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「切なくなる意味が分からないよね。だってそうだろ、君がそう思うってことはさ、つまり人間が主としてこの世に生きていると勘違いしているからだ。霊のほうが都合がいいことだってたくさんあるよ。それに、少なくとも向こうにそうなる気持ちはないよ。認めてるからね、人間と自分達の違い」
なんだか異次元なことを言っている出雲さんが少しだけ格好よく映ってドキリとしたけど、同時にどこまで霊のことを知ってるんだろうって思ったり。占い師ってそんなことも分かっちゃうものなのかな。
「出雲さんは霊がいつから見えるように……その、感じるようになったんですか? 怖くないんですか?」
そういえば出雲さんのことって何も知らない。あの怪しげな穴蔵で猫と一緒にお告げカフェをやってることと、ムカつく性格ってことくらいしか知らない。
「そんなこと聞いてどうすんの? 知りたいなら答えるけど、子供のころはよく一緒に遊んだよ。かくれんぼしたり、追いかけっこしたり、だけどそれが普通じゃなくて、みんなには見えてないってのが分かってから考え方変えた」
「そうなんですか」
「君もそうでしょ。本当は見えていたけど、見えていないフリをしていた。だから、もういいんじゃない? 君は今は僕のところで働いている。そこはいろいろな悩みを持ったものが来たい場所だけど、タイミングがうまく合わなければ見つけられない場所でもある。そこで働くためには特殊能力が必要だと言ったよね。君にはこれが見える」
足元にいる影を指して、
「それで充分だよ。それしかできないでしょ」
「優しいんですね(意外と)」
「意外ととは失敬な。それにしてもクソ世話の焼けるやつだね。めんどくさいにもほどがある。君の力が僕の金になるから雇ってるだけだよ。まったく君は素直なのはいいことだけど、いつか使われて終わるよ」
「出雲さんにですか!」
「そんなもの価値が無くなれば捨てますよ」
「ひどいー」
「ほら、早く行って」
ぐいっと引っ張られ背中をドンと押された。
「今見えている黒猫を追って」
「……なんで私が先なんですか?」
「なぜ僕が先に行かなければならないんだい? 早く行って」
分かったこともある。
出雲さんには霊が見えている。そしてそれは見えているなんてもんのレベルじゃない。
まだまだ知らないことだらけだけど。
後ろにいる出雲さんは私のオーラの色を確かめるように目の色をサメのように真っ白に変えてぶつぶつと何かを唱えていることなんて、前を歩いている私には全くもって知る由もなかった。
そして、全く違う次元の問題を見越していた。
☆ミ
消えた。
突如として猫が消えた。
今の今まで目の前を歩いていた猫の影が眼前において煙のようにしゅっと消えてしまった。
気づけばここは森の中で、道は続けど人は通らない。そんな中にいるのは占い師と私だけ。これからどうすればいいのか。更には辺り一面薄暗くてすこぶる気味が悪いし何より怖い。
どこを見回しても猫の影がない。
ちゅちゅちゅちゅちゅ……と猫を呼ぶように口を鳴らしてみても、来るはずがない。
「猫消えたの?」
「はい、さっきまでいたんですけど、しゅって消えてしまいました。あれ、どこ行ったんだろう」
「あっそ」
占い師はそのまま私を追い越して道を歩く。まるで行くべき場所を知っているかのように。
「猫の影が消えたってことは、ここがその目的地だってことだよ」
「目的地ですか? ここがですか? なんにもないんですけど。あの猫ってもしかしてただのナビ猫なんじゃ……(そうにちがいない、霊なんかじゃなくて、最新のナビシステムだと信じたい)」
「あの猫の仕事はここまで俺たちを案内すること。あとは俺らの仕事。さ、探すよ」
「は?! 探すって何をですか」
まさかの宝探しとかだったらうきうきだけど、どうやらそうとは思えない。
子供の頃に学校でやったオリエンテーリングかとか思いたいけど、そんなものをこの占い師がするようには見えなかった。
しかもこんな山奥。嫌な予感しかしない。
「その予感、大々的に的中だよ。よかったねー。賞品はないけどさ」
「いりません。それに……うわー、うわー、うわー、ほんとにほんとにいらない情報をありがとうございました。それ以上何も言わないでください、怖いんで。ほんと無理なんで。まじでいやなんで」
「ははは。何をそんなむきになることがあるの。早く探さないとどんどんあれだよね、この暑さの中放置されてたらさあ……わかるよね?」
「分かります。だからやめてくださいそれ以上言わないでください」
全力で手を振ってそれ以上先を言うなとアピってみた。だってそんなさ、肉が炎天下の元その辺にさらされていたらもう……
先は考えたくない。
占い師曰く、時間が経てば経つほど悪い結果に繋がることになるそうだ。
できるだけ早く見つけ出さなければならないと付け加え、
「君は左の方を見てくれる」
と、左側の森の中を指差した。
そこを見れば深々と繁りに繁りまくった深緑色の木々がこんにちはと言わんばかりにわさわさと音を立てていて、最大限に努力してみても、入りたくなかった。
「僕はこっちを」
占い師は森の中ではなく道の脇に重なるように置かれている何かの機材や棄てられたゴミのようなもののところへ歩いていくところだった。
「ちょっと待ってください」
「君と意見交換をしている暇はない。それに君の意見なんざ屁の役にもたたないから、却下」
「そうじゃなくて、なんで私が森の中なんですか」
普通、女の子にこんな森の中へ入れなんて言えないと思う。
「君はほら、田舎育ちだから体力、腕力、脚力に視力、聴力には自信があるだろ? 丁度いいじゃないか」
「まったく丁度よくないと思うんですけど! 山ヒルだっているかもしれないし、もしかしたら熊だっているかもしれないじゃないですか!」
「まあ、仕方ないよね」
……クソ占い師め。涼しい顔して怖いこと言ってる。




