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走る少年


【海王の白宮】

白い街並み同様に白で覆われた広々とした屋敷は風通しも良く。青空と青い海とのコントラストと合わさって開放的な空間を作り出す。


スキュラこと僕は朝食を終えてソファに寝そべりダラダラと読書していると姉ヒュドラが僕を見つけ話しかけてきた。


「大蟹が大量発生?」

「そっ、朝からアドラが剣を持って狩りに行ったわ」

青に染まった窓から風が吹くと姉の白髪に揺れ、耳の後ろに生えた赤い角がハッキリと見える。


(アドラ兄様にもあるけどやっぱ綺麗だなぁ【竜人族の角】)

腹違いの僕と妹キキーモラには無い特徴。ちょっとだけ仲間外れな感じがして悲しい。でも大切な兄妹であることに変わりは無い。


「…ふーん、魔物を暖かくなると活発になるんだろ…う………ん?…あっ!」

「わっ!何?スー君、急に声を張り上げて」

声を上げてソファから身を起こすとヒュドラも目を見開く。


「あ、ゴメン…ヒュー姉様、ちょっと本を落としそうになって」

「そう?まぁ大丈夫だと思うけど、外に出る時は気をつけてね?魔境じゃ、ちょっとした事でも連鎖的に魔物が活発化して危ないから」


「そうだねー…ははは…」

「?、まぁ…注意はしたよ。私はキキちゃんと遊んでくるから、またね」

「うん、ありがとヒュー姉様」


「大蟹…連鎖…コレって」

(どう考えても昨日の放置したサハギンの死体に群がってたカニが魔物化しちゃった感じかなぁ…うっわぁああ…)

ガシガシと頭を掻くとソファから立ち上がり靴を履き、お出かけ用のポーチを持って走り出す。


廊下ですれ違う町民から募ったお手伝いさんに挨拶をして玄関を飛び出す。


(兄様は強いけど…やっぱ放っておけないよね)

そのまま白い町を通りを駆ける。


(砂浜まで下りる道まで結構あるし上から方が早いか)


「よっ!…っと!…はっ!」

持ち前の身軽さと脚力で手すりを駆け上がると民家の屋根へと飛び移る。


青空の下、白い屋根の町を駆ける。見慣れた景色だがいつ見ても美しく。ここで育った事を誇りに思う。


町を囲む石垣まで辿り着くと警備兵が軽く手を振る。僕や兄は割と町の出入りに関しては割とフリーパス、女子である姉と妹には必ずと言っていいほど護衛が群がるのだが別に羨ましいとは思わない。


「うん?」

町を出てすぐ二手に分かれる道が現れる。1つは崖を下りて砂浜に辿る道。


もう1つはエレボス鉄道の停車駅がある町への道。


前者に向かっている最中だが後者の道に違和感。


小さな点にしか見えないが確かに蠢く何かが見える。


(追われてる!?2人…か?僕と同じくらいの子供?)


