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停滞の賢者  作者: 楯川けんいち
囚われの精霊編
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16話 賢者の追想

 いま目の前で起こったことに、僕は開いた口が塞がらなかった。

 

 クレアと、フィアルテ。

 彼女たちは契約を交わしたのだ。

 ――まさに僕と、ウェルティナのように。

 

「うわーお! クレアが契りを結ぶとは、驚きだねー」


 ベーチェルは、クルクルと飛びながら興奮した様子で言った。

 

 全くだ……。

 まさか、こんなことになるとは……誰が予想できただろうか。

 

「け、賢者様、ということは殿下は……! 殿下は、精霊様と契約したということですか……!?」


 アイラは、オロオロとしながら僕に詰め寄るように確認する。

 

 その様子に、僕はようやく硬直が解ける。

 自分よりひどい様子の人を見ると、逆に冷静になるものだ……。

 

「……ああ、いまクレアは水の精霊と契約を結んだ」


「なんということでしょう……! 殿下は、もう最高です……!!」


 アイラはフラフラとしながら、クレアの方に向かっていった。

 ……大丈夫だろうか、いろいろな意味で。

 

 ベーチェルもそれについていく。


 

 僕はというと、やはり今起こったことについて思うところが多くあった。


 水の精霊、名はフィアルテか……。

 

 契約は、余人がどうこうできるものではない。

 その精霊と、選ばれた者だけの領域。

 たとえ僕がクレアの師匠であっても、精霊との契約の先人であっても、そこに踏み入ることはできない。

 

 フィアルテがクレアを呼んだ(・・・)とき、僕は窓を消し去ったり魔法陣を無効化したりして、手助けした。

 二人の心は、すでに共鳴しあっていたからだ。

 

 ……あのとき僕たちの声は、クレアに全く届いていなかった。

 契約が成るまでは、あの状態からは戻ってこれない。

 それは、僕も経験済みだ。

 

 ふと気づくと、肩に慣れた重みがかかった。

 

「……師匠が師匠なら、弟子も弟子ね。……いいえ、この師匠にして、あの弟子かしら」


 クレアたちをジッと見つめていたウェルティナが、僕にそう言う。

 

「……懐かしい光景だな、ウェルティナ」


 そう今の彼女たちは、まるで昔の僕たちのようだ。

 

 彼女たちの方が、よっぽど絵になっていると思うが。

 ……まあ、僕とクレアでは役者が違う。

 

「そうかしら、あたしは昨日のことのように憶えているけど……。もう、忘れそう?」


 随分と、昔のことのはずだけどな……。

 だが、忘れるわけはない。


「忘れるものか……。いまの僕は、あのときから始まったと言ってもいいのだから」


 あの出会いがあったから、いまの僕に続いている。

 

「…………ねえ、後悔はない……?」


 ウェルティナらしくもない、小さな声で僕に問う。

 

「……何言ってるんだ、ウェルティナ。僕の心は知っているだろう?」


 ――僕たちの心は、常に共にあるのだから。

 

 それが、契約を交わすということ。

 そして僕は、いつだってこう思っている。


 君は、僕にとっての(さいわ)いだ――と。


 それは、なにがあっても変わらないだろう。

 

「ええ、そうね……! 私もよ!!」


 ウェルティナは満面の笑みを見せると、いつものように快活に言った。

 そして、クレアたちの方に飛んでいく。

 

 僕もそちらを見ると……契約時の厳かな雰囲気はどこかへと消えたのか、という光景があった。

 

 クレアは先ほどから変わらずに膝立ちで、眠りに落ちたフィアルテを大事そうに抱えたままだ。


 アイラはそのそばで行ったり来たりしながら「殿下が精霊様と……」「国王夫妻がどれほど驚くか……」「デリアは近づかせないように……」などと言っている。

 当事者のクレアは、落ち着いているというのに……このメイドは……。

 いや……クレアのことだからか……。

 

 ベーチェルは新しいお仲間である水の精霊、フィアルテを見ていた。

 そこにいまは、ウェルティナも加わっている。

 二人で、わーきゃーと騒いでいた。

 

 ……なんでこうなったのやら。


 だが、ここには僕を含めて、人と精霊が同数いることになる。

 その中に、精霊と契約しているのが二組。

 

 これはどれほどの奇跡なのだろうか……。

 

 

 精霊との契約は、互いを強く結びつかせるものだ。

 互いの間に繋がりが生まれ、心を共にする存在とする。

 

 まず稀にだって、行われることではない。

 なぜなら、これは精霊が心から望まない限り起こらないことだから。

 

 精霊が繋がりを求めると、それに応えられる相手が選ばれる。

 

 そして選ばれた者は、そのとき必ず精霊の元に現れるのだ。

 ――まるで、世界が導くように。

 

 もし世界に意志があるのなら、我が子たる精霊の願いを聞き届けることは必然なのかもしれない。

 

 しかし、それは言い換えれば――。

 運命、と言えるものなのかもしれない。

 

 

 僕には似合わない言葉だな、と思わず苦笑いが浮かんだ。

 

 

 

 

 

 

 

これからも拙作をよろしくお願いします。

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