。そうしたら死体が見つかっても自分が捕まることは無い。そう考えたんだろう。しかし、当の自分がおかしいことにも気づき始めていた。そして僕に会ったときにそれは確実なものになったはずだ。だから、自分が死んだ高宮だと名乗れば僕たちが死体のありかを探し出してみつけてくれると考えた。でも、最終的に自分が死んだことに気付いたんだ。それでも信じたくなくてこんなバカみたいなことをしでかしたんだろう」
「……」
「え。今のところは『どうしてですか』って聞くところじゃないのかい?」
「……ぇぇぇぇぇえええ、だって話を遮るなって言ったの出雲さんじゃないですか」
「君はほんとあれだね。今のはわざと僕が間を空けてあげたんんじゃないか」
「そんなの分かりませんよ。で、なんでですか」
投げやりに聞いてみた。
「それはね、僕が過去に本野裕子の自宅へ行ったことがあるからだよ。本野裕子が僕らを案内した家があったでしょう? あそこ、本野裕子の家だったんだよ」
「えー。だって高宮さんの家って言ってましたよね。てか依頼されたことがあるなら名前が違うって分かったはずですよね」
「君ね、この僕が赤の他人の名前をいちいち覚えるとでも思っているのかい? 忘れていたよすっかりね」
そんなこと自身満々に言われましても困るってっもので、仕事の依頼を受けた人の名前なんていちいち覚えてられないし、覚える必要なんてないでしょ? と、自分の考えは間違っていません的に胸張って言われたら、
「……そ、そうですね」
としか言えなくなる。
「で、最後には僕らをも始末しようと企んでいたんだというところにすごく僕は腹が立っている」
「そこですか。もういいじゃないですか。それにその後は怖くてもうその先は聞きたくありません」
「で、最後の霊力を振り絞ってあの高校生二人は証拠の電話を袋に入れて木の上にあげたんだ。あっぱれだね」
「ありえないことがおこるものなんですね」
「ふふん。だからおもしろいんじゃないか」
「まあ、君はともかく彼女に殺されるような僕じゃないけどね」
「じゃあ、本野裕子さんの親御さんはなんで自宅を引き払ったんでしょうか」
「簡単。彼女の内に秘めていた変質的なものを知っていたんだろう。子供のころから奇行があったそうだから。だから彼女が行方不明になった瞬間、彼女はもうこの世にはいないと悟った。そんな感じだったよあの家をまとめた時。だから家に結界を張って、中に入って来られないようにしてほしいと言ったんだろうね。入って来れなければ彼女の性格上入れるまでここに居続けるのを知っている。で、新しく越した自分たちのところには来ないだろうと、そこまで思っていたんじゃないかな」
「なんだか切ない話ですね」
「ほらまた自分の物差しで見てる。そう思うのは君が彼女を憐れんでいるからだよ。でもその彼女はそんなこと思われるのも心外だって思ってるかもしれない。殺すのが趣味だった人なんだから」
「……最後に一ついいですか」
「はい」
「なぜ本野裕子さんは自分を高宮だって言ったんでしょうか。本野ですって言ってもよかったのでは?」
出雲さんはこれでもかってほど口をあんぐりと開けてバカ顔をこいていた。
「バカもここまでくると清々しいよ。いいかい、バカな君のために言うとね、本野裕子は自分が死んだとは思ってなかった。だから高宮君とその彼氏の隠し場所へ行きたかったわけ。よく言うでしょ、犯人は現場に帰りたがるって。最後に話した時のノイズっていうのは彼女の幻聴だよ。死んでしまったら自分がノイズになるんだから。だから、自分が殺した高宮を名乗ればおのずと僕がその彼氏の居場所を突き止めると思ったわけ。なぜか。僕は高宮君の彼氏を知らないし事件のことも知らない。ただの行方不明者を探すってことになるだけだから。それに、彼女は自分の電話と高宮君の電話、ついでにそこにあるであろう藤巻君の電話をも処分しようとしていたはずだ。証拠隠滅を急いだんだ。なぜ最初に彼女があんなに急いでいたかというと、夏だろう? 腐敗臭が辺りに届くのも早いと考えたからだ。彼女を初めて見た時に彼女から発信された信号をキャッチした。『私は今は高宮だけど、これが終わったらお前らも殺す』っていうね。だからそれに便乗して高宮君だと言い続けてあげたわけ」
「騙されたふりをしていたんですか? なんで」
「その足りない頭でよく考えてくれたまえ」




