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 無我夢中で声のする方へ走った。後ろからは黒い渦巻きが追っかけてくる。振り向かずに走った。

 もんくのひとつも言ってないとおかしくなりそうで、


「くっそー、これもみんなあの占い師がいけないんだ! うー……会ったらボッコボッコにしてやるからっ、くっそー! 怖いよー、やだよー、やだよー、ここから出たいよー。助けてよー、うーーーーー」


 全速力、陸上選手顔負けのフォームで白もやを追った。心なしか薄れてきているようにも見えて、でも今の私にはそれしか頼れそうなものはないから、兎に角、走って追った。


「出雲さーーーーーん!!!」


 たーすーけーてー!!! 怖いよー!!!


 後ろからは魑魅魍魎、悪霊とおもしき塊の怒号が聞こえて背中一面に鳥肌が立つ。

 目の前の靄は薄れてくるし、耳障りな不気味な声が聞こえてきてるし、もう無理だ、なんとかしてー!!!


 その頃、出雲さんはというと、呑気に切り株に腰掛け黒猫の喉をごろごろ鳴らして遊んでいた。

 私が森の中を死にそうな思いをしているのなんて知らぬ存ぜぬかのように、縁側に座って温もるおじいちゃんよろしく西日傾く太陽の残り陽を体全面に受けて、遠慮なく黄昏ていた。


「僕たちはこの森には入れないんだよ。残念だけどアレが見つけてくるのを待ってるしかないねえ」


 などと話していることなんて、私の耳には入らなかった。入る余地すらない。


「そしてやっと見つけたみたいだね。じゃいいか、はい、いいよ、戻っておいで」


 ぱちんと指を鳴らすと同時に怒号がぴたりとおさまり辺り一面におだやかな風が吹き抜けた。

 私の回りの空気も変わり、白い靄は瞬きをした一瞬ののちに消え去り、さきほどと変わらぬ緑の森の中をさ迷っている私がいた。いや、目の前、真ん前に占い師の姿が小さく見える。


「あ」


 来い来いと手招きしている占い師の顔を見たらホッとして、半泣きで駆け出していた。


「おやおや、生意気でどうしようもない子でもそんな顔を見ると可愛く見えますねえ」


 などとほざきながらのんびり立ち上がり両手を広げる占い師の腕の中に……


「入るわけないじゃん、この、へっぽこ占い師がー!!!」


 体ごと体当たりしようと思って突進した結果、ブルペン並みに操られる形となった。私を華麗に避けた占い師は涼しい顔をしていて、さっきまで占い師が座っていた切り株に私は顔からダイブした。しばらくもう動きたくなかった。


 うう……こんな扱いやだ。


「ご苦労様。君、すごい活躍だったよ。良かった。やっぱり僕の思った通りだね。ほらちょっと待って」


 ぺりっと背中に何かを感じ、顔だけ振り向けば、


「わはははははははは」


 笑われた。


「なんで笑うんですか!」

「顔だけでこっち見ない方がいいよ。ほっぺの肉がうにゃってるから」


 顔の肉がうにゃって二重顎になっていると言いたいらしい。こ憎たらしい。ほんと、こ憎たらしい。女の子にそんなこと言うなんて信じられない。今までの人生でこんな扱いされたの初めてだ。


「これ、役にたってよかった」

「なんですかそれ」顔を手で拭きながら起き上がり、切り株に座り直した。

 占い師の手には長方形の紙がひらひらと揺れている。

「ふだ」

「札?」

「魔除けとでも思ってればいいよ」

「いつのまに」

「ふふん」


 あのときだ。感傷に浸るようなことを言った後だ。そのあと背中を押されて前を歩かされた。今までだったらずっと後ろだったのに、あの時はなぜか先を歩かされた。その時に貼られたんだ。


「一応、僕の所で働いてるんだからね、守るよ」

『守るよ』

 ドキッとしたけど、すぐに回収した。だって、これだって仕事の一環だろうから。

「でもね、そのおかげで謎は解けたよ。それに君がどのくらい役にたつのかもわかった」

「私はぜんっぜん説けてませんが。そして試したんですか? ひどい!」

「大丈夫。僕が分かってるから」

「……」

「帰ろうか。お腹すいちゃったよ。どこかでなんか食べて帰ろう」

「何言ってるんですか? まだ解決してないじゃないですか。私白靄の中で足掴まれたし。それって何か意味があるんじゃないんですか」

「そうだよ。この森の中、一体だけじゃない。数体埋まってる。君のおかげでそれが視えた。だからめんどくさくならないうちに撤収しよう。今はそれだけでいい」

「数体って」息を飲んだ。涼しい顔して言うことじゃない。

「あとは本人が一緒じゃないと解決しない。他にも準備しないといけないことがあるし。さ、食事に行こう。僕一人じゃ寂しいじゃないか。付き合いたまえ」

「よくこんな時にごはんが食べられますね」

「君もこんなことくらいで食欲無くしてたらもたないよ。早く慣れておくといい。さ、これも仕事の一環だから」

「はぁ」

「ため息つくとひとつバカになるよ」

「幸せが逃げるの間違いじゃ?」

「じゃ、行こうか」


 この人は自分が言ったことは絶対だから諦めるしかない。これも仕事の一環だ。そう思い込むほかない。


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