百四十四話
社長室の調度品は全て、割れた窓ガラスから宙に投げ出された。
凍っていた晃穂オルタナティブも量産型瑠美も床に倒れて、粉々に砕け散った。
「もうこのビルは崩壊するであります!雲雀さんはマコちゃんを抱えて逃げるであります!」
「私は二人抱えて飛べないよ!晃穂はどうするの!?」
社長室は、もう立っていられないぐらい斜めに傾いでいる。ちょっとでも気を抜くと窓の外に飛び出しそうだった。
「私は大丈夫であります!二人は早く逃げてくださいであります!」
「大丈夫って…。無理だよ…。晃穂…」
「急がないと3人ともビルから逃げられないでありますよ!マコちゃんを頼めるのは雲雀さんしかいないで
あります!」
ここに残れば助かる見込みがないとわかっている晃穂だが、松子を助けたい一心で雲雀に頼んだ。
「わ、わかった。晃穂…。どうか無事で…」
「マコちゃんを頼んだであります…!さぁ早くあそこの窓から外に飛び立ってくださいであります!」
そう急かされ、割れて外に通じてる窓から、雲雀は松子を抱えて飛び立った。
「雲雀さん、マコちゃんを幸せにしてあげてくださいであります!」
「わかった!わかったから!晃穂…。晃穂!!」
仲が悪かった雲雀と晃穂だが、同じ人を愛した恋のライバルでもあった二人。
晃穂は断腸の思いで、松子を雲雀に託したのだ。
晃穂のことが大嫌いだった雲雀だが、晃穂の思いを感じ、涙が溢れていた。
それでも、松子を落とすまいと、力強く空を飛んでいく。
「さて、雲雀さんとマコちゃんは行ったでありますね…」
崩れゆくビルの一室でどっかと座り込む晃穂。
二人が飛び去って行ったあと、ちょっとした悪あがきで階段を降りてみたが、途中で途切れ、青い空につながっていた。
「万事休すであります…。でも思えば楽しい人生でありましたなぁ。マコちゃんと過ごした日々はいつもキラキラしてドキドキの連続だったであります…」
仮想現実の中で初めて出会った松子、そして現実世界で初めて出会った松子。秋葉原の街でデートした日々。初めて飲んだアイスコーヒーの美味しさ。全てが初めての体験だった。
走馬灯のように今までの日々の出来事が脳裏によぎる。大半の記憶は松子の笑顔だった。
松子の家に泊まったこと、一緒に学校に通った日々。修行で奥多摩の滝に行ったこと。
いつしか晃穂の目からは涙がとめどなく溢れていた。
死ぬのは不思議と怖くはない。でも、松子に会えなくなるのは嫌だった。
「マコちゃん…。できればまた会いたいであります…。会いたいであります!」
そう声に出して願った晃穂だが、現実は非情で部屋の天井が崩れ、大量の瓦礫が晃穂を飲み込んだ。




