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路地裏の黒猫が目印です。
と言われても、黒猫なんてごまんといる。
新宿駅からほど近い路地の裏の裏、の裏辺りに地下に入っていける小道があるという噂を聞いたのはいつものバーでダラダラとニート生活を満喫しているさなかだった。
カウンターでだらしなくテーブルに顔をつけていると、その後ろで話している女子力高めの二人組が話している内容にアンテナが立った。
『新宿にめちゃくちゃ当たる占い師がいるんだって』
『しかもしかも、見ただけでなんか分かっちゃって、こっちが何も言わないのにずばずば言ってくれるらしいよ』
『でも、そこって見つけられるかどうかはその人次第だとか』
『なんでも、その占い師に出会うべく人だけが探し当てられる場所って話だし』
『時間はいつでもいいんだって。そこでばったり黒猫に会ったら着いていく。そうするとその占い師の元にたどり着けるって話だよ』
といったことを盗み聞きしてメモり、翌日こうしてわざわざ新宿くんだりまで足を延ばしたわけである。
午前11時。混んでもいなく空いてもいない。微妙な時間。
無職ぷー太郎な私はこんな時間にも関わらず出歩くことができる。
朝は気の向くままに起きて、ぼけっとし、昼は朝の延長でテレビを垂れ見して、夕方食材の買い出しに出、夜は昼からの延長のテレビをダレ見してぼけっとする。
こんな生活、5日で飽きた。
仕事をしている時はこういう生活に憧れていたけれど、何もすることがないってのはほとほと地獄だった。
これまでの自分にサヨナラして、新たな道を進みたい。
そんな考えが出てき始めたころに聞いたあの話。
とりあえず誰かに背中を押してほしい。なんでもいいからアドバイスを聞きたい。
黒ネコ黒ネコ黒ネコ……
ねこねこねこちゅちゅちゅちゅちゅ……
と声がけしてみても路地裏を通過中の三毛さんにめんどくさそうに睨まれたり、バイクの上で日向ぼっこしているサバトラさんに無視されたり、なかなか黒猫には出会えない。
まだその時期じゃないんだろうか。その占い師に出会うタイミングじゃないんだろうか。
だとしたらどういうタイミングがいいタイミングなんだろう。いやいやまだ10分も経ってない。もうひとつ先の路地も確認してみようと歩き出した先で、
足元に「にゃあ」とすり寄られた。
目を落とすとそこには白と黒のぶち模様の子猫。しゃがんで喉を撫でてやるとごろごろと鳴らしてころんと地面に寝っ転がった。
「かわいい。癒されるわあ。モフモフさいこーの癒し」
お腹をモシャってるとすぐそこに気配を感じ、視線をやれば手の届かない距離でこっちを無表情で凝視している母猫とおもしき猫と目があった。
「だいじょぶだよ、おいで。ママさんかな?」
手を差出しおいでと呼ぶ。
警戒心が強いのかなかなか来ない。その間にも子猫はなつき始め手を甘噛みしてきているし、抱っこしろとせがんでくる。
母猫はやはり子猫が心配なのか、警戒心は外さずに戦闘態勢で寄ってきたけれど、子猫が安心しきっているのを確認するとその警戒心を外してくれた。