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停滞の賢者  作者: 楯川けんいち
囚われの精霊編
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14話 賢者の理屈

 この子たちは、なぜこんな酷い状況に置かれているのか。

 

 人身売買か、魔法の人体実験か……。

 どうにせよ、違法行為だ。

 そんな目的なんて知りたくもなし、どうでもいい。

 

 問題はなぜここにいるのか、だ。

 

 誘拐されたのか?

 いや違うと、僕は考える。

 

 おそらく――。


 彼らは、売られたのだ。

 他ならぬ彼らの家族によって。

 

 

 この北の大陸は、厳しい土地だ。

 農耕に適した時期は短く、土も痩せている。

 

 そして、冬は長い。

 

 その冬を前にして、十分な蓄えができないこともあるのだ。

 蓄えがなければ、冬を越すことはできない。

 

 そうした村や家というのは、どうするのか。

 もちろん、食糧を買う金銭などない。

 

 簡単な答えだ。

 食糧を消費する要素を、減らせばいい。

 

 つまり……口減らしだ。

 

 そのためにどうするのか。

 

 昔は、ひどいものだったそうだ。

 山に捨てる、豊作祈願の生け贄とする、といったことが普通に行われていたらしい。

 

 エリウセリア皇国が建国されてからは、一応の対応策がとられている。

 もちろん国としては、人を減らすことはそのまま国力の低下に直結するのだから当たり前だ。

 

 とはいっても、一応だ。

 なにせ国としても、それほど裕福なわけではない。

 

 口減らしにされる者を、微々たる金で買い集めて公共事業の労働力にしているのだ。

 

 正直これも、「昔よりはマシ」というだけのように思う。

 なにせ売られた者は、ほとんどその一生を厳しい労働に費やされる。

 

 死なないほどに、飢えず、凍えない。

 保障されているのは、それだけだ。

 

 しかし家に残しておくわけにはいかないから、国に売って少額でも金銭を得る。

 これが、エリウセリア皇国の現状。

 

 そしてこの子どもたちは、おそらく口減らしに選ばれたのだ。

 それだけでも悲運なことだが、そこでさらに国ではなく非合法組織に売られたのだろう。

 

 売る側としてみればどちらでも、もう会わないことに変わりはない。

 ならば、少しでも高く売れれば……。

 そう考えてしまう者が、いるのだ。

 

 売られる者の先のことなど、考えもせずに。

 

 ……いや、もしかしたら考えようとしていないのか。

 

 非合法の奴らは、確かに国よりも多少上乗せされた金を出すかもしれない。

 だが売られた者の行く末は、悲惨という一言では表せないだろう。

 

 なにせ国が禁じているにも関わらず、人買いを行っているのだ。

 まず、まともな奴らでない。

 

 そんな奴らに売られた者がどうなるのか……。

 考えなくても、ろくなものではないと分かる。

 

 

 そうすると彼らの運は、悪くはあるが最悪ではなかったのだ。

 僕たちが来たのだから。

 

 ついでとはいえ、関わったからには無責任な真似はできない。

 

 なにせ、僕は臆病だから。

 

 もし見捨てれば――。

 楽しいことを、楽しく思えないだろう。

 嬉しいことを、嬉しく思えないだろう。

 どんな食事も、美味しいと思えなくなるだろう。

 

 そして――。

 なにより今は、弟子に胸を誇れなくなる。

 

 だから僕は、彼らを助けるのだ。

 

 

 ***

 

 

 そういうことを、最後の方は伏せてクレアたちに話した。


「子供たちの事情は、おそらくはそんなところだろう」


「……そうなの、ですか」


 クレアは、暗い顔で部屋の子供たちを見る。


「なんにせよ、貧しいというのは一番どうしようもない。人は食べるものがなければ、なにもできない」


 ――そして、何も始まらない。

 食べるものに余裕が生まれなければ、他のものなど生み出されない。

 そんな余力はないのだから。

 だからいつまでたっても、貧しさは続いていく。

 

「ファルシウェンは、豊かな国なのですね」

 

 わたくし、初めて実感しました――とアイラは言った。

 それに僕は、頷く。

 

「そうだな。ここと比べればずっと豊かだ」

 

 魔の森に接しているように、ファルシウェン王国は多様な植生があり、土地も肥えている。

 飢えることも、凍えることもずっと少ないだろう。

 

「それでー、この子たちのことはわかったけど。その女の子はー?」

 

 僕はまだドワーフの少女を抱えていた。

 

 ……彼女は、また違った理由だろう。

 そして調べたところ、ドワーフは彼女一人のみだった。

 

「この子はドワーフだ。耳を見てみるといい」


「ええっ! あの鍛冶に長けた種族のドワーフですか!? 私はじめて見ました!」


 僕が言うと、クレアはキラキラとした目をドワーフの少女に近づける。

 そのまま、じっくりと見始めた。

 

「あの物語にでてくるドワーフですか……架空のものかと思っていました」


 アイラも、クレアの上から覗き込む。

 

「僕たちの住む大陸には、ほとんどいないだろうからね……。彼らドワーフは、質の良い金属が掘れる山の近くに里をつくる。そして、そこからはあまり出てこない出不精(でぶしょう)な性質があるんだ」


「なるほど。では、この北の大陸にはドワーフの里があるということですか?」


 クレアは、少女の尖った耳を指先でつつく。


「そのはずだ。そして彼らは、仲間意識が強い。身内を売るようなことはありえないし、そもそもドワーフの打った道具は価値が高い。だから彼女がここにいるのには、なにか他の子とは違った理由があるはずだ」


「なら、里に帰してあげないといけませんね!」


 そう、その通りだ。

 けれど……。

 

「ああ……今度はドワーフの里を探さないとな……」


 やるべきことが、かなり増えた。

 ……憂鬱だ、はあ。

 

「けどその前に、まだ一番の問題が残っているでしょう? ほら下むいてないで、さっさと行きましょう!」


 内心を読んだのか、ウェルティナに叱咤される。

 そうだ、今やるべきことがある。

 

 念のため寝ている子供たちを一か所に集めて、結界を張った。

 

 そしてクレアたちに向き直ると、僕は言う。

 

「さあ、精霊を助けいこう。反応はすぐそこだ」


 僕たちは吹き飛んだ扉を踏み、先へと進んだ。

 

 

 

 

 


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