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15

☆彡


「おい。まじかよこれ。本気かよ」


 男の声にびくりとし、身構えた。その声は出雲さんのものじゃなかった。


 腐った高宮さんと藤巻春の後ろに見知らぬ男が立ち竦んでいた。

 紺色の作業着に何年も被り続けているであろう帽子は赤く薄汚れていた。靴は黒ずんでいて何年もはき込んでいるのがすぐに分かる。


「って、何これ、幽霊か? まじかよすげえな。俺こんなもん見れる力あったのかよ。まじか。てことは姉ちゃんも幽霊か?」


 にたりと笑った歯はまっ黄色で、風呂に入っていないであろうことがうかがえる顔には無精髭が生えっぱなしで気持ちが悪い。


「ああ、この二人には見覚えがあんな。へへ、死んだあとってのはこんなんになっちまうんだなあ。むごいなあ」


 じゃりと髭をさするその男は不気味な目の輝きをしていた。何人か殺めたことのありそうな雰囲気だ。

 片っぽの手はズボンのポケットに突っ込んだまま、もう片っぽの手で執拗に髭を撫で続ける。


「で。俺が殺したあの女はどこにいるんだ?」


 面白いモノでも見るかのように辺りをきょろきょろする。

 この男は自分で「殺した」と自白した。誰かは分からないがこの男は誰かを殺してきていることを自分で証明した。でも、高宮さんと藤巻さんではない。


「ここにはこの二人しかいませんよ。あなた、人を殺したですか? なんでここにいるんですか?」

「姉ちゃん、なんでそんな普通の顔してられんだ? まああいいか。姉ちゃんが森に入ってったのが見えたんだよ。俺が殺した女、ここに埋めてるからよ、掘り起こされたらばれるだろう? だからこうして定期的に見回りにきてんだよ。どっかのバカが入り込んできてまかり間違って見つけて見ろ、えらいなことになる。で、姉ちゃんを見つけた。で着いてきたらこのざまだ。幽霊が見えるなんて不思議なもんだな。でもよ、こいつらを殺した女はどこだよ」


「もしかして、本野裕子を殺したのはあなたなんですか?」

「あ? この二人を殺したあの姉ちゃんそういう名前か? 初めて知ったなあ。この兄ちゃんのことを殺して血を飲んでるサイコ野郎が目の前にいたら迷わず殺すだろう? だろう? だから後ろからめった刺しにしてやった。そのあとヤッた。さすがに高校生はいいな。興奮したぜ。へへ。で、何回も何回も何回もヤッたあとで、体が冷たく固くなってきたからよお、最後に思い残すことなくヤリまくって、この二人の隣に埋めてやったんだよ。姉ちゃん掘り帰してただろう? 三体埋まってただろうが」


 こいつ、危ない。と気づいたのは少し遅かったか。なんでこんなことを自分からべらべらしゃべりまくるのかなんて言わずとも分かる。

 

 私を殺す気だからだ。


 死人に口なし。私も本野裕子と同じ目にあわされるんだ。

 死んでからやられる。この気持ち悪い男のおもちゃにされる。

 考えただけで吐きそう。


「なんだよ。あの姉ちゃんが出てきてくれりゃあよ、あの時どんな気持ちだったか聞けたのに。気持ちよかったかってな」

「最低!」


 怒鳴っていた。


「まあ、そんな顔すんなや。お前も同じように可愛がってやるから」


 舌舐めずりし、おもむろにポケットから手を出せば、そこに握られているのはサバイバルナイフ。


「俺は血を飲む趣味はねえ。安心しな」


 全身、頭のてっぺん、髪の毛のさきまで悪寒が走った。


 ダメだ。逃げるしかない。じゃないとこいつに殺される。今度は私が走る番だ。


「お、逃げるか? 追っかけっこするか? いいぜ。そのかわり捕まったらおとなしくしてろよ。いいいな」

「あんたになんか捕まらない!」

「そうかよ。いいけどあの姉ちゃんの死体はどこにあんだよ。なんであの姉ちゃんだけ出てこねえんだ」

「そんなの知らない!」


 高宮さん……もとい、本野さんはすでにこの男によって殺されていて、死体は高宮さんと藤巻さんと一緒に埋めたと言っている。どこに眠っているんだろう。あれから一切の気配を感じない。


 この男のにたら笑む顔に思い切り爪を立ててやりたい衝動に駆られるがここはひとまず逃げることが優先だ。自分の命を守ることが先決だ。


 足に力をこめ、走り出そうとしたところで、


「はい、そこまでだよ」


 出雲さんの声が辺りに響く。


「ほかにも誰かいたのか。クソ」男は唾を吐き、くすんだ目を最大限に開き辺りを確認した。


「出雲さん!」


 助かった。出雲さんがいたの忘れてた。そうだ、私の後ろには出雲さんがいる。


 柔らかな風が抜けた。

 目の前の木々が左右に抜け、その真ん中には腕組みをした出雲さんが立っている。出雲さんを中心に左右に制服を着た警官がたくさんいた。赤灯を回したパトカーが数台、無線で話しているのが目に入った時、後ろでがさっと音がした。


 いつの間にか警察官に囲まれていた私とこの気味の悪い男、いつから囲まれていたのかは知れないけれど、とにもかくにも私は安堵した。反対に男は逃げ道がないかと辺りに目を走らせていた。


「発見しました! 三体あります!」


 少し離れたところの土の中に埋まっている死体を発見した警官の一人が声を上げた。


 高宮さん、藤巻春、本野裕子。


 三体は彼らの事だろう。


「朝倉君、よく頑張ったね」

「……」じっと睨む。頑張ったねじゃないよ。

「顔顔。悪い顔なんだから嘘でも笑わないと」

「出雲さん、なんで一緒に来てくれなかったんですか」

「何言ってるの。今こうやって入って来て一緒にいるじゃないか」

「今じゃなくてさっきです」

「ああ……それはさー、」


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