現代転生勇者。
ド〇クエや、その他ゲームのパロディーだらけです。
俺は異世界から現代に転生してきた。そして、前の世界では勇者だった。
勇者だった頃は、大魔王を倒す使命を抱き、光の装備で身を包んで旅をしていた。
「太郎、なにそれ漫画の話?」
中学校で、昼休みの時間、お母さんが作ってくれたお弁当を食べながら友達に話していた。
「いや、マジなんだって!俺は本当は勇者なの!」
そう俺が言うと「太郎、知ってるか?」と神妙な顔で言われた。
「そういうの、中二病って言うんだぜ。」
俺が勇者だった頃の話をしよう。
その日も俺はパーティーで、逃げ足がとても早いが代わりに莫大な経験値をくれるスライムの王を狩っていた。
俺のパーティーは、勇者、僧侶、僧侶、僧侶の四人編成だった。
この編成にしたのは、「相手にどんなにダメージ与えても、やられちまったら元も子もない。」という理論に基づいてだ。
僧侶ばかりでややこしい。なので、槍を装備している僧侶を槍僧侶。杖を装備している僧侶を杖僧侶。そして、モーニングスターを装備している僧侶をモーニングスター僧侶と呼んでいた。
その日、狩りを終えると、槍僧侶が言った。
「あの、勇者さん?そろそろ魔王倒せんじゃねぇですかい?みんなレベル80超えてますし。」
その槍僧侶の言葉を聞いて俺は「ダメだ。」と言った。
「いくら推奨レベルが63だからって、ラスボス相手じゃなにがあるかわからない!ちゃんと99まであげてから行くんだ!」
これは僧侶ーズ(分かるとは思うが、僧侶達の総称。)に何度も言って聞かしているのだが…。
しかし、その日の僧侶ーズは引き下がらなかった。
今度は杖僧侶が、「のう、勇者さんや、実際、もう余裕とちゃうんかいのう?99言うたら、ラスボス倒した後のウラボスのレベルじゃぞ?」などと言い始めた。
それでも俺は、「ダメだ!」と言った。
「いいか?いくらやられたら教会で復活できるからって、take2じゃムードが出ないだろ!一回でクリアするんだ!」
何度も教会で復活繰り返してようやくクリアなんてかっこ悪すぎる。「それに…。」と俺は言葉を続けた。
「大魔王だって、俺達が行くまで人間界に進行もせずに、ずっと待ってんだぞ?ずっと、椅子に座って肘おきに肘ついて、微笑浮かべながらずっと待ってんだ!ずっと!座ってんだぞ!?何回もやり直してたら痔になっちゃうよ!椅子かてぇし!」
そう。だからこそ、一回目で倒してやるのが筋じゃないのかな?
そういうが、尚も僧侶ーズは引き下がらない。
今度はモーニングスター僧侶が反論してきた。
「あの、勇者さん?大魔王さんがずっと座ってるって言うのは、私たちがレベル上げしてる間も同じじゃないでしょうか。」
そうモニソ(モーニングスター僧侶の略称。)が言うと、他二人も「そうだ!そうだ!」と同調してきた。
仕舞いには、僧侶ーズは「今日いかないならパーティー抜ける。」などとほざく始末。
仕方ないか。俺は折れた。
「わかったよ!今日、倒し行こう。」
大魔王の間の前までは楽についた。聖なる水振り撒いてたら魔物が一度もエンカウントしなかったからだ。
どうやら80超すとラスダンのモンスターすら、弱い魔物扱いになるらしい。
大魔王の間へ続く、重苦しい扉をあけると、そこは真っ暗だった。そこへ踏みいるものは永遠の闇、すなわち…、死へ誘われるような、そんッ「松明つけますぜ。」と槍僧侶。
「案外狭いな…。」などとのたまっている。
槍僧侶に色々ぶち壊しにされ、「もういいや…。」と思いながらひたすら前に進むと玉座へたどり着いた。
俺達の姿を認め、大魔王は立ち上がり、尻をさすりながら歩いてくる。
「よくぞここまできた。勇者、アキラよ。ようこそ 暗黒の魔界へ。だが、お前ごときにこのマルクスが倒せるのか?よかろう、塵も欠片も残さず闇に消えるがよい。案ずるな。苦しみはない。一瞬だ。」
大魔王マルクスが現れた。
マルクスは手下を呼んだ。
マルクスの手下Aが現れた。
マルクスの手下Bが現れた。
マルクスの手下Cが現れた。
マルクスの手下Dが現れた。
マルクスの手下Eが現れた。
マルクスの手下Fが現れた。
マルクスの手下Gが現れた。
マルクスの手下Hが現れた。
マルクスの手下Iが現れた。
マルクスの手下Jが現れた。
マルクスは空へ飛び上がった。こうげきが届かない。
アキラのこうげき。
シャイニング・スラッシュ!輝きを纏った究極の剣撃!
