5話 賢者の観察、そして風呂
僕は、後ろにいた四人に向き直り、改めて観察する。
一人はおそらく戦士だ。
パーティ内で唯一の男で、年は四十になるかどうか。
身長は百八十センチメートル後半。腕の太さが細い女性の腰と同じほどに見えるまで、その躯体は鍛え上げられている。
短く刈り上げた茶髪に、精悍な顔つきだ。
装備は魔獣素材の大きな盾と全身鎧に片手剣。
次の一人は魔術師。
女性陣では最年長だろう、二十代中ごろ。
身長は百七十はないといったところ、ローブ越しにも分かるメリハリのついた体つきだ。
長い髪は緋色、顔だちも整っていて、切れ長の目が印象的。
装備は杖にローブ、胸当などで要所も覆っている。
さらに一人は、メイド?
十代後半くらいの女。
身長は百六十ほど、体つきはすらりとしている。
髪色は紺、肩口で切りそろえていて生真面目そうな、でもかわいらしい雰囲気だ。
装備はなぜかメイド服、ロングスカートに切り込みが深く入っていて似つかわしくない重厚な手袋をしている。
これは、目の動かし方や足運び的には斥候職を担っているのか……。
見たことがないタイプの変な人だ。
そして最後の一人はプリースト。
装備はそのまま神官服に立派な杖。
後ろ背にひとまとめにした髪は土にまみれているが輝く金色。目を見張るようなきれいな顔立ちをしている。
そして、身長は百五十ほどで華奢な体躯である。
年のころは十代前半。
つまり、少女だった。
こんな子供がここまで到達したのか!?
おそらく最年少記録、しかも少女だ。
僕は驚愕した。
「こんな子供がここまでくるとは……」
「小さいわねー」
「ウェルティナには言われたくないだろうさ」
「大きさじゃなくて年のことよ!!」
「ウェルティナに比べれば大抵年下さ」
「…………デリカシーのない男は死になさい」
肩に乗るウェルティナが耳をひねる。
「いた、痛い! ウェルティナごめん、ごめんって!」
耳がちぎれる!
一分ほどのすったもんだの末、ウェルティナの怒りの鉾は収まった。
気を取り直して、彼らを見た。
僕らの寸劇が彼らの魂を抜き取ったかのように、一様に口を開けて固まっていた。
やれやれ、こちらから投げかけないと埒が明かないか。
「さて、話は出来るかい? まずは君たちはどこの誰なのかな?」
僕が聞くと、戦士の人が警戒しながら魔術師に小声で尋ねた。
「デリア、どこの言葉か分かるか?」
「……これは、おそらく二つほどまえの時代の古語ね。意味はよく取れないわ」
デリアというらしい魔術師は言った。
あれ、もしかして僕の言葉遣いが古くてわからなかったのか……。
ウェルティナは「あちゃあ」とこぼした。
僕はとある理由でどんな言葉でも理解できる。
そのせいもあって言葉の違いにここまで気づけなかった。
僕と契約しているウェルティナも同様だ。
しかし、これは由由しきことだ。
僕がある魔法を使おう、と決心したとき。
プリーストの少女が僕に向かって跪いた。
突然のことに目を見開いていた他三人も、遅れてそれに続いた。
「古き言葉、をつかう、あなたさまは、この森に、すむ、賢者、さまなの、ですか?」
と、僕と同じ言葉遣いで言った。
あまりこう大層な扱いは好きじゃないんだけど、僕の経験上では仕方のないことと割り切ったほうが話が早い。流されているとも言う。
「そう呼ぶ人もいる」
答えると少女は感極まった様子で顔を上げて僕を見つめた。
「賢者さま、におねがい、したき、こと、があり、ます」
真剣な調子で言うが、こんなところでする話ではないだろう。
仕方がない、家にあげるか。
「そう急がないでいい。僕の家で話そう」
一行が何か反応する前に、ウェルティナに合図し転移した。
「こ、これはっ!?」
「転移!?」
「殿下!」
「きゃあ!」
***
視界の暗転と浮遊感を感じたら、もう僕の家の前だ。
ここは安全だ。落ち着いて話もできる。
「ここは!」
「これが、伝説の空間魔法……」
「ご無事ですか殿下?」
「う、うん。私は大丈夫」
連れてきた面々は落ち着きがない。
さて、まずは言葉を合わせよう。
「ウェルティナ、まず言葉を調整するよ」
「それがいいわ。手早くやってお風呂にでも放り込みましょ」
そうだな、家を泥と砂埃まみれにされるのは嫌だ。
僕は一番近くにいたプリーストに歩み寄る。
「少し、頭に触れてもいいかな?」