「追ってるのは…あれは大蛇…白い…頭が2つ…何だっけ…【ジラント】か?」

2人の後を這いずるように迫る大きな白い物体。


魔物ジラント

双頭の白蛇で人間を丸呑みする程の大きさを持つ。雑食だが若い人間は特に好物という危険度の高い魔物。


「スキュラ様?如何致しました…うん?魔物か!」

「何だまたカニか…蛇か、アドラ様の狩りについて行った兵がいない時に出るとは…」

町の出口を見張る警備兵が僕の様子に気付き道に出て来ると同じく魔物ジラントに気付く。


「悪いけど僕の魔法の後に攻撃支援お願い、ナイフしか持ってないから致命傷は難しいかも」

魔境にて魔物討伐は珍しい事ではない。もちろん人が襲われている状況も。


とはいえ人命も関わっているので簡単な打ち合わせを行う。


「はっ!」

「了解!スキュラ様の後方支援があれば鬼に金棒!心強い限りです!」

後ろで槍を構える兵。銃も持っているが音を立てて町民を刺激する程の相手では無いという判断だろう。

この魔境では兵一人一人が高ランクの冒険者並みの逞しさを持ちため安心して任せられる。


「では先行するね…【眠りにて】…」

「えっ?あの後方支援…流石に前衛は…」

「ちょっ…スキュラ様!?」

先に走り出す僕に慌てる兵士を無視して【海神の魔法】を詠唱する。【海神の魔力】は生物の生命活動に負荷を付与したり軽減する特質を持つ。


「息吹きを忘れよ【レスピレイション】」

淡い光が僕を包みと軽い浮遊感に襲われる。

この魔法により僕は呼吸をせずに活動できる。生命活動に必要な要素を魔力で補う事で無呼吸でのパフォーマンスが可能になる。


長時間の無酸素運動。スタミナの高速リジェネというのが今の状態。デメリットは脱水症状や腹が減りやすくなったりするなど永久的では無いことか。


更に加速して走り続けると魔物に追われている2人に近づく。

「相変わらず速い!?」

「はっ…はっ…ああ!…ったく…変な所が…はっ…領主様に似てしまったな…」

必死に追いかける兵士。短距離走のスピードで長距離持続出来る僕には呆れているようだ。


点のようなサイズだった2人も近づいてくる僕らに気付き何者かと身構える。


僕は無視して魔法を唱える。

「惑え【ラブリュス】」


「きゃッ…」

「ぐわっッ!?」

詠唱と同時にパチンと白い閃光が辺りを包む。


『カロロロロロロ!?』

『シャアアアロロロロ!?』

魔物ジラントは2つの頭が目を回しトグロを巻いて暴れ出す。


その隙に回り込み、尻尾をナイフで突き刺す。


『カッ!?』

『ロロロ!?』

痛みを感じる魔物ジラント。追っていた2人とは反対の方向に反転し威嚇する。


(とりあえず2人の安全は確保できたかな?…ッ!?)


『ジャァア!?』

『ジャロロロロ!?』

「ぬおっ!あっっ…とぉおお!?」

魔物ジラントヤケクソに尻尾を大きく振り上げる。それを僕は横にダイブして躱す。


「ッ…ととぉ…」

受け身を取り手についた小石を払う。ちょっと痛かった。


「あ…危ねっ…マグれ当たりもらうところだった…ナイフ抜く暇無かったな…」

(まぁ…これで良し…っと後は)


「はっ…はっ…スキュラ様!また無茶を!」

「はっ…ぜっ…後は…我々に!?」

スキュラの後にやって来た兵士2人が魔物ジラントを左右を囲む。


「「【揺れにて…ボーンプロクス】」」

兵士の持つ槍の先端である鉄の刃が赤熱しだす。


「蛇の脳は鼻と目の間だ!一撃で行くぞ!らぁあッ!!」

「了解!ぜぃあっ!!」


ズンッ!ズンッ!


兵士が阿吽の呼吸で魔物ジラントの目の上あたりを赤熱した刃で勢い良く貫く。片や側頭部から脳を貫き。片や顎下から突き上げる様に脳を貫く。


ズッ!!ジュジュジュジュズブズブと肉が焼ける匂いと共に刃が食い込み肉が千切れる音が響く。

『ガヒュッ…ロロ…ロ…』

『ギッッ…ヒッ…カッ…ァ…』

体に指令を送る器官を混乱してる間に潰され、息はあるものの自由を失った魔物ジラントはピクピクと痙攣する。


「ふん!」

「はっ!」

ズズンッと魔物ジラントの頭から刃を貫通させるとそのまま地面に突き刺した。


下手に振り払って傷を広げ血を流すと他の生物が群がり道が荒れてしまう為だ。

「応援を呼んで死体を運ぶぞ、後で駅前にあるギルド支部に連絡を」

「はっ!ではスキュラ様、私は一旦これにて…あんまり無茶はしないで下さいね…」

「ははは…うん、ありがとう後は任せるね」


(さてと…)

未だにピクピクと痙攣している魔物ジラントを一瞥する。派手さは無いが頭蓋の硬い魔物で無い限りは脳への一撃が基本である。


「解除っと…ふぅうう」

混乱魔法と無呼吸魔法の魔力を散らし深く息を吸う。全身に襲う気怠さに顔をしかめる。

(うえっ…足つったぁ…もっと鍛えないと魔法に負けてるなぁ)


「まぁ…僕の事より…」

魔物の死体を通り過ぎると先程まで追われていた2人が膝をつき動けない様子。


「あっ…あれ…?」

「くっ…目が回っ…うぷっ」


1人は10歳の僕と同じくらいの少女、もう1人は老けた厳つい男。


この出会いが僕の騒がしい毎日の始まりだった。


ー戦闘結果ー

エレボス・ジラント1体


ー戦利品ー

少女とオッサン



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