マルクスの手下たちに平均826のダメージ。
マルクスの手下Aは倒れた。
マルクスの手下Bは倒れた。
マルクスの手下Cは倒れた。
マルクスの手下Dは倒れた。
マルクスの手下Eは倒れた。
マルクスの手下Fは倒れた。
マルクスの手下Gは倒れた。
マルクスの手下Hは倒れた。
マルクスの手下Iは倒れた。
マルクスの手下Jは倒れた。
マルクスは空から降りてきた。
ヨシト(槍僧侶)のこうげき。
地獄の雷鳴!大地の底から暗黒の稲妻を呼び寄せた。
マルクスに793のダメージ。
ジュウゾウ(杖僧侶)のこうげき。裁きの光!天空から光の刃が降り注ぐ。
マルクスに811のダメージ。
ミユキ(モーニングスター僧侶)のこうげき。無限の鉄槌!鉄球での多段乱舞攻撃。
マルクスに90 110 108 104 103 99 98 101 のダメージ。
マルクスのこうげき。
暗黒の火炎を吐き出した。
アキラたちに平均72のダメージ。
マルクスのこうげき。
マルクスは大地を揺らした。
アキラたちに平均62のダメージ。
アキラのこうげき。
シャイニング・オメガ・スラッシュ!輝きを纏った究極の乱舞攻撃。
マルクスに862 901 903 882 822 811 903 993 のダメージ。
ヨシトのこうげき。
地獄と煉獄の雷鳴。地獄と煉獄より呼び出される余多の稲妻。
マルクスに802 809 802 890 888 822 811 822のダメージ。
ジュウゾウのこうげき。
裁きと浄化の光!天空から浄化と裁きの光が降り注ぎ続ける。
マルクスに862 872 872 900 842 853 886 847のダメージ。
大魔王マルクスは倒れた。
「ほう。貴様らごときに倒されるとは、このマルクスも焼きが回ったようだ。まあよい。それなりに楽しめた。しかし、勇者達よ。これで終わりと思うな。すぐにこのマルクスは地獄から甦り、再び貴様らの前に立とう。心しておくがいい!ハッハッハッハッハッ!」
大魔王を倒し、俺達は故郷セント王国に戻った。
王国に帰ると、王さまが直接出迎えてくれた。
「おお!勇者アキラよ。無事に戻ったのだな。おお!だいぶ体もゴツくなったな!旅に出る前はヒョロヒョロのもやしだったというに、今は見違えたようにゴリラぞ。」
そう言って、王さまは笑顔で俺の肩を叩いた。
「ええ。ステータス、七割ATKに振ってましたからね。後は、攻撃魔法用にINTですか。」なので、と話を続ける。
「こんなナリですが耐久力ないっすよ。」
そう俺が言うと、王さまは、「ハッハッハ」と大きな声で笑った。さて、と王さまは言った。「宴の用意じゃああああああ〜!今夜は飲んで飲んで、急性アルコール中毒起こすまで飲みまくるぞおおおおお〜い!」
宴の間。町中で、どんどんと太鼓の激しい音色や、きれいな笛の音色。それに合わせて踊る人々などを眺めながら俺は酒を飲む。因みに念のため最初に言っておくが、俺は26才だ。未成年者じゃない。
酒を飲んでいると、既に出来上がった様子の王さまが隣に座り、肩に腕を回してきた。因みに念のため最初に言っておくが、王さまは56才だ。未成年者じゃない。
