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停滞の賢者  作者: 楯川けんいち
囚われの精霊編
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12話 賢者の発見

 僕たちがソレを発見したのは果たして偶然か、もしくは必然か――。


 ただ、ひとつ言えることは。


 ――――僕は、機嫌が悪かった。



 ***

 

 

 僕の魔法によると、北の大陸には精霊が五体いた。

 そのうち二体は、ウェルティナとベーチェルだ。

 よって元からいた、というか居場所が動いていないのは三体。

 

 この数は、多くもなく少なくもないといったところだ。

 精霊は世界全体に三桁はいないだろう存在だから。


 ベーチェルがそうであるように、精霊は気ままに動いているやつも多い。

 気に入った居場所があったり、動き回るのが嫌いだったりすると定住している。

 まあ極々稀に、ウェルティナのように契約を交わしている精霊というのもある。



 そういうわけで、僕たちは最も近い反応の場所へ向かうことにしたのだ。

 もちろん、転移で。

 だが、直接反応のあった地点に転移するのは危険だ。

 もし地面や岩、池や湖の中に転移したら大変ことになる。

 

 ……僕なら、大変で済むことではあるけど。

 今回は連れも多いし、できるなら避けるべきだ。


 だから反応の地点の上空、どんな山も届かない高さに転移する。

 

 そこまでの高さになると、やはり寒さと空気の薄さが問題になる。

 

 だが知っての通り、寒さは僕たちには障害にならない。

 空気は、足場としてのものを拡張した立方体の結界を張って、その中で調整すればいい。

 

 また、この高さではドラゴンと出くわすこともありえる

 しかし、それは無視していいほどの確率だし、出くわしても結界で安全は確保できる。


 それで、問題はなかった。

 

 …………一人を除いて。

 その一名、高所恐怖症のメイド――アイラ――だけは問題があった。

 

 転移すると――。

 アイラは、クレアに縋り付いた。

 目をきつく閉じて、ガクガクと震えて叫ぶ。

 

「で、でで、でんか! こ、これ、この前よりずっと、たがい、高いのですけどーーーー!!」


 自分よりも小柄なクレアの腰に抱き着き、いやいやとしている。

 クレアは、――よしよしと幼子をあやすように――アイラの頭を撫でて慰めていた。

 

 まったく、どっちが年上なのやら……。

 いや、主従関係という意味では正しい光景なのだろうか……?

 

 僕はそんな考えが浮かんだが、女性の醜態(しゅうたい)を眺める趣味はないので早々と行動に移る。

 移ろうとしたが……。

 

「うーむ、どうやら反応は火口の中だな……」


 そう、最も近かった反応があったのは山。

 (くだん)の山は、僕たちが一晩過ごしたところにあった山も連なっている山脈、その中央部にあるものだった。

 それでも魔の森のとばくちからファルシウェン王国王都よりも距離は少し遠い。

 

 その山の頂上の、さらに上に僕たちはいる。

 そして精霊の反応は真下、火口の中だった。

 

 ……これは、まず白だな。

 そうは思うが、一応の確認はするとして……。


 確認は、精霊に頼もう。

 それなら一瞬で終わる。

 

「ベーチェル。この下の火口にいる精霊に会って、話してきてくれ」


「ええー。ぼくひとりー?」


 ベーチェルは、不満な様子をそのままにぶつけてくる。

 だが、ベーチェルが一番速くて身軽だ。

 僕は重ねて頼む。


「そこを頼むよ」


「ふふふー、しょうがないなー賢者は。じゃあー、行ってきてあげるよー」


 僕が強く頼むと、ベーチェルは得意げな顔になって火口に急降下していく。

 こういうときだけは、ベーチェルもかわいらしいものだ。

 

 クレアとアイラに向き直ると、アイラはまだ目も開けられていなかった。

 さすがに気の毒に思い、僕はアイラに助言をする。

 

「アイラ、下を見なければ意外と大丈夫だ。今日は昨日と打って変わった晴天で、この眺めは絶景だよ」


 僕の肩にいるウェルティナが頷く。


「そうね、とってもすがすがしいわ」


 今日は昨日の分厚い雪雲は消え、青空が広がっていた。

 連なる山々は厳かで、雪で白くまぶされた大地は壮観だ。

 

 いつまでも見続けられるような光景が、そこにはあった。

 

「そうだぞ、アイラ。師匠の言う通り、この景色は見なければ一生の損だ」


 クレアも、アイラの頭を抱えながら景色に見入っている。

 

「で、でもこれ、もし下に落ちたら形ものこりませんよ……! そんななかで景色を楽しむなんて、わ、わたくしにはむりです……!」


 ウェルティナがアイラの肩に移動する。


「人は、簡単に浮けないものね」


 たしかに……そう聞くと普通の人には難しいかもしれない。

 すると慣れている僕は良いとして、クレアはとても肝が据わっていることになる。

 

 陽光に照らされて、眩く輝く金髪の少女を、僕は見る。

 

 外見からでは、深窓の令嬢といっても違和感はないだろう。

 しかしその華奢な体に見合わぬ、大きな勇気をもっていることは明らかだ。

 

 僕は、フッと息を吐く。

 

 まったく、僕としたことが……。

 外見と年相応の仕草ばかりが意識にあったが、クレアはもともと強い子なのだ。

 

 ――なにせ彼女は、魔の森に突撃してきたのだから。

 

 うんうん、と頷きながら再認識していると、ふと思った。

 

 ――それならアイラも、同じなのでは……?