「は、はい!? ……あたま?」
まあ、一応尋ねたからいいか。
右手を少女の頭に置く。
「な、なっな!?」
少女はうろたえて、周りは手を出しかねておろおろしていた。
ウェルティナは低い声でつぶやく。
「なんで、女の子なのかしら……、しかも一番若い子。やっぱり男はそうなのね」
まじめな様子で変なことを言っていたので無視した。
突っ込んだら逆に危ない。
一瞬で済むから、全員に左手でそのままでいるようにジェスチャーする。
「≪言語、調律≫」
根底は同じ言語のはずだから、僕の言葉を今の主流に合わせる。
調律の魔法は本来の使い方ではないが、そこは応用だ。
情報を得て、ある言葉は置き換えて新しい言葉と文法を追加する。
数秒で終わったので、手をどかす。
「ふむ、これできちんと会話できるかな? 僕の言葉が通じているかい?」
反応が返ってこない。
「おーい、聞こえてないのかい?」
「は、はい! 聞こえています」
お、プリーストは切り替えが早いな。
「僕の言葉は、君に手伝ってもらって今風に調整した。これで会話に問題はないだろう?」
唖然とした様子の四人だったが、僕としては話を先に進めたい。
無言は肯定と見なす。
「さて、家で話を聞きたいけど君たちは汚れている。落ち着くためにも、まずは風呂にでも入ってもらいたい」
僕の唐突な提案を聞いてから一呼吸遅れて、四人はようやくまともに動き出した。
メイド(仮)が言う。
「我々の恰好で敷居をまたぐのは失礼でしょうし、殿下が土汚れのままというのはいただけません。ここはご厚意に甘えましょう」
戦士と魔術師も言う。
「確かに、汗を流したほうが落ち着けるでしょう」
「わたしもできることなら湯あみしたいです、汗臭いのはちょっと」
プリースト、殿下となれば王族なのか、は少し考えてから言った。
「わかりました。ご厚意にあずかりたいと思います。賢者様、お話はそれからさせていただくということでよろしいでしょうか?」
「まあ、聞くだけなら大したことじゃないからね」
「ありがとうございます。いろいろとお聞きしたいこともあるのですが……」
彼女は、僕の顔やウェルティナを見つめながら言った。
内容は大方予想がつく。
「まあ、ほどほどなら答えるさ。まずは、風呂に案内しよう。ついてきなさい」
家の隣にある小屋に向かう。
この小屋は脱衣所と室内風呂がある。
そして、室内風呂から外にでると露店風呂があり目の前の泉を一望できる。
戦士は外風呂、女性たちは内風呂でいいだろう。
水は魔法で地下水の汲み上げを自動で行っている。
かつ加熱の魔法が付与された配管を通ってくるのでお湯は適温だ。
風呂水はそれをかけ流している。
排水は泉から出ている沢に流している。
「ここが風呂だ。この扉の先は脱衣所、さらに中の扉を開けると内風呂がある。内風呂には外風呂に出る扉がある。今回は内風呂を女性が、外風呂を男性に使ってもらおう。男のあんたは脱衣所なんてなくても大丈夫だろう、外から露天風呂に回って入ってくれ。体を洗うためのお湯が出る管は内にも外にもあるから問題ない。管は口の部分に魔法陣があるからそれに触れてくれ。一度触るとお湯が出る、もう一度触ると止まるようになっている」
一気に話すと疲れるな。
しかし、自慢の風呂を解説もとい自慢できるのはいい気分だ。
「なにか、質問は?」
一行は首を振る。
「ないなら入ってくれ。自慢の風呂だからな、ゆっくり堪能してくれ。ああ、替えの服がないか。今、浄化しよう」
「≪浄化≫」
浄化の魔法で体、服と持ち物も全員きれいさっぱりとした。
「さあ、どうぞ」
僕が言うと、きれいになった手足を翻したり首を伸ばして後ろ背を確認していた一行が言った。
「「「「(お)風呂に入る意味はないのでは…………」」」」
分かってないな。
「魔法できれいにできるのは、外だけさ。心を整えるには風呂が一番なんだ」
体を清め、湯に浸かるというのは精神の淀みもほぐして洗い流す。
「……なるほど、わかりました。お湯をいただきます」
しみじみと、プリーストは頷いた。
「じゃあ、僕は家で待っているよ」
「あとでね」
僕が踵を返すと、ウェルティナは振り向いて手を振りながら言った。
王女は13歳 青い
メイドは18歳 ぴっちぴち
魔術師は26歳 むんむん
戦士は35歳 老け顔
ウェルティナはうわなにをするくぁwせdrftgyふじこlp