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九十四話

晃穂はもうひとつ心配事があった。

全身が寒くなってしまったのだ。

「もう我慢できないであります…」

「いいのよ、我慢しなくても…」

我慢できない。でも、したらドクターマリは怒るだろう。

「ごめんなさいであります…」

「謝らなくてもいいのよ。全てを解き放ってしまいなさい…」


鼻がムズムズする。我慢できない。

「ふぇっくしょん!てやんでい!」

そう、晃穂はくしゃみがしたかったのだ。

ドクターマリの顔に、晃穂の唾と鼻水がたくさんかかってしまった。

ドクターマリの顔は、ベトベトになった…。

「うわぁ、ごめんなさいであります!」

「……」

ドクターマリは無言で、俯いている。

顔をしきりに拭って、無言で立ち上がった。

「ひぃ!本当に申し訳ないであります!」


「もういい。興が醒めたわ。今夜はここまでよ。それにしても今のくしゃみの仕方ないんじゃない」

「うぅ、面目ないであります…」

くしゃみの仕方で怒られてしまった。

ドクターマリは無言で、部屋を立ち去ってしまった。

晃穂は手足を縛られたままだった。どうすればいいのだろう?


手足を縛られたまま、いつの間にか眠ってしまったようだ。

外は明るい。どうやら朝になったようだ。

「おはようございます。晃穂様。お目覚めでしょうか?」

田端さんの声がした。

「あ、はい。おはようございますであります!」

思わず返事をしてしまう晃穂。

「ベッドをお直しします。入りますよ…」

田端さんが部屋の中に入ってきた。

「まぁ、これはいかがなさったのですか!?」

顔を真っ赤にして恥ずかしがることしかできなかった。

「もしかして、お嬢様に何かされましたか?お嬢様は昔からお気に入りのアンドロイドがいるとお仕置きをなさるのです。申し訳ありません」

「ははは。そうらしいでありますね…」

笑うしかない晃穂。

「こんなにきつく縛られて、おかわいそうに…」

手足のワイヤーをほどいてくれる田端さん。

晃穂の手首と足首にはワイヤーのあとが、赤い輪っかになって残ってしまった。

「本当に申し訳ないことを。後でお嬢様に言っておきますね」

「いや、別にいいでありますよ。あはは…」

別によくはないが、昨晩のことを蒸し返されても恥ずかしいだけなので、そう言うしかない晃穂であった。

「左様でございますか。朝食のご用意ができていますので食堂までおいでください」

そう言うと、田端さんは部屋から立ち去った。

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