 

 アイラも魔の森に踏み入った人間だ……。

 

 ……ということは、やっぱり人それぞれということか。


 僕が現実のままならなさを噛みしめていると、ベーチェルが戻ってきた。

 

「もどったよー」


「おかえり、どうだったベーチェル?」


「下にいたのはねー、火の精霊だったよ。とっても熱い場所でねー、居心地がいいみたい」


「ということは、とくに問題はなかったんだな?」


「うんー。変わったことはー、とくにないって」


「そうか、お疲れさま」


「なんのなんのー。賢者のためなら朝飯まえさー」

 

 やはり、ここは問題なし。

 なら次に行こう。

 

 僕は、ウェルティナに言う。

 

「ウェルティナ。次の場所を指定するから、頼む」


「わかったわ。ほらアイラ、次にいくわよ」

 

 いまだに、クレアを抱きしめて離さないアイラの頬をぺしりと叩く。

 クレアも困ったように笑っている。

 

 僕はウェルティナと、転移する位置の情報を共有した。

 

「いくわよ!」



 ***

 

 

 次に転移したのは、平野だった。

 遠くに、先ほどの山脈がかすかに見える。

 

 僕は、チラリとクレアとアイラの様子を伺った。

 

「も、もう、駄目です。で、殿下、わたくしはも、もう……」


「アイラ! どうしてだ、なにがダメなのだ? 落ちることは絶対ないぞ」


「……そ、そ」


「そ?」


「そ、そそうしそうですぅ……!」


「なに!?」


 そんな小芝居のようなやりとりが起こっていた……。

 クレアは「師匠、どうしましょう!?」というの焦りがそのまま伝わるような顔を、僕に向ける。

 

 さて、どうしよう……。

 

 下を見ると、太い川が一本流れていた。

 その流れに沿うように、森や林がある。

 

 とりあえず、一回下りよう。

 

 このままだと局所的な雨が降ることになってしまう。

 それは、誰にとっても不幸なことになるだろう。

 

「ウェルティナ! あの林のまえに下ろしてくれ!」

 

 僕は、適当な林の前の原っぱを指さして言った。

 

「アイラ我慢してね! いくわよ!」


 視界の暗転と浮遊感の後、僕たちは地面の上に立っていた。

 

「さあ、アイラ。僕はここにいるから、そのへんの影で済ませてくるんだ。 帰ってきたら≪浄化≫をかけてあげるから問題ない!」


 そう言うと、なぜか場に冷ややかな空気が下りた。

 

 アイラは我慢のためか、顔を真っ赤にすると涙を目にためながら林に駆けていった。

 

「あんたねぇ……! 問題しかない発言よ!!」


 ウェルティナが激昂する。

 

「うーん。それはねー、ないよ賢者」


 ベーチェルはぞんざいに首を振る。

 

「師匠……」


 クレアは、悲し気に僕を見つめる。

 ……クレア、までもが。

 

「女の子になんてこと言うの、アイラかわいそうに……! このデリカシーのかけらもない、お馬鹿は!!」


 グリッと僕の耳をウェルティナがひねった。

 いたっっ!

 

「いやいや、ウェルティナ! 僕は間違ったことなんて一つも言っていないぞ!」


「間違っているかどうかなんて、デリカシーには関係ないわ!!」


 うわー、理不尽。


 ……だがクレアはいまだに、僕を同じ目で見続けている。

 僕はそれに、激しく衝撃を受けていた。


 なのでしばしの間、ウェルティナの暴虐を甘んじて受けた。

 

 

 ……その後、戻ってきたアイラはまだ顔を赤くしていた。

 スカートの裾を強く握って目元を潤ませながら、僕を上目使いに睨んでいた。

 

 それは僕が、≪浄化≫をかけても変わらないままだった。

 

 なぜだ……?

 

 


 そんなことがあったが、僕たちは二つ目の精霊の反応の元に向かう。


 そこには――。

 粗末な小屋があった。

 反応は、その小屋の下を指していた。

 

 とても、(いぶか)しい空気が辺りに漂っていた。


 ――これは、黒だ。

 僕は間違いなく、そう感じた。

 

 そして僕たちはそこに踏み入り、ソレを発見した。

 

 

 

 

 


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