「なあ、アキっちゃん…。うちの娘もらっておくれよ…!うちの娘けっこう器量いいよぉ…?ひっくっ。アキっちゃんなら全然認めるからさあ〜。なあ、良いだろう?」
王さまの娘、ヒメカ姫は、歌を歌うのが好きで、その声は透き通ったようにキレイで、とても見目麗しく、セント王国の歌姫と呼ばれている。
「まあ、認めていただけるのであればうれしい限りですが…。」と俺が答えると王さまはおもむろに立ち上がり、「そうか!じゃあ、今挙げちゃおう!式!」と言い始めた。
「いや、それはさすがに…。」と王さまを諌める。その後、王さまはダッシュで姫を連れてきて、「さあ、誓いのキスを!」などと訳のわからないことを言い始めたり、成り行きで、歌姫の歌声を聞かせてもらったりした。とてもキレイだった。
途中、王さまが完全に酔いつぶれて机に突っ伏し、姫が使用人と一緒に王さまを寝室に連れていった。
そして、また一人になり、回りに誰もいないのを確認してから、ワインの入ったグラスを回しダンディズムにふける。
「やれやれ…。こっちは戦いから帰ってきてんだ。少しゃ休まして貰いてぇもんだな…。」
一人で飲んでいると、今度は僧侶ーズがこちらにやってきた。
どうやら、「勇者さんも出家しましょう!」という誘いのようだ。
全員揃って、「「「出家!出家!レッツ!出家!」」」とか言ってくる。
僧侶ーズ全員かなり酔っているようで、呂律が回ってない。
まてよ?僧侶って酒とか飲んでいいのか?なんかイメージとしては、酒や煙草やセッ〇スなんかは穢れるからダメ!とかって感じだけど…。
まあ、大丈夫だから飲んでんだろ。と自己完結し、お誘いを丁重にお断りする。
尚も僧侶ーズは引き下がらない。「「「出家!出家!レッツ!出家!」」」を繰り返し続ける。
俺は適当な兵士を捕まえ「この人、出家したいってさ!」と僧侶ーズを擦り付けてその場を離れた。擦り付けられた兵士は僧侶ーズに取り囲まれ、ひたすらに信仰の素晴らしさを説かれていた。
「やっはねぇ、神様、信じて生きれば人生が…。」
「己の精神を鍛えるとのぉ…。」
「人々を救う癒しの力をですね…。」
兵士くん……。ご愁傷さま……。
明け方、俺は一人宴を抜け出して町外れまできていた。町外れにはなにもない。ただ隅に墓地が作られているだけだ。
ここまでくると、賑やかだった祭囃しの音も聞こえない。辺りは静まり帰っている。
「父さん、母さん。仇は討ちました。」
父と母の墓前で合掌する。父さんと母さんは、俺が勇者になるずっと昔に魔物に殺されてしまった。目を瞑り、静かに冥福を祈り、その場所を後にした。
その後、俺は宴には戻らず家に戻りベッドで眠りについた。
ゲーーーーム・クリアッ!
突然耳にそうこだまして目を覚ます。
目を覚ましたところは見知った俺の部屋ではなかった。
「ここは……。王族の部屋か?」
一番最初に抱いた感想はそれだった。目についた壁や床のきれいなこと、寝ていたベッドのきれいなこと、おんぼろの民家で暮らしていた俺からすれば当然の感想だっただろう。
そして、俺はその日のうちに状況を理解することになる。
俺は岡田 太郎 (中学二年生)という、全くの別人になっていた!
