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魔王の子


暗闇。


バシャバシャと響き渡る水を掻き分ける音。


音の先の揺れる松明の灯火が視界を照らす。


一見は廃坑の様であるが松明の主は腰まで水に浸かり、必死の形相で歩を進める。


水没した廃坑。


この世界では【冥王の洞窟】と呼ばれるダンジョンである。


「ヒィイイイイ!なんで真っ直ぐ歩いたのにまた同じ場所に!!スキュラのクソガキめぇえ!」


1人の男は延々とその場でグルグルと回り続ける。


「松明はあるんだ!火もついてるよ!ほら手が熱い!熱いよ!?なんで暗い暗いんだよヨォおお!!」


もう1人は松明で自分の腕を燃やしては水で消す事を繰り返す。


2人の男は水に浸かり狂った様に踊り続ける。


「あらら…」


そんな男たちに半裸の幼い少年が水を掻き分け近づいて来る。


「もう壊れちゃった…せっかくパーティで来てくれたのになぁ…ヒュー姉さ…」


「うあああ!ヒュドラのクソガキだぁ!逃げろぉお…うげふっ!!」

「相棒ぉお!チクショぉお!仇はかならッ…グホフゥ!?」

「がばばぁ!?」


バシャンバシャンと少年の頭上から男たちが降って来る。

気絶してるのか沈んでいくのを男たちを少年は慌てて引き上げる。


「あららら…思いっきり落としちゃった…スー君、ケガはない?」

「ヒュー姉様…気絶させると運ぶの大変だから追い払うだけにしようって言ったじゃん」

男たちを水に浸かって無い坂道に引きずり寝かせると別の道から木剣を持った白髪の少女が走って来る。


「あっ…ゴメンなさい…久しぶりのお客さんで力が入り過ぎちゃった」

「というかヒュー姉様の担当じゃないでしょ…」


「だって滅多にお客さん来ないし…スー君だけズルいじゃん」

「ズルいって…門番の仕事は…まぁ、いいや。アドラ兄様は放って置いて良いの?」


「いいのよ、あんな脳筋な弟なんか放っておいて、お父さんに喧嘩売ってばっかの本当のガキよ」

「アドラ兄様は爺様の英雄伝が大好きだからなぁ…あっ」

2人の子供が廃坑から出て、陽の下に出て来ると前方から勢いよく迫って物体が目に入る。


「ピィルルルルルル!」

「きゃあッ」

「うわわっ」

鷲の頭と翼を携えた馬【魔獣ヒッポグリフ】が2人の前に現れらと急ブレーキをかけながら立ち止まる。


「ヒュー!スー!迎えに来たぞっ…うおお!キキよ!暴れるな落ちるだろ!?」

「ねぇね!にぃに!聞いて聞いて!」

魔獣の上には少女ヒューと同じ顔の作りをした白髪の少年が乗っており、少女を抱えて慌てふためきつつも2人に声をかける。


「もう!泥が顔に跳ねたじゃない…!何なの!?キキちゃんも一緒にアドラが迎えに来るなんて!」

「ペッペッ…口に泥が…どうしたの?アドラ兄様」

アドラと呼ばれた少年に向かって疑問を投げかける2人。アドラはキキを抱え直すと2人をあらためて見下ろす。


「母上たちが帰って来てる!早く乗れ!」

「お菓子のお土産一杯あったよ〜」

「キキちゃんホントに!?ママも!?」

「げっ…お母様が帰って来てるんですか…よっと!」

アドラの答えに2人は違った表情を見せると子供とは思えない脚力でヒッポグリフに背に飛び乗り、しっかりと跨る。


「ピィルルルルルル!」

4人を乗せたのを確認すると雄叫びを上げ走り出す。


廃坑の入り口には計10人以上の男が寝かされ、近くには魔物よけのお香が焚かれていた。


ーーーーーーーー


「よう起きたか」

「あれ…ここは」

目覚めた男が辺りを見渡すと木造の建物に簡易ベッドで寝ていたことが分かる。

他にもベッドがあり、所狭しと知り合いの男たちを眠り、ベッドが足りなかったのか床に寝かされているものもいる。


声をかけたのは濃いヒゲが特徴的な大男だった。


「分かるか?ギルド支部の留置所だよ。ダンジョン前で寝ていたお前らを回収したんだ。後で迷惑料貰うぞ」

「あ?…ああ…ああ、そうだ…クッソ…あのガキどもめ…何でダンジョン攻略の邪魔すんだよ…!」

廃坑での出来事を思い出し舌打ちをする男。その様子を見ていたヒゲ男はため息を吐く。


「はぁー…それはシーズンオフにダンジョン入ったお前らが悪いんだよ…今は冬で【冥王の洞窟】では色んな魔獣が冬眠してるんだ。下手に刺激してパニックを起こせばダンジョン近隣が荒れちまう。当然の罰だ」

「シ…シーズンオフ?」


「冬は魔獣の活動が鈍いとか言ってダンジョン攻略のチャンスとか考える馬鹿が多くてな…逆に殺気立つのもいて危険だっていうのにな…」

「…チッ」


「…お前ら魔境のルール知らずに来たのか、まぁ見た目も若いし魔境は一年目か?」

「あん?そうだけどよ…魔境のルール…?ここは自由を愛する冒険者の楽園と呼ばれてるし…ルールって」


「まぁな、プロの冒険者からしたら魔境には仕事が多く収入も安定してるし、未攻略のダンジョンは刺激があって楽園だ」

「…」


「しかし楽園と呼ばれるのは魔境にある各ダンジョンにいる四天王が見回りしているおかげだからだ」

「見回り?」


「【竜の住処】にヒュドラとアドラ、【冥王の洞窟】のスキュラ、【世界樹の根】のキキーモラ…知ってるか?」

「まぁ噂では知ってるよ…魔王のクソガキだってな」


「それは若手の奴らの意見だろ、古株からしたら優秀なガイドだよあの子たちは」

「知らねぇよ…せっかく魔境に入ったのにシーズンオフとかふざけんなよ、オレらだってちゃんと自信持って挑んだんだぜ!」


「シーズンオフでも活動できる冒険者は四天王認められたものだけだ。あの子たちはその資格があるか試練を与える。それにお前らはあっさり負けたんだろ?力が単純に足りて無いんだ冬は諦めろ」

「ぐぅ…」


「金が無いなら橋の建造や鉄道工事のバイトが年中無休であるから、冬の間はそっちで頑張りな」

「ふざっけんな!!」


夢抱く冒険者の男の声が虚しく響き渡る。


ここは魔境と呼ばれる【永世中立国エレボス】


大陸の最南端に位置し、数ある国の中で最も特殊な環境持つ。


そして多くのものは別の呼び方をする。


【魔王】が支配する【魔国エレボス】と。


そんな物騒な呼び名を持つ国ですくすく育つ子供たち。


竜王ヒュドラ


剣王アドラ


冥王スキュラ


霊王キキーモラ


そんな彼らを【四天王】と呼んだ。


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