4話 弟子と精霊、力の定義
クレア視点です。
こっそりと前話を手直ししてます。流れは変わってません。
気を抜けば、今にも泣きわめいてしまいそうだった。
この修行を始めて、すでに二か月……。
……進展は、皆無だった。
はじめは色々と考えていた。
師匠が言うならば、私にできないことではないはず……と、様々に試行錯誤を行って……。
けれど、何をしても滝を凍らせることはできない。
時間が経つにつれて、浮き彫りになっていくのは……。
――ただただ、私が力不足ということ。
日々が過ぎていっても、水の流れが停まることは一秒もなかった。
一日の終わりを告げる夕日が滝に透けて、水しぶきがキラキラと紅に輝く。
それを見るたびに、私の心は悲しみが募った。
どうあがいても、私にはできないのではないか……。
そんな思いに囚われてしまうようになっていく。
でも――。
「あきらめ、られない……!」
私は、簡単にものを諦められるような人間ではないのだ。
祖国の存亡の危機だって、泥と血で汚れながら希望に組み付いていったのは、他ならぬ私だった。
だから、諦めるわけにはいかない。
諦めればそこで終わりだ……けれど諦めなければ、それがどれほど小さくとも可能性はあるのだから。
でも――。
「……なにを、どう……すればいいのだ…………」
今までは師匠が、寄り添うように私を教え導いていてくれた。
だが、今回に関しては師匠の手助けはないのだ。
だから、この困難は、一人で乗り越えなければならない。
***
『僕でも……教えられるものでは、ないんだ』
なんの糸口も見えないままに迷走している私に、師匠は私の頭に手を置きながら、慈しむような目をしてそれだけを言葉にした。
そのとき私は、頭を優しく撫でてくれる師匠の手の温もりに安堵していた。
しかし同時に、心もとなさも等しく感じていた……。
師匠は、私がなんらかのものを掴むことに期待しているようだった。
それがなんなのかは……私自身が掴み取ってから、知らなければならないのだろう。
***
ぐるぐると、焦りや不安が胸の中で渦を巻いていた。
そんな私に、すぐそばから鈴の音を鳴らすような声がかけられる。
「……ねえ、クレア」
横を向くといつも通り、私の相棒であるフィアルテがいた。
――いや、いつものフィアルテではなかった。
いつも通りのぼんやりとした様子の瞳のはずなのに、なぜだか今の彼女からは圧倒されるような力を感じさせている。
そして、彼女の雰囲気に呑まれて何も言葉を出せない私を余所に、滔々と話し始めた。
***
……ねえ、クレア。
……クレアが頑張ってることは、ちゃんと知っているよ。
……クレアは今、たった一人で頑張っているよね。
……うん、それが正しいことであっぱれなことだって、わかってるよ。
……でもね、クレア。
……焦って、不安で、寂しくて、苦しくて、辛いことも。
……わたしには、わかってるんだよ。
……ねえ、クレア。
……わたしは、クレアのなに?
……そう、わたしはクレアの相棒。
……そして、なによりも固い契約を交わした相手なんだよ。
……あなたの、焦りも不安も、苦しさも辛さも。
……寂しさ、だって。
……ぜんぶ、ぜんぶ、わたしのものでも、あるんだよ。
……ねえ、クレア。
……わたしの契約者。
……あなたの焦りも、不安も、苦しさも、辛さも、わたしのもの。
……わたしの焦りは、不安は、苦しさは、辛さは、あなたのもの。
……二人なら、寂しさは半分こ。
……それが、相棒でしょう?
……だから、ねえ、クレア……!
……たった一人で、頑張るなんて、やめてよ……!!
……わたしと一緒に、がんばろうよ。
……どんなことだって、わたしとクレアなら、できるよ。
……ねえ、そうでしょう?
……わたしの、相棒。
***
フィアルテは、言葉の途中からすでに、自身の髪色と同じく露草色の美しい瞳からポロポロと涙を零していた。
そして、私は――――。
「……ぁ、ぐっ……ふっ……ああぁ……!」
涙がそれこそ滝のように、流れ落ちて。
「ひっく……ごめっ……ご、めん……ぁうあ……フィア、ルテ……」
息が詰まって、のどがつっかえて、舌が動かなくて……まともに口を動かすこともできなかった。
私は震えながら、フィアルテの小さな体を、やわらかく包むように胸元に抱きしめる。
どうして……。
どうして、彼女に言われるまで気づかなかったのだろう。
……私は、ただの独りよがりになっていたのだ。
ちょっとばかし魔法がうまくなったからって、調子に乗っていたのだろうか。
それだって、フィアルテと契約したからだというのに。
いきなりなにもかも一人でできるようになるとでも、思っていたのだろうか。
今までだって、必ず誰かの助けがあったというのに。
私とフィアルテは、そのまましばらく、泣き続けた。
「……ずいぶんと、遅くなったけれど」
さんざん泣いて、顔に涙の乾いた感触を残したままに、私はフィアルテに向き直った。
「私に、力を貸してくれないか。フィアルテ」
そうして、手を差し出した。
それを見ると、目元を真っ赤にしたフィアルテは微笑む。
「……しょうがないなぁ、クレアは」
そして、その小さな、小さな手を伸ばして――――。
「……わたしの力は、クレアの力で。クレアの力は、わたしの力だよ」
――――私の手に重ねたのだった。
「ありがとう……フィアルテ」
――私の、相棒。
そう、掴むべきものは、いつもすぐそばにあったのだ。
気を抜けば、また今にも涙が零れそうだった。
これからも拙作をよろしくお願いします。