俺の友人は、タコさんウィンナーを口に運びながらいう。
「いや、まあ、俺達は中学二年生なんだし、太郎が患うのも分かるよ?うん。」
患うってなんだ…。
「まあ、とにかく太郎。その話は他のやつにはするなよ。」
そう釘を刺された。
授業中、俺はぼーっと窓の外を眺めていた。黒板には、XがどうでYがどうとか、訳のわからないことが書かれているが気にしない。
この世界にきて驚いたのは、この勉強という意味不明の呪文だ。
セント王国のどの書物にも、こんなものは書かれていなかった。
しかも、そんな訳のわからない呪文が、いくつもの種類で存在しているらしい。
国語、数学、英語、理科、社会、などパターンは様々だ。
この授業というのは退屈なので、今の時点で、わかっていることを整理しようと思う。
岡田 太郎は、俺がこの世界に来る前から存在していたことになっているらしい。さっき話していた友人は、安田 俊郎という名前で、俺の7年前からの友達だそうだ。
この世界にきたのは一昨日(日曜日)で、俺には一昨日からの記憶しかないのだが、俊郎の方にはきちんと7年の記憶があるようだ。
俊郎だけではなく、回りの人間にとっては、俺は始めからいた扱いのようだ。
因みに、元の世界で使っていた魔力を使う呪文や技などはいっさい使えない。(そもそも魔力を失ってる。)
力は元々の俺の力のようだ。
力がどの程度か確認しようと、俺の母だという人に「なにか重いものない?」と聞いた。
すると、「重いものってどういうこと?冷蔵庫とか?」と言うので、その冷蔵庫というやつを持ち上げて片手で振り回してみた。
すると、母は愕然とした表情をみせ、「やめて!タマゴとか割れちゃうでしょ!?」と叫び、そして俺を止めた。
姿は元々の俺の姿で、写真に写っている岡田 太郎とは全くの別人だ。岡田 太郎は長く伸びた髪と、真っ白な肌をしている。体つきは旅に出る前の俺のようなヒョロヒョロの体だ。反対に俺は、短髪で、どちらかというと色黒。それから、体つきは王さま曰くゴリラらしいから、全く真逆と言えるだろう。
しかし、回りの人間は、少しガタイがよくなった?程度の違和感しか覚えていないらしい。(もしくは回りの人間には、岡田 太郎の姿で見えているのか?)
あとは、こうなった原因は不明。ってところかな。
授業が終わり、そそくさと帰り支度を整え家路につく。あまり訳のわからない状況で長居するのは得策ではないだろう。
教室を出て、靴を履いていると、後ろから肩を捕まれた。
「岡田くん。今日も早いお帰りじゃないか。」
振り向くと、三人の男子生徒がニヤニヤとしながらたっていた。
三人とも金髪で、こちらにきてからは黒髪しか見ていないので少し新鮮味を感じた。
三人の内の一人が「今日も体育館裏きてくれるんだろうね。」という。他の一人も、「こなかったらわかってるな?」と顔を近付けて聞いてくる。
俺の…。岡田 太郎の友達かなんかかな?だとしたら断るのは不自然だ。そう思い。「分かってる。」と短く返事をすると、その三人は去って行った。
体育館裏につくと、その三人が地面にあぐらをかいて座っていた。真ん中に座っている…、ややこしいからその人をリーダーとしよう。リーダーが言った。
「で、お前ちゃんと持ってきたんだろうな?」
なんのことかわからない。
「悪い。なんだっけ?」
そういうや否や、その三人は激昂したように立ち上がる。
「なんだっけ?だ?てめぇ、ガリ勉のクセに嘗めてんのか?またやっちまうぞ?」
そういいながら近づいてくる。
ガリ勉ってなんだ?
ガリ勉か…。なんかの略称?
勉をさっきの勉強っていう呪文とすると、ガリは?
我流かな?我流の勉強か!
