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 田中の腹に正拳を一発。

 力が緩んだ瞬間に花井さんを引き剥がし、花井さんの横に移動して両手を最大限に広げている占い師に放る。


『ふわあぁ』


 べしゃっと音がしたのはきっと脱力した花井さんをキャッチしきれず、自分が布団の役割のように花井さんの下敷きになった音だろう。


 はぁ。


 容易に想像できる下敷きになってもがいている占い師のことを切なく思い顔を横に背けるが、それどころではない。

 体勢を戻しつつある田中の股間に思いきり蹴りを食らわし、両手で股間を押さえている間に回し蹴りを見舞う。


 でかい山が倒れるように前倒しになった田中の手足を素早い動作で、ジャッキーのビデオで何回も確認して覚えた縛り方で後ろで縛り、その辺に転がした。ここまではもちろんビデオ学習の通りだ。見様見真似で覚えたことが発揮できたなんて私としては清々しいこの上ない。


 両手をぱんぱんと打つ。


「ブラボー」


 占い師はペチペチペチと下敷きになったまま力なく手を叩きながら掠れた声をあげた。

 何がブラボーだよこの野郎と思っていると、「すまんが彼女をどかしてくれ。重くて起き上がれん」とひどく辛そうな声で訴えてきた。花井さんは気絶しているので全力で占い師にのしかかっていた。

 人間1人が脱力するとそれはもう本当に重すぎて話にならない。と、。ジャッキーも言っていたことを思い出し、仕方なく駆け寄った。


 襖を開くと中からはDVに使ったのであろうグッズが盛り沢山に溢れていて、どれもツンとする匂いを発していた。


 実は、占い師の家を出る前に、


『君はビデオを回すんだ。でも気づかれてはいけないから超小型ブローチビデオを君の服につける。いいかい、これで一部始終を録るんだよ。それから、君、趣味は……』

『カンフーアクション映画はほぼ完璧にコピーしてます。見よう見まねで実家の庭に練習用の機材を手作りしてけっこう修業を積んできましたから、あとは実戦で試すのみです。ちなみに酔拳は今研究中です』

『いいね。すごくいい。その修業の成果を披露する場面に出くわすから、充分に準備運動をしておいてくれたまえ。怪我でもされたら職務中の責任で労災諸々めんどくさいから。俺そういうのやだから』


 という理不尽ないいつけにより、とりあえず分からないように柔軟をして筋肉をのばしておいたことが最大限に発揮されたというわけだ。


 一息ついて、


「で、出雲さん、次はどうするんですか」

「こいつは警察に届けよう。接近禁止命令でも出してもらえばいいだろう」

「そんなことで済むんでしょうかね」

「彼女は引っ越したほうがいいと思うし、会社にも部署変更か支社変更の希望を打診してみるのもいいかもね」


 床におネエ座りで息を切らしている占い師はなんだかほんとに『けったいな奴』にしか見えないけど、この人がいたから花井さんは助かったんだなって考えると、なんだか人助けをした気分になる。


「させるかバカが」


 意識を取り戻した田中が体をよじらせながら必死に縛られた紐をほどこうとするが、そんなもんじゃ取れないようにしっかりと結んである。これだって私の勉強のたまものだ。


「君が今脅したところでどうにもならないんだよ。現にDVの現場だって記録してあるし、ほら、さっき花井里美さんにした行為だって立派なDVってもんだ。いやあ、立派なDVだったよ。あそこまで確実にお手本通りにやってくれるとこちらとしても助かるよ。話は早いからね」


 褒め称えるところではないがこの占い師の感性はどこかがずれている。


「そんなもん俺ら二人は同棲してんだ、夫婦みたいなもんだろうが。よそ者にとやかく言われる筋合いはないし、里美がそんなことはないと首を横に振ればいいだけの話だろ。なあ、里美、だろ。早くそうだって言え。いつもと同じだって言えよ。なあ。ほら!」


 小さく息を飲み、小刻みに震える花井さんの肩ではなく腕を優しくさすり、ギろっと田中を睨む。


「君もほんとにバカなんだね。こんなにも世の中のことを分かっていないバカが身近にいるなんて、世も末だね。あまりにもバカすぎてバカが伝染しそうで話したくもないよ」


 占い師は得意気に立ち上がり、壁に手をついて体勢を整えた。

 若干のふらつきはもう仕方ないと思うことにした。本人は一生懸命にそのことを隠しているけれど。顔はいいのに、見た目は筋肉質な細マッチョで頼りがいありそうなのに見かけ倒しなんて残念な人なんだとにわかに同情的になる。


「こういう話、聞いたことないだろうからめんどくさいけど教えてあげるよ。ほら、無知は悪くないから。知らないのは罪じゃないよ。勉強しなかったのは罪だけどね」


DVドメスティック・バイオレンスってね、親密な関係にある男性または女性に対して振るわれる暴力のことを言うんだよ。

 夫や婚約者はもちろん、離婚した夫や妻、交際中の彼氏や彼女、別れた彼氏や彼女から暴力を振るわれる場合もまた同じでね、多くの場合、男性から女性に対して暴力が振るわれているっていう報告もあるわけ。

 例えば、身体的なこと、

 平手で体を打ったり足で蹴ったり、身体を傷つけるような物で殴ったり、刃物などの凶器を使用したり、髪をひっぱる、引きずりまわす、首をしめるってのもこれに当たるわけ。

 はい、これはね、刑法第204条傷害、第208条暴行に該当する違法な行為、たとえ配偶者間で行われたとしても処罰の対象になるわけですよ。

 この他には精神的なものもあったりするよ。言わなくてもわかるだろうけど君の場合ちょっと分からなそうだから言っちゃうね。つまり言葉の暴力だ。肉体的な傷は時間とともにいくらか癒されるよね。でも精神的なものは時間がたってもなかなか癒されるものじゃない。そういうことを言うよ。

 頭の悪い君に分かるように簡単に言ってるんだけど、これで分からないとか言わないでよね」


 占い師のうんちくは途中で止まったり躓いたりすることなく滑らかに口から言葉が溢れてくる。

 そしてその間は誰も口を挟むことのできないオーラ纏っている。



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