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「なるほど。詳しい説明、ありがとう」


 紳士ぶって頭を下げた占い師をうら細い目で軽蔑しておいた。

 そんなことはさておきといった体で、


「それで君はその彼氏を探しだしたいわけだよね」

「あの、そうです。探して欲しいんです」


 高校生はなにかを考えるように斜め上を見ていた。


「……そう。ねえ、僕に依頼するってことはさ、丸裸にされるってことなんだけど」

「まるっ」


 赤くなって小さくまとまる高校生に、


「あ、違うんですよ、先生の仰ってる意味はそういったものではなく、心の中を見抜かれるってことなんです」


 熱めのモカとアイスコーヒーをテーブルに置き、ささっと付け加えた。


「ああ、そういうことですか。よかった、びっくりしました。それでしたらもうはい、大丈夫です」


 瞬きが多くなり明らかに動揺していた。

 胸に手をやりホッとする高校生をじっと無言で凝視する占い師の口が分からない程度に動いていて、それはまるで誰かと話をしているようにも見えた。

 どういうことなんだろう。

 今占い師は確実に誰かとコンタクトを取っているようにしか見えない。

 ここにいない誰かとなにかを話している。時おり首を横に小さく振ったり眉間にシワを寄せたり、怪しさこの上ない。

 横目に観察していると、占い師がするりと視線を高校生の背中越しに送ったのを見逃さなかった私は咄嗟にそっちを向いた。

 もしかしたら、なんか見えるかもしれないって思ったから。

 しかしそこには何もなくて、ただ相変わらずの白いカーテンがかかっているだけだ。

 占い師の方へ視線を戻すと、我関せずとばかりにコーヒーカップを両手で持ち、熱めのモカを伏し目にこくりと飲んでいるところだった。

 その無駄に長めの睫毛がすこぶるムカつく。そして、睫毛のくせにキューティクルがありそうなそのつやっつやで調子のよさそうなところも、腹立つ。

 さらにまたも、煙に巻かれた気がする。


「で、彼は今どこにいるかってことなんだけどね」

「はい。どんな些細なことでも構いませんからお願いします。教えてください」

「……」


 また在らぬ方向に視線を定めて無言になる占い師。それをじっと見つめている彼女は……なんとも言い様のないほど真剣な眼差しだった。

 一瞬たりとも占い師から目を離さないその姿勢は本当に大好きな彼氏なんだろうなって思ったし、そういう気持ちになれる彼女か少し羨ましかった。


 私はつい最近、最大級の愛を失ったばかりだったから。

 なんて悲観的になってらんない現実がある。過去は過去として認識しないとおかしなことになる。昔のことはさっさとさよならして、前に進むしかないことも分かってる。それに私には十代の子のように時間がたっくさん有り余っているわけでもない。実際人生の三分の一は使い切っているわけだし。


「うん、無理だね。見つけるの無理かな」


 心の傷を引っ張り出して乙女的に感傷していた私の耳の奥に、占い師の冷たい一言が遠慮なしに入り込んできた。


「君の彼氏を見つけることはできないよ」

「なんでですか! だってそんなはずない。あなたはあなたに会いたいと強く願う人にしか会えない人なんじゃないんですか!」

「そうだよ」

「解決できないことなんてないんじゃないですか? そう聞いてました!」

「えっ、誰に?」

「違うんですか?」

「違うね」

「どういうことですか」

「僕は全能の神じゃないんだよ。まあ、それに近いってことは認めるけど。でもできないことだってあるさ」


 占い師に食って掛かるその姿はなんとなく普通じゃないというか、言い表せないほど変な感じだった。


 間で板挟みになった私はきょろきょろとしながらどっちにつくべきか、いや、この場合、私は占い師側の人間なんでこっちにつくべきなんだけど、彼女の気持ち側に立てば、そこは私も経験者だから彼女の気持ちもわかるわけで。しかしながら今のところ私の本心では占い師寄りってことも疑いがなかったりもする。


「てわけなんで、もういいよね、じゃ、帰ってくれる?」

「「は?!」」


 私と高校生の声がシンクロ。まだなんの解決にも至っていないこの問題を、あっけらかーんと弾き飛ばしたわけだ。意味が分からない。



「あの子はね、嘘をついてるよ」


 とは占い師のことば。

 あのあと占い師はひとこと足りともことばを発せずさっさと女子高生を追い出してしまった。


「いや、百歩譲ってそうだったとしてもせっかくここまで来たんですよ、いなくなった彼氏を探しに来たんですからなんとかしてあげましょうよ。だっ……」


 そこまで言いかけたとき、視界の隅を黒い影がふわりと抜けて視線をやれば、そこにはなにもいない。気を取り直して、


「だって、いなくなった彼氏の居場所わかるんですよね?」

「そうだね」

「だったら教えてあげるくらいは」

「彼女はそれを望んでないよ」

「なんでそうなるんですか。彼女、探してほしいって言ってましたよね。切羽詰まってるようにしか見えませんでしたけど」

「うん、君ってほんとにうるさいから教えとくよ。まずね、人が言ったことを百パーセントで受け止めないこと。人の目を見ていればそれがどういう意味で言っているのか容易にわかるはずだよ。それで、僕がなぜそう思ったかなんて簡単なこと」


 と占い師は言葉を跳ねさせるように、簡単に軽やかに話始めた。


「簡単なことなんだよ。

僕が質問したときに、彼女は斜め上、右上を見ていた。つまりそれって、今までにあり得ない状況を作り出しているってことだ。

嘘をつくはひとは一概には言えないが斜め右上を見ちゃう傾向にあるんだよ、人ってもんは。でも彼女の場合、ぜんぜん関係ないけどね。あ、あのチキン、手を付けちゃダメって言ったけど大丈夫だよね」

「それって癖とかかもしれなくないですか! ってえ、ほんとにチキン食べないんですか? やっぱり嫌いなんですね」

「じゃないけど、今のところそうしとこうかな。癖かもしれないけど一概には言えないって言ったでしょ。話、聞いてた? 耳もやっぱり悪いんだね。しばらく観察してたけど取り立てて癖はなかった」

「じゃあ」

「今回は君の力が微力ながら役に立つかもしれない。試してみる?」

「私の力ですか? ええと、すみませんが私がなんで力になれるのかの意味が分かりません。何故かを言っていただけると助かるんですが」


 謙虚さは忘れてはならない。


「……はぁ、なんで君が俺のとこ来ちゃったんだろう。際限なくめんどくさいなあ。なんで分からないんだろうね。さっきから見えてるのにね」


 謙虚さの欠片も感じられない。


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