謎が解けてスッキリして、ウンウンと頷いていると、いつの間にか三人が俺を取り囲むようにして立っていた。
「とりあえず、サイフ出そうか〜。」
そう言って、リーダーじゃないやつが俺の鞄を漁る。
「なにしてんの?」と疑問に思って聞いてみた。
すると、もう一人のリーダーじゃないやつ…。分かりやすくすると、リーダーじゃないやつじゃないリーダーじゃないやつが「うるさいんだよ。わかってるよね〜。」といいながら拳で腹を撫でてきた。
「千円しかねぇ〜。一万って言ったはずだけどな。」
そうリーダーじゃないやつが言うと、リーダーが、「じゃあ、罰として今日もしめるか!」と言って殴りかかってきた。
「えっ?友達じゃなかったの?」そう呟くと、三人とも、「はあ?」と言ってニヤニヤ笑っている。
「こいつ頭おかしいわ〜!」
どうやら俺の、岡田 太郎の友達ではなかったようだ。
「じゃあ、やっていいのか。」
襲いかかられている以上仕方ない。
金髪リーダーが現れた。
金髪リーダーじゃないやつが現れた。
金髪リーダーじゃないやつじゃないリーダーじゃないやつが現れた。
金髪リーダーはいきなり襲いかかってきた。
金髪リーダーのこうげき。
パンチ。
アキラ(岡田 太郎)はかわした。
アキラのこうげき。
せいけんづき。アキラは腰を落とし、真っ直ぐに相手をついた。
金髪リーダーに9999のダメージ。金髪リーダーは倒れた。
金髪リーダーじゃないやつは怯んでいる。
金髪リーダーじゃないやつじゃないリーダーじゃないやつは怯んでいる。
アキラのこうげき。
回し蹴り。アキラは相手をなぎはらった。
金髪リーダーじゃないやつに9999のダメージ。金髪リーダーじゃないやつは倒れた。
金髪リーダーじゃないやつじゃないリーダーじゃないやつに9999のダメージ。金髪リーダーじゃないやつじゃないリーダーじゃないやつは倒れた。
金髪の群れをやっつけた。
アキラは4の経験値を得た。
三人ともうめき声をあげて倒れている。
大丈夫かな?さすがに人間相手だし加減はしたけど…。
「おい。大丈夫か?」
しゃがみこんで、金髪たちに声をかける。
「ひっ、やめっ、ゴホゴホッ…。ゆ、許して…。」
金髪の群れは怯えている。
暫く、大丈夫かと思って様子を見ていると、先生がやってきた。
「おい!なにしているんだ!」
その声を聞くと、頭の中に誰かの声で「上杉先生だ…。やばい逃げろ!」と聞こえた。その声を聞いて、反射的に俺は逃げ出した。
家に帰り二階の自分の部屋まで戻ると頭の声が聞こえてきた。
「ありがとう。あいつらやっつけてくれて。」
…誰だ?そう思いながら回りを見渡すが誰もいない。
「僕だよ。岡田 太郎。」
…どういうことだ?
「あのね。君は今、僕にとりついてる状態なんだ。」
僕が望んだから…。と太郎はいう。
「君は僕として転生したわけじゃないの。」
太郎の話はこうだ。
太郎はさっきの金髪三人に学校でイジメられていた。よく暴力も振るわれていたらしい。
そして、俺がこの世界にきた…、太郎にとりついた日は、とうとう自ら命を絶とうとしたそうだ。
命を絶とうとしたそのとき、頭の中に声が聞こえた。聞いているだけで安心して体から力が抜けていく。そんな声だった。
その声は言った。
「君の憧れるヒーローは誰だ?」と。
そのとき、頭に浮かんだのは、昔、好きだったゲームの主人公だった。
そのゲームの主人公は、名前を自分でつけるタイプのしゃべらない主人公で、戦闘では殆ど魔法を使わない。自分の腕力だけで魔物を倒していく。そんなところが好きだった。自分は昔から、勉強は人一倍できたが、誰よりも体は弱かった。まるで自分と真逆だったその主人公に惹かれた。
そして、その声は言った。
「そのヒーローに、君をさせてあげよう。」
そうして、自分の体にその主人公はとりついた。
えっと、と俺は確認をする。
つまり、俺はそのゲームの主人公だと…?
思い当たる節はなくはない。太郎として目覚めるとき、ゲーム・クリアと確かに聞いた。
「うん。そうだね…。きっと神様かな?が、僕を君にさせてくれたんだと思う。」
でもまだ疑問はある。
いや、でも。俺は普通に喋る。しゃべらない主人公じゃない。
「きっと、それは僕のイメージしたしゃべり方だよ。実際、君の話し方は僕のイメージした通りだ。」
なるほど。納得した。
次の日、学校に行くと、俺は職員室に呼ばれた。
おおかたあの三人をぶちのめしたことだろう。しかし、太郎の話を聞く限り正義はこちらにある。堂々としていれば良いだろう。
「失礼します。」
三度ノックをし、そう言って入った。中には既に、あの金髪たちもいる。
中に入ると上杉先生は「座りなさい。」と言って目の前の椅子を指差した。言われるがまま、俺はその椅子に座る。
「話は…。わかってるとは思うが…。昨日のことだ。どうして君は彼らに暴力を振るったんだ?」
こちらが悪者にされている。どうやらこの三人が口裏を合わせているらしい。
きちんと話をしなくては。しかし、ここから先は俺の仕事じゃない。
俺は突然太郎に変わった。
「えっ?」と太郎は困惑している。俺は困惑する太郎に言った。
自分の力で、自分の言葉で話してみな!大丈夫、いざとなったら俺が筋肉でなんとかしてやるさ!脳筋なめんな!
