砂浜にて
スキュラ=トーン=ハーディスっていうのが僕の名前。
上には双子の兄と姉。下には妹。
ただし腹違いの兄妹である。
家族構成は父1人に母3人に子供4人。
父は大陸でも有数の大商会であるカプノス商会の会長を務めており、エレボス鉄道事業の相談役としても毎日が忙しく家にも中々帰って来ない。
魔国エレボスを統治するグリス=ハーディス=エレボス首相の実子であるが、既に分家の様な立ち位置なんだそうだ。
それでも父が【魔王】と呼ばれるのは、何でも若い時に相当な問題児であり各国から問題視されていた為なんだとか、母たちに聞くと苦笑いで返されたので本当の様だ。
【青と白の町・ラリッサ】
大陸最南端の町。大陸に住む者たちが恐れる【海神】が住むとされる【海】に面した絶景。
白い壁と屋根の町の人口は300足らず、波と海鳥の鳴き声が響く静かな町。
その町の奥。
【海王の白宮】
断崖絶壁の場所に建つ一階建ての白い神殿という見た目。そんな大きな屋敷に魔王の一家は住んでいる。
そして白宮のある断崖絶壁の下にある砂浜。
僕ことスキュラはのんびりと釣竿を振っていた。
「ふぁあ…眠…」
春が近づいて来たのか日の温かみに照らされ眠気が半端無い。
「釣れなーい…なっと」
朝から何度も繰り返した釣竿を振る作業。兄妹の中でも釣りをするのは僕だけで、兄のアドラは剣バカなのとジッとする事が苦手ですぐ飽きる。
(はぁ…のんびりと釣りするのも最後か…今年から留学生…外国…一応は親戚の家で暮らすらしいけど…)
「ん?」
釣竿のリールを巻き上げてると海面から一際大きな波が現れバシャンバシャンと砂浜に3メートル近い大きな影が打ち上げられる。
『ゲゲッゲッ』
『ゲッゲッゲッゲッ!』
『ゲッ』
『ゲッゲッ』
『ゲゲゲゲッ!』
『ゲッ!?』
『ゲゲッゲッ』
『ゲゲッゲゲ』
「うっわぁ騒がしい……サハギンか…どうでも良いのが釣れたなぁ」
【魔物サハギン】
二足歩行する魚の魔物で陸に上がり小動物を食い荒らす。頭は牙の生えた肉食魚でペンギンの様な動きで迫って来る。
『ゲッゲッゲェェ!!』
サハギンの群れにアッサリと囲まれてしまう。リールの糸を力任せに巻くと絡まるので慌ててはいけない。
「よしっ…と…んじゃ【輝きにて】…」
騒ぐサハギンを一瞥すると僕が得意な【冥神】の魔法を詠唱する。指に魔力の光が宿る。
世界に存在する魔力の1つ。【冥神の魔力】。
【冥神】は暗闇・鉱石の神であり、その魔力を扱った魔法はモノを見つけたり隠したりする特性がある。
「惑え【ラブリュス】」
パチンと指を鳴らすと閃光が辺りを白に染める。
『ゲッ!?ゲッ!?』
『ゲッゲッ!?』
僕が放った魔力がサハギンの群れに当たると、突然見当違いの方向に進み出し奇天烈な行動を起こし始めた。
簡単に言うと今のサハギンは混乱状態である。
生物には【走性】【屈性】【向性】という外界から刺激に対して一定の方向性を持った行動を起こす。
それを利用して【冥神の魔法】は魔力で生物の五感を狂わせ相手の行動を制限する…らしい。
(お母様とお父様に冥神の魔法は教えて貰ったけど…まだイマイチ分からないんだよなぁ…イメージで補完出来るから魔法って便利だよ本当に)
そんなことボヤきながら釣り用のルアーやスプーンを入れた腰のポーチからナイフを出す。
「はい、ゴメンよっと」
サハギンの背後から頭部を突き刺し捻る。それを他にサハギンに対し単純作業の様に繰り返す。
『ゲッ…ガッ…ァ』
『ゲゲッ…ァ…』
次々と呆気なく絶命するサハギンの群れ。
(僕はギルドの仮免すら持ってないから報告しても意味ないんだよなぁ…都に行ったらお小遣いの為にも先ずはギルド登録しなくちゃな)
ダンジョンの【見回り】や【案内】をして母からオヤツと言う名のお小遣いを貰えるがやはり自由に扱えるお金は大人になれた気がして憧れる物がある。
「さてこの死体はどうしよう…海に放り投げるほど力は無いし…燃やし切れるかな」
魔力は世界から与えられる為無限であるが、出力は使い手によって様々である。【恩恵】があれば話は別だか残念ながら持っている恩恵は【冥神】と【海神】のみ、短時間で燃やしたり切った加工する様な魔法がない。
「まぁ…やるだけやるか」
サハギンだけでなく魔物の死体は処分しないと他の魔物が群がる危険性がある為早めに処分する必要があるので困る。
「揺れにて…【ボーンプロクス】!」
ポシュー
と音を立てて生臭い匂いが立ちのぼる。
ビュオッ
と火を生み出す魔法の光が潮風に吹いた途端に掻き消される。
「!?…あー…うぅ…」
(…海が近いと【海神】の魔法は強過ぎるし、お父様から大人がいない所では禁止って言われてるしなぁ…ん?)
サハギンの死体を見ているとカニがチラホラ寄ってきている。
「もうカニも起きてるのか…春だなぁ」
(冬眠明けの生物がチラホラいるなら自然に無くなるかな…?)
火の魔法のショボさにガックリとうな垂れていた腰を上げて立ち上がる。
「よしっ、今度こそ帰るぞ」
釣竿を肩に担ぎ、何も入っていない網をクルクル回し断崖絶壁から町まで上る道に向かって歩を進める。
もうすぐ春を迎える世界で
魔王の住む町は今日も平和であった。
ー戦闘結果ー
エレボス・サハギン8体
ー戦利品ー
無し