「わかった。」と小さな声で言って太郎は話し始めた。
金髪三人にイジメられていたこと、あの日も、お金を要求されて暴力を振るわれそうになったこと、今までのことなどを話した。
しかし、三人は口裏を合わせて、でたらめだ。こいつは嘘ついてる。などといい事実を隠そうとしている。
…、俺は太郎の中で考えていた。アレは…、使えるのかな…?
……、試してみるか。
俺は太郎と変わる。
「なあ。」といい三人の目を見る。アキラは威圧の眼光を使った。
三人はすくみあがる。
威圧の眼光はマジック・ポイントの消費がない技で、相手グループをすくみあがらせて1ターンの行動を封じることができる。要は眼力でびびらせる技だ。
やはり、マジック・ポイントの消費が0の技は使えるのか。
威圧の眼光を発動させながら話をする。
「嘘はよくねぇな…。正直に、本当のことを話すんだ。」
すると、怯えた三人は先生に真実を話した。
しかし、真実を知ってもなお、先生は俺達を悪人扱いする。
「いやいや、悪党は太郎、お前だ。いや、お前たちだ!」
お前たち?どういうことだ…。と疑問に思って考えていると、先生は立ち上がり、笑う。
「クククッ。悪党は処罰せねば、特に…、大魔王・マルクス様に刃向かうような悪党は!」
…は?こいつは何をいってるんだ?大魔王だってさ。俊郎の言葉を借りれば中二病ってやつだ。太郎は中学二年生だったから中二病はセーフだったんだよ。でも先生は三十路を悠に越えている。
「ひさしぶりだな!この私を忘れたか勇者よ!マルクス四天王が一人、砂ぼこりのガルマのことを!」
…思い出した…。確か四天王の一番最初にやられるポジションのやつだ。
しかし、どういうことだ?神様ってやつは太郎をイジメから救う為に俺をとりつかせたんじゃないのか?そう思っていると頭の中に優しげな声が響いてきた。
「…神様です…。…いや、申し訳ない。私のミスで敵の魔物たちまで何人か無関係な人に憑依させてしまったんだ…。悪い!勇者!後始末はするから倒してくれ!」
……マジですか。
仕方ないか。やるしかないな。
「さあ、地の奧深くまで生き埋めにされる覚悟はいいか?貴様らは、ここに土葬してくれよう!」
砂ぼこりのガルマが現れた。
アキラのこうげき。
螺旋の拳舞!華麗な舞から打ち出される多段打撃技。
砂ぼこりのガルマに999 999 999 999 999 999 999 999 999 999 のダメージ。
砂ぼこりのガルマは倒れた。
アキラは1200の経験値を得た。
「ぐっ、バカな!この私が1ターンだと…!?」
驚愕した顔をガルマは浮かべる。「はははっ。だがいい気になるなよ。私を倒したところで、私の上にはまだ三人の四天王がいる。貴様では勝ち目はない。地獄から見ていてやろう!」
そう捨て台詞を吐いてガルマは倒れた。
その台詞は前にも聞いたよ。
「さすが勇者だな!1ターンとは驚いた。」
神様の声が頭に聞こえる。
「いや、だって、最初の四天王と戦うの、レベル20らへんだからな。」
俺のレベルは80を越している。「そんなことより、ちゃんと後始末してくれんだよな。」
「ああ。安心してくれ。神パワーを見せてあげよう。」
そう神様が言うと辺り一面が光に包まれる。
そして、戦闘で破壊された部屋のものや、傷付いた先生の体などがみるみるうちに治っていく。
そして、光が消えると完全に元通りになった。
すごいな…。素直に感心した。
しばらくすると、先生が目を覚ました。
「ああ、寝てたのか。いつ落ちたんだ…?」
先生と目が合う。
先生はすぐ近くまで歩いてくる。「太郎…、大変だったんだな。イジメられてるのに、気付いてやれなくて悪かったな。もうあんなこと、起きないようにするからな。」
俺はすぐに太郎と変わる。
「…はい。」
太郎はポロポロと涙を流した。
その様子を見ながら太郎の中で神様と話す。
「やにスムーズに話が進んでるが、なにかしたのか?」
「まあ、砂ぼこりのガルマの部分を忘れさせて、それから色々少し分かりやすく記憶を修正しただけだ。大筋は同じだよ。」
なるほど、つまり、イメージとしては、写真を撮って、ニキビの部分だけ消してから現像するようなもんか。
金髪たちも目を覚ます。
先生は金髪たちのところに歩いていき、そして、全員に拳骨を食らわせた。
ガツンッ!とすさまじい音が響き渡り金髪たちか悶絶する。
すごい威力だ。えっ、もう砂ぼこり憑いてないんだよな…?
その疑問には太郎が答えをくれた。
「上杉先生は、拳骨の上杉って言われてて、噂では、なんでも、鉄筋コンクリートの柱を拳骨で破砕したことがあるらしい。」
嘘か本当わからないけどね。と言って笑った。
まあ、あの威力の拳骨食らったら、悪さする気も失せるだろうな…。数値にしたら、430はありそうだ。
金髪たちは呻きながら「ごめんなさい。ごめんなさい。」と繰り返している。
じゃあ、俺も便乗して、深淵の踵落とし(天高くに飛び上がり、自然落下を用いて回転しながら闇属性の踵落としを浴びせる技)でも食らわせてくるか…。
しかし、それは太郎に、「いや!いいから!僕は大丈夫だからやめて!」と言われたので叶わなかった。
家に帰ると、夜、俊郎から電話がかかってきた。
「あ、もしもし、太郎……。」
俊郎の声のトーンが暗い。
意を決したように俊郎が口を開く。
「あのさ、昼前、勇者とかなんとか言ってたけど……、あの……、あいつらのことで思い詰めてんなら明日、一緒に職員室まで行ってやろうか?」
あいつらとは、金髪たちのことだろう。どうやら太郎がイジメで思い詰めて勇者がうんぬんと妄想し始めたとか勘違いしてるんだろう。大変まともな感性だ。
太郎は話す。
「俊郎くん。あの。それならもう平気だよ。終わったから。今日、先生に話をしたんだ。ちゃんとわかってくれた。」
そう太郎が言うと、「そうなのか。今までなにもしてやんなくてごめんな。あいつらに仕返しされるのが怖くてさ。ごめんな。」と謝る。
「いや、いいんだよ。気にしてくれてありがとう。」
太郎は俊郎に礼を言う。
二人はこのあと夜、遅くまで語り続けていた。
次の日から、もう金髪たちは太郎に絡んでこなかった。
ホームルームの時間。
先生から突然の発表があった。
「えっ〜。今日は転校生が来ています。」
クラスがざわつく。
「え〜っ!?聞いてねぇ!」
「初耳だぞ!!」
「かわいい子ですか!?」
先生はざわつくクラスを諌める。「え〜っ。静粛になさい。しかも、転校生、三人!」
さらにざわつく。
「さあ、皆さん入ってきて。」
三人の生徒が入ってきた。
「では皆さん。自己紹介をどうぞ。右端の、君から!」
あっ、はい。と言って自己紹介を始める。
「鈴木 義人です。よろしく。」
パチパチパチッ!
「佐原 重造です。よろしくお願いいたします。」
パチパチパチッ!
「赤沢 深雪です。よろしくお願いします。」
パチパチパチッ!
んっ……?えっ……?
全員聞き覚えのある名前で俺は驚いた。しかも、全員、軽くこっちを見てる。
先生が、「じゃあ席は、一番後ろに机3つ並べるか!」
そういって先生は机を取ってきて最終列のさらに後ろに3つの机を並べた。
太郎の席は一番後ろの真ん中にある。
ちょうど、三人は太郎の真後ろ、斜め左後ろ、斜め右後ろについた。
たんたんと、肩を叩かれる。
「今度はクラスメイトとしてよろしく。」
…やはりそうか…。
魔物だけじゃなかったんだな。
そういえば、魔物たちを何体かどうのって神様言ってたな。
まだまだ終わらなそうだな。
トゥ ビー コンテニュー…?